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彼女自身が心の成長を遂げたという嬉しい告白だった

「彼はいつもそうやって無難な選択しかしないんです」

涙ながらにその子は訴えた。
悲しさのあまり泣いてしまったのかと思っていたが、語気の鋭さからしてどうやら彼女は怒りをこらえきれなくなったようだ。

「何を選ぶにしても、全部つまらない」

以前、職場にインターンシップで来ていた女子大学生。
インターン期間中、僕はその子のメンターとしてついていて、その日は研修を終えて相談に乗っていた。
そもそもは、その子の近い未来の職業の選択の話をしていたものだ。
しかし話はいつのまにか、彼氏の話になっていた。

憤懣やるかたない様子。
話を聞いてみると、彼氏は公務員試験に挑むらしい。
その選択がつまらなくてしょうがないと。
僕も個人的にはつまらないに1票を投じたいが、公務員になりたい人にとって公務員試験を受けるという選択はきっとつまらなくはないはずだ。
――そうなん? その人にとってはチャレンジなのでは?

「親の敷いたレールを進んでるだけなんです」

その彼氏、高校、大学とずっと進路は親が決めてきたらしい。
そして仕事選びにも親の影がちらほら。
地域に貢献したいではなく、安定を求めての公務員志望だった。

その彼女、そんな彼氏の選択もこれまではとくにおかしいとは感じなかったそうだが、インターンに来て僕と話をする中でだんだん疑問を持つようになったのだという。
不安定極まりないベンチャーで、あぁでもないこうでもないと明日の活路を見いだそうとする姿に、これだ!と感じるものがあったらしい。

あぁ、それは比べたら彼氏がちょっとかわいそうかも。
安定を求める人からすれば、箸にも棒にもかからないベンチャーなんて眼中にないだろうし、そこで繰り広げられている壮絶な闘いには一瞥もくれないはずだ。
一方、彼女はそんな現場に魅了されたようで、彼氏との心の隔たりは一瞬にして大きく開いたようだった。

メンターとして話の方向性を見失いかけていたが、結局のところ彼氏どうこうではなく、彼女自身が心の成長を遂げたという嬉しい告白だったのだ。
そして彼女はインターンを終え、日常の大学生活に戻っていった。

1か月ほど経って、彼女からのメールがスマホを鳴らした。
「その後すぐ彼氏とは別れました」
そうなるだろうとは思っていたけれど、いざそうと知ると複雑な思い。

その後、彼女はしっかりと自分の道を切り開き、数々の難関を突破して夢を叶えていったと聞く。
やりたいことに向かって歩み出した人は強い。

(2022/12/2記)

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