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誰もが出来る小さな活動の連続〜建築学生のニュータウン移住レポート〜

高齢化と同時に空き家が課題となっているニュータウンに実際に住みながら、自らのスキルを生かしてまちづくりに参加する建築学生の小西さんと永田さん。

社会課題があふれる現代では、学生の学びの場も社会をフィールドとした実践的な学びへと変化しつつあります。今回は、新たな土地に移住した学生が、役割をみつけ、地域の一員としての活動を展開していく様子から、社会との新たな関わり方を学びます。

「社会課題を解決しよう!」という大きな目的意識からではなく、誰でもできる小さな活動が連続していくことが、結果的に独自性のある活動になる。

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学生ひとりを独立した起業家に育てる

VUILDがコロナ流行の真っ只中の2020年5月にリリースした、日本初のクラウドプレカットサービス「EMARF」。工房や在庫を持たずに、作成したデータの加工発注をクラウド上で行えて、加工された部材が自宅に届くサービスです。だからこそ、こんな状況でも学生にものづくりを続けて欲しい、そして「学生ひとりを独立した起業家に育てる」という意図も込めて、「EMARF学生アンバサー」という企画を行いました。これは、選抜された学生アンバサダーに7月から10月の3ヶ月間「EMARF」を無料で利用していただきながら、その様子を発信してもらう試みです。

住んだからこそ気がついた、街の課題と魅力

今回ご紹介する小西さんと永田さんも、EMARFを活用しながら、移住先である埼玉県の鳩山ニュータウンにて活動を展開しています。

▷「運ぶ受付」プロジェクトの概要を教えてください。

鳩山ニュータウン(以下鳩山NT)に分散する住民の魅力をより広く発信するために、積極的な住民の活動を受け付け、運び、受け渡すことができる販売・交換のためのプラットフォームが「運ぶ受付」プロジェクトです。移動型什器と共に実際に町で活動するというものです。この「移動型什器=運ぶ受付」を、埼玉県のニュータウンに住みながら、VUILDのクラウドサービスEMARFを用いて制作しました。

このプロジェクトが生まれるまでに、どんな背景・経緯があったか教えてください。

二人(小西さん、永田さん)とも2020年4月に鳩山NTに移住し、学生シェアハウスで生活を開始しました。一方で突然住み始めたために、近隣住民からは「どんな人達が引っ越してきたのか」と尋ねられる事がありました。そのため、まずは自己紹介チラシを作り、配って回るという小さな活動から始めました。

チラシ配り

△チラシ配り

そこから庭先での畑づくりや同居人の韓国人留学生ダソルさんを中心とした韓国語講座など、自分達で自発的な活動を行っていくと、住民とのコミュニケーションが発生するということがわかってきました。

韓国語講座

△韓国語講座

住み始めてみると、鳩山NTはハンドメイドのクラフトや野菜販売など、自発的な活動を行う住民が多く存在し、NTの公共施設である鳩山町コミュニティ・マルシェ(以下、マルシェ)はその拠点となっていることがわかってきました。そこで、マルシェだけでなく鳩山NT全体でどのような事が起こっているかを調査すべく、フィールドワークを実施しました。実際に町を歩いてみると、課題となっている空き地や空き家などが散見され、26個存在する公園は場所によっては管理が行き届きにくく使われにくい現状が見受けられました。

マルシェでの野菜出品

△マルシェの出品野菜

一方で、分譲である広い敷地を活かした丁寧な庭仕事や、住民同士がお互いにわかる距離感だからこそ成立する物々交換などの住民それぞれの活動の様子がありました。また食品・日用品の移動販売車が来ており、移動が難しくなった高齢者が依頼しているという状況でした。

藤棚

△広い敷地を活かした藤棚

見えてきた魅力と課題

「人」という面では、①高齢者の中でも、スキルを持った人達は時間やエネルギーがあり、活動的な人が多い。一方で、②移動が困難な高齢者が増えていること。また「場所」という面では、①野菜やクラフト販売など、住民の活動が集積するマルシェが活気づいている、一方で②公園等、現状使われにくくなっている場所が増えていました。

 そういった背景から、活動的な人が多いニュータウンに私たちも、ものづくりや建築のスキルを持つ一住民として自発的に参加することができないか、ということを考えはじめました。

多様性から生まれるアイディア

▷今回は、国際シェアハウス「はとやまハウス」の同居人との共同プロジェクトでした。構想を具体に落とし込んで行く中で、どのようなコミュニケーションがありましたか?

今回このプロジェクトは、シェアハウスに同居する建築学生として、共同で行いました。同居人と言ってもほぼ初対面で、共同生活を始めるところから関係が始まりました。そのため、建築の設計においてお互いが全く異なる考え方を持っていることが住み始めてわかってきて、今回の什器設計もその衝突が多々ありました。

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バックグラウンドが異なるシェアハウスの同居人、学生計3名

例えば、どのように「住民の様々なものを受け付けるか」という「自由度」に関して議論していた時のことです。その応答として、合板を自由に設計・加工できる手段を持つ私は(小西さん)その「自由度」も設計しようと考えていましたが、永田さんは有孔ボードを用いることを提示しました。即物的ではありつつも、自分達以外の住民にも使い方を容易に共有できることや手に入りやすさといった観点から、有孔ボードを用いることを二人で決定し、有孔ボードを如何に組み込んでいくかという設計に前進しました。結果的には如何に組み込むかという部分に、私が考えようとした合板の加工自由度が効果を発揮していきました。その相違が価値を共有し什器設計の重要視するポイントを見つけることに繋がりました

土地の文化や地形を活かした什器設計

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▷「運ぶ受付」を設計する上でこだわったことを教えてください。

今回の移動式什器を設計するにあたり、「鳩山ニュータウンで活動する」上で成り立つかどうかを重視していました。その意識が単なる什器ではなく建築になっていくと考えたからです。

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△頂いた台車と提供者の女性

そういった観点から、住民の方に頂いた台車をアップサイクルすることや、丘陵を切り開いて開発された土地での高低差への応答という設計要件が決まっていきました。可動式の側板が展開時には受付棚として、定着時には車輪止めとなるように設計した部分は、地形に応えるだけでなく、移動を伴う繰り返しの活動のため、容易な展開操作としていることにも繋がっています。

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△定着時には車輪止めとして機能する

今回は、活動日程的に什器設計・制作に多くの時間を割くことはできませんでした。一方で前回のEMARFでデスクを発注していたことにより、EMARFでの木部の出来具合や到着までの速さが見込めていました。

しかし、設計とは予想できないことがつきものなようで、頂いた台車の実測誤差や金具との兼ね合いなどで少々のズレがでてきてしまいました。その調整案として急遽別パーツをEMARFで制作し、再発注するプロセスを踏んでいます。

行動が生み出す新たな波紋

▷プロジェクトを経て、地域の方々からの反応や、地域の中での変化があれば教えてください。

実際に什器と共にまちを練り歩いてみて、什器が目の前にあること、モノがあることの反応はとても力強いのだなと感じました。「これを自分達が作った」という情報は住民にとって強く関心を惹くコンテンツとなっているようです。

また、余剰空間を再活用するプロジェクトであると上記で述べましたが、鳩山NTは大半が第一種低層住居専用地域(居住機能のみ)で町全体に高齢化・人口減少や流出により、家の余剰、空き家や空き地が増えています。「住み開き」をして機能を変更して活用する事例も見られるのですが、用途を変更した大規模な活用はまだハードルが高いと感じています。

什器を置くことで起こった賑わい

△什器を置くことで起こった賑わい

今回起こったことの一つに、そういった庭先や店頭前の空きスペースに「小さな」什器を介入させることで、余剰空間を活動の場に変えることができたことがあります。活動する中で「自分の家で活動するイメージが湧いた」、「庭先での青空マーケットが出来るかもしれない」とポジティブな意見を頂き、住民が「自分の家で活動する」ことのイメージの想起にも、この什器が繋がっていることがわかりました。

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持続的に街と関わり続けるための運営手法

▷設計物を製作するのみに留まらず、それと共に街で活動していくプロジェクトでしたが、製作以外のプロジェクト運営ではどの様なプロセス、工夫がありましたか?

このプロジェクトで達成しようと決めていた目標の一つに、自分達で制作費分を稼ぐということがありました。このプロジェクトは自主企画で、私たちがモノ(什器)を作りたいという欲求ももちろん含まれていますから、そういった自分達のやりたいことをどのように達成するかも考える必要がありました。

活動としては建築的にニュータウンと向き合っていますが、その中でお金をどのように得るかも考えています。あまり大きな金額にはなりませんが、自分達が移動して届けるという活動に手数料という形でフィーを発生させ、出品登録をしていただいた方からお金を頂く仕組みをとっています。

様々な方に企画段階でプレゼンをする機会を頂き、その中で、集めるお金がただ制作費を回収することや活動の応援費として頂くことに留まっていてはいけないという指摘を頂き、継続性や得るお金の使い道について考えるようになりました。自分達が得たお金が今回の什器制作費だけでなく、余ったお金はしっかり自分達の活動として同様にニュータウンに還元するなど、自分達の活動の客観的価値や相手側のメリットなども説明・共有する方法も必要なんだということが活動を通して得られた一つの気づきです。現状は結果として、EMARFで制作させて頂いた機会や実際に頂いた応援、活動で得た手数料などで什器製作費分を回収することができ、今後の活動で得る資金を自分達でまた新たなに何か作ることができればと考えています。

小さな運動の連続が活動になる

▷今後の鳩山ニュータウンでの新たな活動方針があれば教えてください。

9月の活動ではたくさんの応援や反応を頂けましたが、一方でやってみて始めてわかったことや出来なかったことなど気づきや反省もありました。その一つに、企画段階で構想していた使われていない余剰空間としての公園(公共空間)での活動ができていないことがありました。

そこで、9月の活動報告も兼ねて鳩山町役場にプレゼンする機会を頂き、公園課の方にもご出席頂き、報告させていただきました。すると、好意的な反応を頂き、公園を使用してもよいという許可を頂くことができ、晴れて企画段階で考えていた公園での公共空間での活動がができるようになりました。

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加えて、9月に行ったルートは、ものを作っている作り手と消費者のネットワーク化を図るために字の輪郭をたどっていたが、大きな効果が見られなかった。その反省から、緑道や公園を通じた住民の散歩ルートを参考に、何故その道が選ばれるのかを探りながら移動するルートを設定する「リサーチ型」へと更新するフィードバックを行い、11月に第二回目となる運ぶ受付「お散歩マルシェ」を開催しました。

また、「庭先で青空マーケットをしたい」という声があることは、住み開きや庭開きの大きな一歩であり、住民が主体となって活動できるような、まずはそうした行為を含めた一時的なイベント(はとやまニュータウンマルシェ)を企画し、実際に実施してみるということもやっています。

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そのように、畑やチラシ配りなどの小さな活動が「運ぶ受付」に繫がり、その「運ぶ受付」での活動の気づきがまた、更なる活動を企画したり、制作したりするような、小さな運動の連続が活動になっていくんだということを身をもって学んでいる最中です。

ものづくりを通して社会と接続するために

▷今後、挑戦してみたいことや作ってみたいものがあれば教えてください。

鳩山町で活動する中で、隣町のときがわ町での繫がりも生まれてきました。ときがわ町は木材や木加工で有名な町でもあり、現在は木工体験の場となった木工所を見学する機会がありました。そこには旧式の木加工機や余った木材などがあり、退職された木工職人の方が体験講座として技術員として関わっています。こうした職人のスキルや知識、地元の木材といったヒトとモノの資源を活かしつつ、EMARFなどオンラインでの設計や加工を組み合わせた、ものづくりでの新しい価値やネットワークづくりに興味があり、挑戦しようと思っています。

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△木工所(ときがわ町木工体験工房)


▷3ヶ月のEMARFアンバサダーを経験されましたが、今後どの様に進化すればEMARFの活用の幅が広がると感じますか?


より多くの方々がものづくりを行うためには、自分で何かを作ったという達成感をどうやって共有するかということが重要かなと感じています。「自分はこんなもの作れない」という方が大半なんですが、どこか小さなものづくりから参加してもらうことができないかと考えています。
そういった意味でEMARFはどんな地域でも、インターネットによってものづくりを行う基盤を整えられる強さがあります。そして、その課題として必要なるのがEMARFチューター的な存在です。

CNCなどの制作機材も使える人がいないと扱えないように、EMARFも全くの初心者から触るのはハードルが高いのかなと感じています。そういった意味でEMARFの使い方を教えるのはもちろん、どんなものを作るかを一緒に考えるチューター的な存在があり、そこから使える人を増やしていくということがよさそうだと感じています。一度作った経験があると(ハードルを超えると)、後はすんなり続いていきそうな感覚があります。

誰でもできる小さな活動の連続が変化を生む

コミュニケーションツールとしての建築、自身の社会参画ツールとしてのEMARFを体現する様な活動を展開してくださいました。最後に、この様な活動を行う上でのマインドセットや、工夫した点、アドバイスなどがあれば教えてください。

私たちが今回の活動で重要だと思っているのは、決して社会課題を解決しようというような大きな目的意識から活動したわけではないということです。上記で述べた通り、何かほんのささいな、誰でもできる小さな活動が連続していくことが、結果的に「運ぶ受付」といった少し独自性のある活動になったのかなと自負しています。そういった意味では、家族や友人、隣人など身近な人が困っていることやもっと良くなりそうなことに反応する、それに対して何か作ることで応答できる場合に、一つの選択肢としてEMARFでのものづくりがある、そんな状態があると良いですね。それが続くと、結果的にものを作りつづけることに繋がり、人によっては大きな活動に自然となっているということがあるのかなと思います。

EMARF無料説明会・無料相談会

EMARFでは無料説明会・無料相談会を毎週オンラインで開催しています。EMARFを使ってみたいけどやり方がわからない方や、データ作成や発注でお困りの方はぜひご活用ください!

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