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真実は混ぜ返されて誰にも分からない

先日、中学の頃に麻雀にハマった話を書いた。
ギャンブルにとち狂ったのではなく、牌がおいしそうで、という話。

その記事を書きながら、思い出したことがある。

***

僕の通っていた小学校の卒業アルバムは、卒業式の写真も載せるため仕上がるのがずいぶん後だった。
卒業後の夏休みに全員が中学校に集まり、小学校にもらいに行くのだ。
小6で学級代表だった僕は、その段取りを仰せつかっていた。

打合せのため、夏休みに入ってすぐ副代表女子と2人で小学校を訪れた。
校舎はシーンと静まりかえって人っ子一人いないように見える。

教官室の扉を開けると日直の先生が一人いるだけ。
「あれ? 担任と約束してるんですが」と訊いてみたら、日直の先生はバツの悪そうな表情を浮かべ、「いやぁ…」と口ごもる。
「講堂の裏の階段あるやろ? そこを3階に上がったら扉あるから、その中や…」

思わず副代表と顔を見合わせた。
講堂裏の階段? そこは6年間、絶対に上がってはいけないと言われ続けた禁断の階段だ。
さらに3階があることも初めて知った。
講堂のある校舎は2階建てだったからだ。

6年間の禁断がこうやって解かれることに、自分たちが大人と認められたような嬉しさがこみ上げた。
行こう! 副代表と頷き合った。

重厚な石造りの校舎だったから、ただでさえ怖ろしげな雰囲気を持っていたが、夏休みの人けのない校舎はさらに怖かった。
初めて足を踏み入れた講堂裏の階段を上がる時、ドキドキは最高潮だった。
そして確かに屋上までの間に、外観からは分からないフロアがあった。

扉がある。
日直の先生が言った扉はこのことだ。
こんなところで担任は何をしているのだろう。
ノックをして、勢いよく扉を開けた――

口をあんぐり開けて唖然とした表情の担任。
その手元には…麻雀。
とんでもない場を目撃してしまった。

夏休みとはいえ、校舎内で教師が麻雀、しかも外からは存在すら分からない忍者屋敷のような小部屋で。
嫌悪感がたちまち湧き起こった。

しかし嫌悪は担任に対してであり、麻雀に対してではなかった。
その頃すでに僕は、おいしそうな麻雀牌にぞっこんだったからだ。

年長だか小1のクリスマスにサンタがくれたプレゼントが麻雀だったのだ。
麻雀は麻雀でも「ドルゲーム」という名の麻雀だった。

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「24+36=60」や「153÷3=51」などの数式を作る麻雀。
飽きるほどやったこの麻雀、ほらやっぱり牌っておいしそう!

***

日直の先生の対応はあれでよかったのか。
生徒への影響を考えれば、待っててと担任を呼びに行くべきだったのだ。
いや、あえてバラしたかった何かがあったのか――

ジャラジャラ…ジャラジャラ…
真実は混ぜ返されて誰にも分からない。

(2022/7/17記)

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