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恋、芽生えたらえぇね

高2の息子は、昨日と今日が文化祭。
クラスで揃えたTシャツを着て、楽しそうに出かけていった。

息子が通う高校はふだんから私服だし、髪色もパーマも自由。
文化祭はさらに華やかになるようだ。

僕が通ったのは、息子の高校のすぐ近くの別の高校。
僕の高校も私服、カラー、パーマ。
文化祭は、文字どおりお祭り騒ぎの装いに包まれた。

高2の文化祭で自分のクラスが何の模擬店をやったかは記憶がない。
でも、その晩の打ち上げのことはよく覚えている。

文化祭を終え、手早く片づけて三宮に向かう。
誰が予約したのか、えらく大人な店。
乾杯用のシャンパングラスがズラリと並んでいる。
こうなったら飲む?と色めき立ったが、入店と同時にグラスは下げられた。

まだ新学年が始まったばかりで喋ったことのない人だらけ。
とくに男子にとって、女子は謎のベールに包まれたままだ。

パスタが出てくる。
目の前には偶然、クラスでいちばんかわいい女子。
心躍るとはこのことか。

「まだ全然みんなの名前覚えられへんわぁ」その子が言う。
「そう? ちょっと覚えたから教えよか?」僕はそう言った。
「え、ホンマ? 教えて」

正直、僕は人の名前を覚えるのがどちらかというと苦手だ。
なのに、つい。
「えっと…あのいちばん端っこが○○、次が△△やろ? ほんで次が…知らんわ、その隣がえーっと…」

いつの間にかカラオケが始まっていた。
当時はボックスではなく、スナックのように見ず知らずの人の前で歌うことが一般的で、この店もそのタイプだった。
一人、また一人と歌っていく。

マイクが次第に近づいて、順に名前を教えながらも、気が気でない。
父は歌手になることを真剣に考えていたというほど歌がうまいし、兄もその遺伝子を受け継いでいるのだが、僕はそれほどでもない。
ついに順番が回ってきた。
僕は観念してステージに立ち、中森明菜の「十戒」を歌った。
それが僕のカラオケデビューだった。

なぜか緊張はまったくしなかった。
人前で歌うってこんなに気持ちよいものかとうっとりし、席に戻る。
「歌うまいやん」
お世辞でもこの子からなら最上級の褒め言葉。
「ありがとう」
「名前教えて」
「え、俺○○…」
「ごめん、さっきの続き、あそこの子の」
「あ、あぁ…」

舞い上がった自分が恥ずかしく、赤くなったところを見られるのがさらにまた恥ずかしくてうつむいた。
けれどはっきりしたその子の物言いに、「歌うまいやん」がお世辞でなかったと思え、僕は嬉しくもなったのである。

店から出る僕が写っている一枚がある。
どこからどう見ても楽しかったことが分かる。

後ろ3人目にはその子も写る。
僕はこの日、その子に恋をした。

息子は今日、ハーバーランドで打ち上げだという。
キラキラの神戸港を背景に、楽しい時間を過ごしておくれ。
恋、芽生えたらえぇね。

(2023/4/28記)

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