みらいの子

ヴァイオリニスト。ミラノのオーケストラを退団した後パリに移住。noteではイタリアのオ…

みらいの子

ヴァイオリニスト。ミラノのオーケストラを退団した後パリに移住。noteではイタリアのオーケストラで出会った楽しい仲間たちとの生活を描いた「ミラノ回想録」や、パリでの何気ない毎日についてコラムを発表しています。

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    毎朝ウィーンのパン屋さんで [ヴィーナー•キプフェル(ウィーン風クロワッサン)ひとつ下さい!]と言っていた学生の私が、ミラノというもう一つのヨーロッパの都会から仕事人生をスタートさせる事になった。そこでの生活、そして仲間についての物語。

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音楽家のポートレート~Les portraits des musiciens

ユリウス ひどく落ち込んでいる時にわざとあれこれと予定を入れ、心身が麻痺するまで動き続けた挙句に寝坊して、一番大切な用事をすっぽかしてしまうのがユリウスだ。彼の砂漠のように果てしない心の空白は、休みなく動き回ることで辛うじて埋められていると言えるだろう。自分でもそれを知っている。 彼ほどはっきりと自分の欲しいものを知っている人はそう多くないだろう。それはまさに彼の心の中の砂漠をそっくりそのまま、得も言われぬ花の匂いに満ちた春の庭に変えてしまえる女性だった。でも彼にとってそれ

    • 今朝窓を開けると眼の前の大きな木に青い鳥が遊びに来ていた。窓から身を乗り出すと空気はびっくりするほど暖かったし、いつもよりも30分も早く朝日が灰色のアパルトマンをバラ色に染め始めていた。 そして勿論、これが幸せだと気づくのに1秒もかからなかった。

      • 年末年始に読もうと決めた作品からの抜粋。 すでに電流が走るフレーズだ。 “たとえば地球が球状の物体ではなく巨大なコーヒー・テーブルであると考えたところで、日常生活のレベルでいったいどれほどの不都合があるだろう?” 村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」より。

        • TOKYO・ロス

          一昨日、セーヌに架かる橋の上を歩いていたら、突然コンシェルジュリー*が美しい夕焼けに包まれているのを見た。それからその空は私の視線をどんどんと遠くへ誘導して行き、こんなに乾いた街、パリ全体が波止場であるかのように、夕日の沈む地平線が見えたのだ。 それが現実なのか、夢であるのかは少しも問題ではなかった。大切なのは、そのとき燃えるような地平線が見えたということだ。天国のように、蜃気楼のように、そしてなによりも故郷のように。 わたしが「故郷」と聞いたときに思い浮かぶ場所はいくつか

        • 固定された記事

        音楽家のポートレート~Les portraits des musiciens

        • 今朝窓を開けると眼の前の大きな木に青い鳥が遊びに来ていた。窓から身を乗り出すと空気はびっくりするほど暖かったし、いつもよりも30分も早く朝日が灰色のアパルトマンをバラ色に染め始めていた。 そして勿論、これが幸せだと気づくのに1秒もかからなかった。

        • 年末年始に読もうと決めた作品からの抜粋。 すでに電流が走るフレーズだ。 “たとえば地球が球状の物体ではなく巨大なコーヒー・テーブルであると考えたところで、日常生活のレベルでいったいどれほどの不都合があるだろう?” 村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」より。

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          救いの手

          ある日なんだかとてもくすんだ気持ちで、私はいつものようにパリのメトロに揺られていた。 ぼんやりとではあっても、このまま人生を続けていても一体どんな意味があるんだろうとすら考えていた。 そんな時ふと、ある人の事を思い出した。 ほんとうに何十年も忘れていた人だ。 まるで誰かが私の錯綜した記憶の中からそっと彼女を取り出して、ほら、見てごらんと目の前に置いて行ったみたいに。 途端に不思議なほど目に写っているもの全てが色彩を取り戻した。 彼女のニックネームはナオさん。 ナオさんといえ

          パリ食べ物日記③

          心が曇り空の時に食べるもの パリの11月は冗談じゃなく心が折れそうになる。 夜7時でも真昼間のように明るかった、あのちょっと前までの日々はどこへやら。 朝は9時を回らないと部屋が明るくならないし、夕方は5時を回る前に薄暗くなる。 日が極端に短くなるだけではない。 太陽そのものが姿を消したのではないかと思うほど灰色の空の下で 毎日が過ぎてゆく。 だからたまに午前中、日差しが窓から差し込むと私は太古の人々よろしく窓際に駆け寄って太陽を拝む。拝まずにはいられない。 ビタミンDをあ

          パリ食べ物日記③

          今日は父の85回目の誕生日だったので、プレゼントは何がいいかとパリからLineで兄に相談したところ、これからの季節は温かい股引が一番いいだろうということだった。急いでAmazon でチェックしたらいいものが見つかり、誕生日の日に届けることができた☺️アマゾンさまさま🙏🙏🙏

          今日は父の85回目の誕生日だったので、プレゼントは何がいいかとパリからLineで兄に相談したところ、これからの季節は温かい股引が一番いいだろうということだった。急いでAmazon でチェックしたらいいものが見つかり、誕生日の日に届けることができた☺️アマゾンさまさま🙏🙏🙏

          現代の怪談「タワマン文学」を読んでみた。

          「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」 普段ならあまり手に取らない種類の本かもしれない。理由はわからないけれど、日本のいわゆる常識とか共通の認識みたいなものには若い頃から苦手意識が強い傾向にある私は、ある種の作品を避けてきたところがある(後にこの作品がタワマン文学という謎のジャンルに分類されるということを知った)。 昔から、何かと「常識」を振り回したがる日本の老若男女と話す度に自分の可能性が狭められたような、下敷きを頭にこすり付けられたような不愉快さを感じ、「そんな事偉

          現代の怪談「タワマン文学」を読んでみた。

          どこにいるの?

          「どこにいるの?」 瞬発的でありながら、理屈抜きに相手に働きかけるこの言葉の持つ力に気づいたのはいつのことだっただろうか? スクリーンの中、メトロ、 道端など至る所で聞かれるこの言葉は、携帯を握りしめる若きパリジェンヌに限らず日常誰もが発し、どこにいても耳にするわけなのだが、もしあなたがこの短いフレーズをつまらないと思うのであれば、 ぜひ一度このつまらない言葉を「注意深く」発音してみてほしい。 できれば、あなたが日頃から愛情を感じる人物や動物を思い浮かべながら。 そうすれば

          どこにいるの?

          夏とエコバッグ

          夏休みのパリはリラックスムードのファッションが多い。私が真っ先に思い浮かべるのは、超ミニのワンピースから伸びるツヤツヤでよく日に焼けた素脚にぺったんこのサンダルを履いているパリジェンヌの姿。 このスタイルは年令を問わずこれからもずっと夏のパリの街に残り続けるだろうなと思う。 一方で、肩の出たちょっぴりセクシーなロングワンピースという人もいる。ところが意外と目につくのは夏の軽い洋服に、バッグは意外と年季が入ったイカツイものを持っていたりするところだ。 今日もメトロの中でサマー

          夏とエコバッグ

          19年目の滞在許可証

          パリにやって来て今年で19年目になる。 わたしは一体なぜそれほど長くこの街に住み着いてしまったんだろうか? 自分でも良くわからない。ただパリに辿り着くことが自分の人生にとって相当大切なことだったんだろうなとは思う。 今思えばわたしのパリ狂ぶりは筋金入りで、それは高校時代にまで遡る。 寝ても覚めてもシャルロット・ゲーンズブールとかリタ・ミツコなどのフレンチ・ポップスを聴いていた。とにかくシャルロット・ゲーンズブールが好きで、彼女が出演した映画は必ず観に行き、中でも「小さな泥棒」

          19年目の滞在許可証

          午前0時の飛行機に間に合わないかもしれないという日

          ひと月ぶりのパリはまだ7月の終わりだというのに、予想以上に寒々としていた。これでも夏なのかというぐらい涼しく、36度越えの東京とは対照的だった。 まだまだ早朝といった時間にシャルル・ドゴール空港に到着した私は疲れと寝不足と、何よりも狭苦しい機内で硬くなった身体を引きずりながら、ひたすら温かいシャワーと平和な睡眠だけを夢見ていた。そしてやはり前日の大パニックを未だ消化しきれていない自分のことが可笑しかった。 前日の大パニックというのは、私がそれまでの人生で犯してきた数限りない「

          午前0時の飛行機に間に合わないかもしれないという日

          Musée de Louvre 19:45

          金曜日の夜の楽しみ方 として あなたはどんなものを思い浮かべるだろう? 自由な時間が約束された週末の入り口でもある金曜の夕方はいろんなことが可能に思えたりもする。 映画館でずっと見たかった映画を見ようか? それとも久しぶりに誰かとどこかで夕食でもしようか?等々、何通りもの可能性が頭をよぎった後に、結局は一人で部屋にこもろう( ウーバー・ イーツの夕食とネトフリの組み合わせほど安心で心が休まる過ごし方はないと考える人もいるだろう)となったりする。 かく言う私も、ここ数年はこの最

          Musée de Louvre 19:45

          記憶の中の春

          数日前 雨が降った。 もちろん パリで雨が降ることなどしょっちゅうなのだけれど、その日の雨はいつものと少し違っていた。 温度とか匂いみたいなものが日本の雨を思い出させたのだ。あの独特の柔らかさと、少しだけ土の匂いを含んだやさしい日本の雨。 日本にいた頃、私は雨の日が大好きだった。 アパルトマンを出ると、ふいにその柔らかい春の雨は、魔法の杖のように高校の入学式の時に着ていた真新しくよそよそしい新しいブレザーの感触とか、満開の桜並木とか、合格発表の直後に興奮しながら母と入った仙

          記憶の中の春

          https://www.stay-salty.tokyo/days-sachiko-kuroiwa 今月もstay-salty に投稿させて頂きました。このマガジンに溢れる多様な人生のエネルギーを美味しいお茶と共にぜひ楽しんで下さい☕

          https://www.stay-salty.tokyo/days-sachiko-kuroiwa 今月もstay-salty に投稿させて頂きました。このマガジンに溢れる多様な人生のエネルギーを美味しいお茶と共にぜひ楽しんで下さい☕

          パリたべもの日記②

          妄想のサヴァラン 小さな時から【サヴァラン】という名前の響きが好きだ。勝手な音楽的注釈を加えることを許していただけるなら、フランス語的な「サヴァ」に続いて、「ラン」と軽快に転がり落ちるような音の愉快さ。言わずと知れた有名な洋菓子の名前であるが、このお菓子そのものは洋酒にたっぷりと浸してあるので小さな頃は全く興味がなく、母の大好物だったこともあって【ママのためのケーキ】という風に認識していた。 成城学園前駅からすぐのところにある【アルプス】というケーキ屋さんを母と訪れる度に、

          パリたべもの日記②