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マグロなんて見たことも食べたこともなかった

就職して東京に住みはじめた頃、マグロの別格ぶりに驚愕した。

スーパーには大トロ、中トロ、赤身の握りの詰まった「マグロづくし」がずらりと陳列され、解体ショーまで開かれる。
回転寿司でも「トロ入荷!」の文字が店頭に躍る。
定食屋でも「マグロお造り定食」がメニューのトップを飾る。

明石、神戸で育った幼少期、父が刺身好きだったため、夕食は週に一度は刺身だったが、常にタイやヒラメなど白身魚中心。
マグロなんて見たことも食べたこともなかった。

マグロは、どうもあの酸味が苦手だ。
酸っぱいものは大好きだけど、酸っぱい刺身を食べたいとは思わない。

え? 酸っぱい? とびっくりされたことがある。
マグロ好きのその人は、まったく酸味を感じないという。
が、僕と同じようにマグロが苦手な人に訊くと、酸っぱいのがダメという。

この酸味の正体、マグロの脂に含まれる旨み成分〈硫酸キニーネ〉が酸化したものらしい。
これに嫌悪感を持つか持たないかでまぐろの好き嫌いが分かれそうだ。
マグロの魅力を蕩々と語るサイトでは、マグロの旨みは酸味にあるとまで言い切る。

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マグロは国民食のようにいわれる。
人気で、貴重で、高価。

ネットを軽く開くだけでもこんな威勢のよい文句が並ぶ。

「みんな大好き、マグロ」
「子供から大人まで、お寿司といったらマグロ」
「日本人の遺伝子に組み込まれていると言っても過言ではない」

なわけない。

2020年の「都道府県庁所在市および政令指定都市別の1世帯当たり年間支出金額」(総務省)によると、マグロへの支出はみごとに東日本に偏る結果となっている。

01 静岡市
02 甲府市
03 東京都区部
04 横浜市
05 宇都宮市
06 相模原市
07 前橋市
08 川崎市
09 さいたま市
10 千葉市
11 福島市
12 仙台市
13 浜松市
14 津市
15 名古屋市
16 盛岡市
17 山形市
18 水戸市
19 秋田市
20 長野市

上位20位以内には、明らかな西の市はなく、東との境にあたる津、名古屋がわずかに入るだけ。
東の人が思うほどマグロは全国的に食べられているわけではないのだ。

西ではマグロよりタイ、ハモ、フグなど白身魚の人気が総じて高い。
何より重要なのは瀬戸内海の存在だろう。

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これだけ大きな海をぐるりと本州、四国、九州で取り囲んでいるのだから、ここで獲れる魚が遠洋のマグロより身近なのは言うまでもない。

マグロ好きの人がネットでどう書こうと自由かもしれない。
ただ、

東ではみんな大好き、マグロ」
「子供から大人まで、東ではお寿司といったらマグロ」
日本人の遺伝子に組み込まれていると言っても過言ではない」

としてもらうとちょっとスッキリする。

(2022/5/20記)

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