hirokkina

オペラを中心に、クラシック音楽界隈で仕事をさせていただいています。どうぞよろしくお願いします。

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    最近の記事

    台本を知るとオペラの見方が変わる!〜日本ヴェルディ協会主催 演出家岩田達宗講演会より

     所属している日本ヴェルディ協会の主催で、人気オペラ演出家、、岩田達宗さんの講演会を行いました。  題して「オペラ 台本の妙」。  むちゃくちゃ面白く、勉強になる講演会でした。目から鱗、の1時間半。  まず、日本人とヨーロッパ人の芝居には、根本的な違いがある。ヨーロッパの芝居の作り方は「行為」の積み重ねであり、油絵に似ているが、日本の芝居は「筋」が大事で、書道に似ている。ここがどうしようもなく違う!  「あらすじじゃないんです シノプシスなんです」  「幕、じゃないんです、

      • 半世紀の自叙伝〜池田卓夫「天国からの演奏家たち」

         今のクラシック音楽界でもっとも活躍しているジャーナリストのお一人、池田卓夫さんが、初のご著書を出されました。題して「天国からの演奏家たち」(青林堂)。博覧強記で社交家、原稿依頼が殺到している人気ジャーナリスト、音楽について書き始めて半世紀近く、というプロ中のプロの方が初のご著書、というのはちょっと意外です。    タイトル通り、もう旅立ってしまった名演奏家30名との交流を綴ったご本。著者は日本経済新聞の記者として長く活躍されたこともあり、インタビューの機会は多かったとは思い

        • こわもてファルスタッフ・ファミリーはみんな食いしん坊!

           日曜日の夜はMETライブビューイングで「ファルスタッフ」。  いや、最高でした。演出も指揮も歌手も揃っています。歌手は個性的でチャーミングな面々が揃いました。    まずロバート・カーセンの演出。これはスカラ座などとの共同制作で、日本でもスカラ座の来日公演で披露されましたが、実におしゃれで気が利いていて洗練されています。設定を1950年代に変え、テーマは「食」。みんないつも何か飲んだり食べたりしているんですね。第1幕第2場はレストラン。フェントンはレストランの給仕をしていま

          • 「オペラ」ではなく「お祭り」ができるわけ〜三河市民オペラ「アンドレア・シェニエ」

             昨日は三河市民オペラ、ジョルダーノの「アンドレア・シェニエ」へ。日本の「市民オペラ」がとても盛んなことは、昨年出た石田麻子先生の著書「市民オペラ」に詳しく触れられていますが、そこでも大きく扱われているこの団体は、地元の実業家の方々が中心になって立ち上げており、とてもユニークな存在です。  まず、定期的にやらない。今回の公演は(コロナ禍があったのもありますが)なんと6年ぶり。前回は2017年「イル・トロヴァトーレ」でしたが、私はその時初めてお邪魔して、すごく感銘を受けたのでし

            映画のように心に残るオペラ〜METライブビューイング ケヴィン・プッツの新作オペラ「めぐりあう時間たち」

             NYのメトロポリタンオペラ(以下MET)では、最新の公演を映画館で上映する「ライブビューイング」を世界で展開しています。  コロナ以後、METでは特に新作オペラへの取り組みが熱心になっていますが、今、「METライブビューイング」で上映されているケヴィン・プッツの新作オペラ「めぐりあう時間たち」は、実に心に沁みた作品でした。これまで見たいわゆる「新作オペラ」の中で、一番心にきたかもしれません。  この作品は、「オペラ」と言っても、実態は「映画」に近い作品です。そもそも原作は映

            MET風味の「ザ・イタリア・オペラ」〜METライブビューイング「椿姫」

            NY、メトロポリタンオペラの最新公演を映画館で鑑賞できる「METライブビューイング」。今シーズン2作目の「椿姫」を見てきました。  とってもよかった。(生じゃないけど)外で見る年内最後のオペラがこれでよかった、という気分です。舞台は綺麗だし、歌手は揃っていて高水準だし、「歌」をこれでもか!と聴かせるし。MET風味、それも2022年のMET風味の「ザ・イタリア・オペラ」。  プロダクションは2018年に制作されたマイケル・メイヤー演出のもの。全体はヴィオレッタの回想で、三幕

            バロックオペラの魅力がぎゅっと詰まったヘンデルのオペラ「シッラ」、歌舞伎にヒントを得た演出と、颯爽とした音楽で日本初演を果たしました。

             最近、欧米ではバロック時代のオペラがブームです。その代表的な作曲家といえば、ヘンデル。日本ではこれまであまり上演の機会がなかったのですが、今月は新国立劇場で「ジュリオ・チェーザレ」、神奈川県立音楽堂で「シッラ」と、2つのヘンデル・オペラが上演されました。前者は新国立劇場オペラパレス初のヘンデルオペラ、後者は日本初演です。  昨日日本初演を果たした「シッラ」は、イタリアの名ヴァイオリニストにして指揮者、ファビオ・ビオンディが弾き振りをする「音楽堂バロックオペラシリーズ」の第

            ベルカントオペラが映画になった!〜METライブビューイング「ランメルモールのルチア」

             オペラの上演では、最近は「読み替え演出」が盛んです。時代を現代に移すなど台本の設定を変え、より現代の観客に身近な物語にするのが狙い。成功するものもあれば、???というプロダクションも正直なところ少なくありません。  今、METライブビューイングで上映されている「ランメルモールのルチア」(以下「ルチア」)は、これまで見た「読み替え演出」によるプロダクションの中でも屈指の出来栄えでした。音楽的にも素晴らしく、実に見事な公演だったと思います。  今シーズンのMETは本当に当た

            ニューヨークとミラノの二大オペラハウスを訪問!オンラインで楽しむオペラツアーを開催します!ミラノの案内人は、世界的なメッゾソプラノの脇園彩さんです!

             コロナ禍で長い間、自粛を強いられた海外旅行。  パンデミックはそろそろ出口が見えてきたようですが、今度はロシアがウクライナに侵攻してしまい、ヨーロッパ方面のフライトはキャンセル、ルート変更が相次ぎ、混乱している状態のようです。一刻も早い事態の収束を願っています。    というわけで、以前のように気軽に海外、特にツアーなどで行けるようになるまではもう少し時間がかかりそう。  というわけで、オンラインで楽しむオペラの旅 を企画しました。    コロナ前、私は郵船トラベルという会

            新国立劇場念願の「バロック・オペラ」、洗練された総合芸術で新しい一歩を刻む〜新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」

             新国立劇場の「オルフェオとエウリディーチェ」(グルック作曲、カルツァビージ台本)に行ってきました。新国立劇場念願の「バロック・オペラ」(主催公演としては初めて)、注目の新制作です。有名なギリシャ神話の「オルフェウス」物語〜竪琴の名手オルフェウスが、急死した新妻のエウリディーチェを、冥界に取り戻しに行く物語〜をベースに、マリア・テレジアの命名祝日のために書かれたので、原作の悲劇的な結末をやめてハッピーエンドにした作品。「オルフェウス」神話が、オペラ史の最初から繰り返し作曲され

            より深く、より人間的に〜METライブビューイング「ドン・カルロス」フランス語

             METライブビューイングで、ヴェルディの「ドン・カルロス」を見てきました。フランス語5幕版での上演です。    1867年に初演された「ドン・カルロス」は、元々はパリのオペラ座の依頼で、フランス語の「グランドオペラ(フランス語でグラントペラ)」として作曲されたのですが、現在はイタリア語のオペラ「ドン・カルロ」として上演されることが多い作品です。特に、1884年のスカラ座での上演に際して編まれた4幕版での上演が多くなっています。「グランドオペラ」版の長さや、決定稿がないことが

            全生

            父が逝きました。  98歳。老衰。大往生でした。  娘の私がいうのもおかしいですが、理想的な逝き方だったと思います。  ひょっとしたら、あと1週間から10日。 定期的に訪問してくださっている主治医の先生からそう伺ったのは、今月半ばのことでした。 寝耳に水、とはこのことです。だって、つい2、3週間前までは、口からちゃんとご飯を食べ、それも好物のいくらや穴子のお寿司、餃子などをいただき、おちょこ1杯くらいの晩酌もしていたのですから。  それが発熱して、食欲がなくなって

            ワクワクがいっぱいの作曲家の自伝〜藤倉大「どうしてこうなっちゃったか」

             今年早々に刊行されて「面白い!」と評判になっている、藤倉大さんの自伝、「どうしてこうなっちゃったか」を読みました。  確かに面白いです。語り口だけでもとても。これだけ「書ける」方はなかなかいない。自然に書いていても面白おかしくなってしまうのかも。才能ですね。  とはいえ、もちろん、なんと言っても中身が面白いわけで。  まず、現役の、それもまだまだ若い世代(40代)で、国際的に注目されている方の自伝というのがそもそも貴重です。その方が、これだけ「書ける」ということも含めて

            体温のワーグナー〜東京・春・音楽祭「ローエングリン」

            上野で開催中の「東京・春・音楽祭」の目玉公演、ワーグナーの「ローエングリン」(演奏会形式)を鑑賞してきました(3月30日、東京文化会館大ホール)  「ローエングリン」は、ワーグナーのオペラのなかでもベッリーニの影響を1番感じるオペラ。ながーい旋律が典型です。長ーい旋律はワーグナーオペラによくありますが、本作の場合はとりわけ歌謡的。昨年、びわ湖ホールで「ローエングリン」を見た時にも感じました。今回のプログラムに、指揮のヤノフスキがそのことを書いていて、まさにまさに、でした。

            美しくダイナミックな演出と極上のキャストが炙り出す「ヴェルディ・マジック」〜metライブビューイング「リゴレット」

             ヴェルディの「リゴレット」は、名作のわりに、作品が生きる上演が難しいオペラのような気がします。  一つの理由は、少なくとも一部のオペラファンには「暗い」と敬遠されがちなこと。ストーリーが救いようのない悲劇であり、音楽とドラマが連動しているためでしょうが、「辛くなってしまう」と言われたこともあります。「音楽はいいけど、話がね〜」という声を聞いたことも。  とはいえ、暗い話の割に、音楽は明るいんじゃないでしょうか。有名な「女心の歌」がいい例です。他にも、有名な「リゴレットの四

            音楽とは、本当に強いもの〜東京・春・音楽祭 記者会見

             今日は「東京・春・音楽祭」の記者会見へ行ってきました。   毎年桜の時期に、上野近辺の会場で開催され、今年で18年目になる、クラシック音楽界の春を代表する音楽祭です。  この2年間はコロナ禍でかなり制限された開催を強いられてきましたが、今年は「3年ぶりにほぼ全ての公演を実現できる」(実行委員長の鈴木幸一氏)。コロナ鎖国も終わり、外国人もほぼ来日でき(ただしウクライナ危機でフライトがなかなか大変とのこと)、70公演ほどが開催されます。「18年やっていると、色々ある」と感慨