G.グールドの波動
時々、行ったこともないトロントの、看板の寂びついたコーヒーショップで、大きくて時代遅れなオーバーコートに毛玉のついた手袋をしたグールドが、ペトラ・クラークなんかの話を店主としながら、バッハ演奏で煮詰まった頭を楽し気に開放しつつハム・エッグを食べている姿が頭に浮かぶ。大通りに面した、世界のどこにでもありそうなただのコーヒーショップだ。”どこどこの、なになにじゃなきゃ”なんて発想は時間の無駄に過ぎない。と彼が言ったかどうかは知らないが、少なくともこの変質的、熱狂的バッハ弾きからは