「母と子の愛」で結ばれた対照的な世界〜新国立劇場「修道女アンジェリカ」「子供と魔法」

 新シーズンが開幕した新国立劇場。ちょっと前ですが、オープニング演目のプッチーニ「修道女アンジェリカ」、ラヴェル「子供と魔法」のゲネプロに行ってきました。大野和士芸術監督が情熱を注ぐ「ダブルビル」(2作を一度に上演)です。
 2本立ての「ダブルビル」の狙いは、「一回で二度美味しい」。今回の2作は内容も音楽も対照的で、「二度美味しい」コンセプトにぴったりでした。成立時期は近いですが(両方とも20世紀前半)、オペラとしてのタイプも味わいも全然違う。そして舞台も!「母と子」の愛、という点でテーマは共通しているのですが。
 「アンジェリカ」は、プッチーニの「三部作」の一つ。修道院を舞台にした女声だけのオペラで、未婚の身で子供を産んでしまうという不始末をしでかし、修道院に入れられた貴族の娘アンジェリカが、再開を夢見た息子の死を知らされ、命を絶つ(ただし最後は救済?される)という切ない物語です。1時間足らずながら前半には修道院の生活風景(「蝶々夫人」第1幕の親戚たちの合唱のようにイキイキした合唱)、続いてヒロインと伯母の息詰まる対決、そしてヒロインの自決と救済?と内容は移り変わり、飽きさせません。
 粟國淳さんの演出は古典的ですが、新国の利点である回転舞台や二重舞台を活用し、見応えありました。とくに最後の二重舞台のせりあがりは効果的。ヒロインと公爵夫人の対決の場で投影される、修道院の象徴でもあるようや殴り書きのような十字架に、外界との繋がりを象徴する暗い窓があいている背景画が、ラストでも重要な役割を演じます。
 ヒロインを歌ったキアーラ・イゾットンの柔軟さと強さのある美声は大変魅力的で、沼尻マエストロの指揮も温かみがあり、ヒロインの悲しみに寄り添っていました。
 
 「子供と魔法」は、いたずらした動物や家具に懲らしめられる子供と、彼と「ママ」との愛情を描いたファンタスティックなオペラ。素晴らしい舞台でした!まさに総合芸術。バレエ、歌、美術、全てがカラフルで、生き生きしています。色彩感の鮮やかさは、イタリア育ちの演出家粟國さんならではですね。洗練された玩具箱みたい。音楽も躍動し、ラヴェルのエスプリがキラキラと煌めいていました。この役を十八番にしているクロエ・ブリオの美しいフランス語がオーケストラと混じり合うふわっとした感触は忘れられません。複数の役を掛け持ちしている三浦理恵さんの、甘くて透明感のあるコロラトゥーラも素晴らしい!
 最後はやはり二重舞台を活用し、夢から現実へ戻るところがでダイナミックに視覚化されました。
 
 プッチーニで心がしっとりした後は、ラヴェルで眼福、耳福。さいごにちょっとしんみり。完璧です。
 静から動。二つの全然違う物語世界を楽しめるダブルビル。オペラという舞台芸術の醍醐味が、気楽に味わえます。

 ゲネプロの後、初日にも行きましたが、特に歌手陣の力の入り方が全然違い、プロのペース配分の凄さを思い知らされました。
 
今日が最終日ですが(ギリギリの投稿ですみません)、ふらっとチケットを買っていくのもいいかもしれません。肌寒い雨を忘れさせてくれます。おすすめです。


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