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【so.】津田 満瑠香[3時間目]

「今日の体育は小ホールで卓球だそうですー!」

 生物室から帰ってくると委員長が叫んでいた。体育の中での卓球のユルさ、ラクさは、真冬の1時間では当たりな種目だと思う。イズミンにネットの変な書き込みを教えられてからずっと嫌な気分だったから、それを紛らわすにも体を動かしたほうがきっといいんだ。教科書をロッカーに入れて着替え始めたら、イズミンはとっくに着替えてしまっていた。

「わたしー?」

「そう。和泉さん」

 イズミンが珍しく委員長と会話している。

「つだまるー、先行くー」

 イズミンに手を振って、ジャージを履いた。何の話だろう。ジャージの上を着てファスナーを上げる。放課後またバスケ部で着替えなきゃいけないから、もうこのまんま着ていたいんだけどなあ。ひとりで教室を出て廊下を歩いていたら、イズミンが立ち尽くしていた。

「いーんちょー、何だって?」

 後ろから声をかけると、振り返りもせずイズミンは吐き捨てるように言った。

「わっけわっかんねー!」

 小ホールでは、石堂先生発案のくじ引きで卓球トーナメントの組み合わせが決まって、別に経験者ってわけでもないのに、あたしはシードの場所を得た。みんなが試合を始めて、もうひとりのシードになったキミと立ち話を始めた。

「卓球、得意?」

「分かんないけど、球技ならそこそこやれると思う」

 キミはラケットを素振りしながらそう言った。

「誰と当たりそう?」

「私は、井上さんノリカかな」

「そりゃーノリカでしょ。あたしは、橋本さん伊村さんだけど」

「読めないな」

 結局、あたしの相手は伊村さんになった。コートについて構えると、伊村さんが一段と鋭い目でサーブを打ってきた。速い。とてつもなく速いんだけど、切れるな、これ。見逃すと、案の定入らなかった。

「チッ」

 あからさまに舌打ちしたから、やっぱこの人気味が悪いなと思った。それでも気迫は凄いんだけど、ほとんどサーブが入らなかったり、あたしの動体視力と反応力で拾っていたら勝手に自滅してくれたり、気がついたらあたしは伊村さんに勝っていた。

「それじゃ」

 伊村さんはクールに去っていった。うん、あんまり関わりたくない人だな、あの人は。

 次の相手は誰かとトーナメント表を見ると、イズミンが勝ち上がって来ていた。

「よっしゃ、負けないよ!」

 気合入れて臨んだけれど、イズミンの打つ球を拾うと、どれも思っていたのとは全然違う方向へすっ飛んでいった。プロっぽいサーブをするなとは思ったけれど、あれで何か変化球みたいなのをやってるんだろうか? あたしはストレート負けを喫してしまった。

「イズミン、何でそんな上手いん? ひょっとして卓球経験者?」

「あたり」

 ニヤッとしてイズミンは答えた。

「暗ぁー」

「うるせーな」

 ひひひと笑って、あたしのトーナメントは終わった。近くで、のりん正恵が温泉でやるような卓球をやっていて、混ぜてもらおうかなと思った。その時、ヨシミのすごい声が聞こえてきた。

「どういう事だよ! 答えろよ!」

 振り向けば、イズミン相手にヨシミが一方的にサーブを繰り返していた。いや、サーブというか…ノックだ。

「何の事かわかんないんだって! ほんとに!」

 イズミンはそう言うのが精一杯といったような感じだった。

「もし今度変な噂流したら、ただじゃおかねーからな」

 イズミンは結果的には勝ったらしく、けれどヨシミにこてんぱんにやられたせいか、川部さんに全然いい所なく負けてしまった。

「ねえ、何があった?」

 のりんがイズミンに声をかけたけれど、首を振るだけで何も答えない。一方のヨシミには、やまちが声をかけている。よくもまあ、あの地雷原に踏み込んでいけるもんだ。呆れを通り越して関心すらするよ。

 体育が終わって、一言もしゃべらないイズミンと、のりんとあたしで教室へと戻った。教室に入るなり、のりんが「さっみ」と呟いた。もうだいぶ昼に近づいて気温も上がってきたっていうのに、おかしなことを言うなと思った。

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