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注目の作業療法の洋書ラッシュ②

前回の続きを書こうと思います。当面は、更新ペースを少しあげながら、文章を書く習慣をつけていきたいなと考えてます。
前回は、世界的作業療法の教科書である『Willard & Spackman's Occupational Therapy』を取り上げましたが、人によっては今回取り上げる、『人間作業モデル』の改訂版の方が注目度は大きいのかな、という気もしています。
では、以下に書いていきます。


Kielhofner's Model of Human Occupation Sixth Edition

文献紹介

これはもはや紹介不要、作業療法理論といえばこれでしょう、というくらい有名で、人気の高い『キールホフナーの人間作業モデル(MOHO)第6版』です。まだ書籍は予約受け付け中になっていたので油断してましたが、Kindleではもう発売されていたのですね。なので、このリンクを貼った時にすぐに購入しました😁
なので、これは多少中身を確認しながら、書くことができそうです。

ちなみに最近は様々な作業療法理論や作業科学にも興味がありますが、自分は『人間作業モデル(以下MOHO』は、第1版から第5版まで全て持っていて、最近購入した第1版以外は、全て読んでいます(第1版は、Twitterで、ご親切な方からAmazonの在庫にあることを教えていただくことで購入できました。)。そして、作業療法評価の中で最もよく使ってきた評価の一つはMOHOSTですし、自分にとっても基礎となっている作業療法理論でもあります。MOHOは、1980年に発表されて以来、意志、習慣化、遂行能力、環境という概念は変わることなく発展してきていますし、世界中の作業療法士と協働で研究と実践を重ねながら改訂を重ねており、40年以上ずっと使われています。今も世界でも最も有名かつ支持されている作業療法の理論であり、『Willard & Spackman's Occupational Therapy』に載っているだけでなく、いくつかの作業療法理論を比較することをテーマにした研究では、まず必ず取り上げられるモデルでもあります。また今は作業科学の研究を行っていたり、他の作業療法理論を開発したり、作業科学を基にモデルを作った研究者も、元はMOHOの研究者だったという方も多くいます(例えば、前回取り上げた作業全体性モデルを開発したYazdani氏も過去にはMOHOの研究をしていたようです)。

また日本でも山田孝先生が、第1版から第5版まで監訳を続けられており、作業行動学会や人間作業モデル研究所を中心に、様々な先生方がMOHOの評価の日本語版を研究を通して次々と作成してくださっています。また山田先生をはじめ、様々な先生が講習会や学会を通して、モデルや実践をご指導してくださる機会があり、そのおかげで、私たちはMOHOを学び、実践しやすい環境にあると思います。本当に山田先生をはじめ、研究、翻訳、ご指導してくださる先生方に感謝です。OBP(OFP、OCP)を実践する際に最もよく使われる理論、評価はMOHOではないかと思います。自分も専門学校生の頃から、何度も人間作業モデルの講習会や作業行動学会に参加させていただき、評価や書籍を購入させていただいたり、講習会後の親睦会も参加させていただいたこともあります。作業療法士になって、認知機能への介入から、自身がOBPも取り入れる際の基本となった一つも、MOHOでした(もう一つはOBP2.0でした。OBP2.0も元はMOHOや作業療法の勉強を行う中で知りました。自分は今もよくMOHOとOBP2.0を組み合わせています)。

理論書を深く理解するために

MOHOは概念や用語が難しいことでも有名で、理論書から読むと、挫折する方もいるようです。ただし、日本はAmazonで見て洋書と比較しても、人間作業モデルについての本が多い印象です(様々な先生方が頑張っていらっしゃるからですね)。以下のような本で勉強するのも良いかもしれませんね。

どれも読んだので(笑)おすすめですが、まずMOHOのことを深く理解したいなら、『人間作業モデルで読み解く作業療法』を読んだ後に、上から3番目以降の事例や作業療法実践でどう使うかを想定した書籍で学ぶと、MOHOを実際に使用するイメージがつかみやすいかもしれません。特に『事例でわかる人間作業モデル』や『高齢期領域の作業療法』、『精神領域の作業療法』にある、MOHOの概念の図を自分でも書いてみるといいかもしれません。『作業療法実践の理論』は、Kielhofner氏が書いたMOHOの章があり、開発者自らの理論の要点の解説があり、厚い理論書を読みこなすのは困難だと思う方は、この本から読んでやや硬い文章に慣れていってもいいかもしれません。

上記や理論本を読んで、さらにより深く理解したい人は、人間作業モデル研究所のHPにある評価法のマニュアルや、『作業行動論文集Ⅱ』を読むといいかもしれません。特に『作業行動論文集』はMary Reilyやその弟子たちが様々な研究やKielhofner氏の歴史分析の論文や、1980年に発表されたMOHOの3部の論文が掲載されているので。どのように作業行動理論からMOHOへと発展していったのかが見えてくるような気がして、非常に面白いです。評価は、領域によると思いますが、MOHOSTやOSA(短縮版有り)あたりは使いやすい印象があります。

目次や著者に見る個人的注目点

今回は、元のモデルの開発者であったKielhofner氏が亡くなってから2度目の改訂で、主著者がTaylor氏だけから、Bowyer氏、Gail Fisher氏が加わっています。追加された2人は、第5版から関わっており、Bowyer氏は、小児領域の実践やMOHOのエビデンスやICFの章を、Fisher氏は環境の章、情報収集の評価の章を共著で担当していました。第5版は、第1部の章の名称が全て第4版と同じであり、ほとんどの章にKielhofnerの没後出版という記載があったため、発売当初、よく第4版から内容自体はあまり変化がないと説明されがちだったような気がします。しかし、実は環境の章だけは、Kielhofnerの没後出版という記載がなく、大きく変わった章でした。個人的に行ったMOHOSTの勉強会で、環境の捉え方が大きく変化したことを伝えたことはあるのですが、どれぐらい注目されているのでしょうか?生活期や地域での介入では割と重要になるんじゃないかなあと考えたりします。また作業科学でTransactionという概念が提唱されてから、環境やコンテクスト(歴史や文化的背景を含む)の重要性を増していることからも、環境をどう捉えるか?は個人的には作業療法の注目すべき領域かなあと考えています。

第6版はどうなっているでしょうか?目次を見ると、第4章の「意志」の章と第10章の「行うこととなること」の章のみにKielhofner氏の名前が残っており、他は全て書き直されたようです。また第5版と比較してみると、第5版は、5部構成だったのですが、4部構成に減っています。9章の「行為の諸次元」と10章の「行うことと、なること」は、第2部の評価、治療的リーズニング、記録の方に移行しています。またICFの章も第2部に移行していますし、第5版にあった第14章の「介入の過程」はなくなっています。

第5版の第3部の評価法は、全て第2部に移行しています。そのため第6版の第3部は「作業療法実践でのMOHOの応用」ということで、第5版にあった第4部の事例の提示が移行したようです。事例の部に関しては、「作業的ナラティブを作り直すこと」という章と第5部の事例にあった、「職業リハビリテーションのための人間作業モデルの応用」の章はなくなりました。その一方で、認知症の方々の事例は認知症と知的障害を有する人々まで拡大したり、小児領域も青年まで含まれるようになりました。小児と青年領域に関しては評価と介入の章が分かれています。その他にも「入院状態のMOHOの応用」や「外来の身体的リハビリテーション、専門的ケア、在宅環境でのMOHOの応用」という章が追加されています。「入院状態のMOHOの応用」では、急性期でどうMOHOを使うの?と思う方は注目かもしれませんね。拡大された小児と青年期に関してはあとで触れます。

最後に、第6版の第4部は、プログラム開発とエビデンスについての章のみになりました。あと4版まであった研究の章は、第6版でも追加されませんでしたね。おそらく同時期に研究の書籍も発売するようなので、今後は理論の実践と応用のみを取り上げ、MOHOの研究については、研究の本で、という方針なのかもしれません。ただ以下の本の現在発売されている版は、MOHOの研究をしている先生方の研究室によく置いてある印象があるので、MOHOの研究をしたい人は必携なのかもしれません。推測に過ぎませんが…。

では、新たに筆頭著者として加わったBowyer氏とFisher氏はどの章を、またはどのくらいの量の執筆を担当しているのでしょうか?Bowyer氏は以前担当した章を引き継ぎつつ、第8章の「行為の諸次元」、子どもと青年の領域に拡大した第23章と24章の2つの章を共著で担当しています。これはMOHOの中で、評価や介入法が増えたり、良い研究結果が出たなどして、小児や青年領域の評価や介入の重要性が増したのかもしれません。また子どもと青年の章は、以前あった感覚、運動、医学、発達の諸問題に働きかけるという記述は消え、作業適応のみが書かれるようになりました(これはそうした問題よりも、より「作業」中心、「作業」に焦点、「作業」に根ざした実践をするという意志表明かもしれません…が真意はわかりません。ただ最近はそういう傾向があるのは確かではあると思いますが)。Fisher氏は、以前担当した章はもちろん、第6章の「遂行能力と生きられた身体」、第8章の「行為の諸次元」、第11章の「治療的リーズニング」の章、第20章の「入院状態のMOHOの応用」、第21章の「外来の身体的リハビリテーション、専門的ケア、在宅環境でのMOHOの応用」を共著で担当しています。

では、執筆者全体の変化はどうでしょうか?まず第5版は、意志質問紙(VQ)や再動機付け過程の開発者であった、Carmen-Gloria de las Heras de Pabro氏の記述が多かった印象がありますが(読んでいて、チリ、南米の事例なども多かった印象があります)、今回は執筆者として加わってないので、名前が見当たりません。他にも第5版に加わっていなかった方が執筆陣に加わっているので、全体的に世代交代が進んだのか、まだ全然読めていませんが、目次と執筆陣から、第5版と内容もかなり変わっていそうです。特に筆頭著者に加わったBowyer氏が担当する、厚みを増した小児と青年領域(自身の今の領域でもあります)、Fisher氏が担当する環境の章(FacebookのMOHOのアカウントで変更が示唆されていました)、新たな第20章の「入院状態のMOHOの応用」、第21章の「外来の身体的リハビリテーション、専門的ケア、在宅環境でのMOHOの応用」も気になりますね。

最後に

まだ全てを読んだわけでもなく、目次や章立てを元に注目点を書いていったので、あくまで個人的な注目点に過ぎないということは、最後に強調しておきます。MOHOに関してはそれなりに勉強はしましたが、MOHOの研究者ではありませんし、その辺は割り引いて読んでいただければ、と思います。そのため、実際どのように変化しているのかは、ご自身で読んで判断していただくか、後に発売されるであろう、『キールホフナーの人間作業モデル 改訂第6版』の日本語版を読んで確認してください。

読まないといけない本は多く、おそらく1年後、またはもう少し早いか、もう少し先には日本語版も出るのかなと思いますが、自分でも『キールホフナーの人間作業モデル 改訂第6版』の日本語版の発売を楽しみにしつつ、自身でも英語版を少しずつ読み進めていきたいと思います。そして、ますます日本でも、日本人にあった作業中心、作業に焦点を当てた、作業に根ざした実践(OCP、OFP、OBP)が行いやすくなるといいですね。これから読み進めるのが本当に楽しみです。

興味が高じたせいで、内容は薄いのに長々となりましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。





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