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もしかすると現代版の新解さんなのかもしれない

ある店で、若い店員が意外ときちんとしていた、それに比べて年配の店員のほうがだらしなくて、と書こうと思った。
ふつう逆なことが多いから、珍しいなと思って。

若 い 店 員 が…き ち ん と…そ れ に 比 べ て…

順調だ。

…年 配 の 転 院 の ほ う が だ ら s

ん? え? えーっ?
係り受け変換ひどすぎないか?
いや人工知能的にいえば、逆に精度が高いというべきか。

ン十年前に大学で機械翻訳の研究をしていたことについては、以前書いた。
全700記事の中でビュー数が6位の、かなり読まれている記事だ。

その研究者視点からすれば、「若い」と「年配の」を係り受けて「店員」と「転院」を使い分けるというのはとてもナイスなアクションだ。
おみごと!…ってちょっとやっぱりひどい。

漢字変換ソフトの中の人が、

若いてんいん? それは「店員」やろ!
年配のてんいん? うーん…「転院」にしといたら当たるんちゃう?

と呟いているように見える。

***

昔、『新解さんの謎』という本が一世を風靡した。

三省堂の「新明解国語辞典」の中に〈新解さん〉という人がいるのではないかという、エキセントリックな本だった。
この本が生まれたのは、「新明解国語辞典」の語釈がとにかく特徴的なためだが、その一風変わった語釈をいくつか見てみよう。

ぼんじん【凡人】
自らを高める努力を怠ったり功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。
れんあい【恋愛】
特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
こうぼく【公僕】
〔権力を行使するのではなく〕国民に奉仕する者としての公務員の称。〔ただし実情は、理想とは程遠い〕
こうやく【公約】
政府・政党など、公の立場にある者が選挙などの際に世間一般の人に対して、約束すること。また、その約束。〔実行に必要な裏付けを伴わないことも多い〕

(©三省堂「新明解国語辞典」第七版)

この辞書で勉強した人は、きっとヒネりのきいた大人になれたはず。

『新解さんの謎』では、この辞書の中に【凡人】についてはズケズケ言いながら【恋愛】に対しては熱く情熱的に語る一方で、政治への強い不満を【公僕】【公約】にぶつけている〈新解さん〉という人がいる、という。

長くなるが、参考までに他の辞書でも引いてみよう。

ぼんじん【凡人】
普通の人。ただの人。
れんあい【恋愛】
特定の人に特別の愛情を感じて恋い慕うこと。また、互いにそのような感情をもつこと。
こうぼく【公僕】
広く公衆に奉仕する者。公務員のこと。
こうやく【公約】
公開の場で、また公衆に対して約束すること。特に、選挙のときに政党や立候補者などが、公衆に対して政策などの実行を約束すること。また、その約束。

(©小学館「デジタル大辞泉」)

あっさりしてんなぁ…いや、これがふつうだ。

辞書に〈新解さん〉がいるのなら、漢字変換ソフトにも棲みついていてもおかしくない。
「年配」と「転院」を結びつけたのは、もしかすると現代版の〈新解さん〉なのかもしれない。

(2021/6/12記)

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