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猫に九生②

 二回目は、旅人。
世界中を飛び回り、様々なものを目に映す。コバルトブルーの海。赤青黄、何色でもいそうな魚たち。小鳥は囀り、蝶が舞う。
世界には壁も天井もなく、底抜けに美しいのだと知った。
「マオ、スモモの実やるよ。真っ赤に熟れて食べ頃だ。甘酸っぱくて美味しいんだぜ。」
そう言ってにかっと笑う彼。
いつの間にか行動を共にするようになった。
私の手を引いて、様々な場所に連れて行ってくれる。
「俺ァちゃんと勉強してみてえ。旅をして危険な目に逢う度に思うぜ。頭が良ければ、偉くなれる。そしたら、腹が減ることも理不尽なことも無いんだろう・・・ってな。」
くちゃくちゃと大きく咀嚼しながら、伏目がちに彼は呟く。
「俺、きっと馬鹿やってすぐ死んじまうと思うけど、マオは違う。お前は賢いから、勉強して偉くなって、美味しいもの、たらふく食べるんだぞ。」
それから暫くして彼は帰ってこなくなった。
しゃくりと音を鳴らしてスモモの実を頬張る。潤沢な果汁が口いっぱいに広がる。でも、一人で食べるとなんだか酸っぱくて。私は命が九つあるから、どうなってもよかったのに。彼は私を連れて行ってはくれなかった。
『私の命、あなたにあげる。』

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