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今日からまた新しいリハビリを始める

3月の手術から40日ほどが経った。

初めて読む方のために簡単に説明をすると、僕は3月に受けた手術で口の中を欠損し、そこをカバーするため装具がいるようになった。
これまでは急ごしらえの簡易装具をつけていたが、これは噛むことがままならず、喋るのも不自由だった。

それが昨日から、ようやく正式な装具になった。

昨日は口腔外科の診察だった。
かわいい技工士さんのいる、あの口腔外科。

連休前に型を取り、ついに正式な装具ができた。
これでふつうに噛めますよ、とかわいい技工士さんがニコッとする。
最強の笑顔に僕は百万の味方を得た思いだった。
はめてみると、オーダーメイドだけにジャストフィット。

これで僕は何でも食べられる!
そう思うと嬉しくて楽しくて、帰り道は世界が輝いて見えたほど。
40日間、ずっと我慢してきたから。

ただ、結論からいうと、そうはならなかった。
装具の具合を確かめるために、あえて昨晩は普通食を作った。
しかし、僕は噛めなかった。

しばらく噛まなかったことで、噛み合わせがおかしくなっていた。
さらに、噛むという行為がどんなものだったか、その感覚ももうすっかり遠のいてしまっていた。
噛んでも噛みきれない違和感は、まるで紙を食べているようだ。

また、ソフトな簡易装具と違い、この装具はハードでつるっとしている。
舌が常にこの装具に触れるからか、食事の中に人工物が混入したような感覚にとらわれて、味わうことがまったくできない。
さらに、どこがどう当たるのか、あいかわらず出血もする。

うーん。

具合を確かめるための普通食だから、その目的は果たせた。
でも、もしかすると食に関するこの40日間の苦悩が一気に晴れるかもという期待は、残念ながら叶えられることはなかった。

1か月この装具を使ってみて、また再調整をすることにはなっている。
ただ、これがいちおうの最終形だ。
これ以上でもこれ以下でもない。

僕は考え方をそっと修正した。
この装具が最終形なら、これに一から慣れていくよりほかないこと。
装具を新調したからといって、いきなり回復するはずはないこと。
そしてまた、どれほど回復しても元通りになることはないこと。

僕が50年あまりにわたって楽しんできた食体験は、手術の前夜でいったん終わったことを理解しなければならない。
あと何年生きるか知らないが、これから先の食はまた違う体験として楽しめるようになったらいい。

焦らずじっくり、僕は今日からまた新しいリハビリを始める。

一つ、朗報もある。
この装具のおかげで、ほぼ自然に喋れるようになったのだ。
カ行にやや難ありだが、もうそんなことどうだっていい。
喋れる、僕は喋れる。
それで十分。

(2023/5/12記)

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