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【SFミステリー短編】1.非殺風景な景色

田舎の少年の村に、突然現れた"白い柱"の数々。
異質な柱の謎を探ろうと少年が試みるが、一向に情報は得られない。

そんなある日、村で大きな災害が発生して……

(以下本編)
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 A村に住む少年の通学路はいつも殺風景だった。別に何も無い訳ではない。住宅街と山、田畑が広がる一般的な風景だ。

 でも、少年にはそれが代わり映えの無い景色に感じられ、とてもつまらないと思えて仕方なかった。

 しかしある日の下校時、少年はふといつもの景色が変化しているのに気づいた。

 通学路に一定間隔で白い柱が設置されていたのだ。柱は少年の背丈と同程度の高さで、先端には球体がついている。

 突然現れた得体の知れぬ柱を見て、少年は大層驚いた。それと同時にどこか好奇心がくすぐられたらしい。

 少年は興奮気味に、柱が設置してある土地の住民に、あれはなんだと問うてみた。

 住民曰く、あの柱は民間企業の実験機材とのこと。この辺り一帯に等間隔に設置されることとなったらしい。

 確かに、通学路以外にも村の各地に複数立っている。きっと大規模な土地開発でもするに違いない。

 やっと殺風景なこの景色ともおさらばできる。そう思った少年は白い柱について調べることにした。

 しかし、白い柱の用途は一般には公開されていないらしい。いくら調べても、一切情報は出て来なかった。国家的な極秘のプロジェクトの可能性もあり、少年の力では太刀打ちできない状況だと悟り始める。

 不思議に思いながらもそれ以上の情報を得ることが出来ず、少年は渋々情報収集を断念した。

 さて、しばらく経ったある時、この地域を猛烈な台風が襲った。

中心気圧は930hPa、最大風速は60m/s。伊勢湾台風に匹敵する台風だった。

 村には甚大な被害が出た。主に被害は建物だ。村の建物はほとんどが倒壊して使い物にならなかった。幸いにも住民の大半は隣の大きな街へ避難していたため、負傷者は少なく、人への被害は最小限で済んだ。

 ただ、これほどこれほどまで甚大な建物の被害が発生した事例は珍しく、国内でも大きく取り上げられることとなった。

 原因として、谷筋にあるこの街は台風の中心経路では無かったが、突風の発生によるものだったと後に発覚することとなる。

 しかし、不思議なことに、建物が倒壊しても民間企業の設置した白い塔だけは倒れることもなく残っていた。

 台風の直後に少年が村を見た時には、白い柱だけが目立ち、等間隔に置かれているため、とても気味が悪く感じられた。

 少年は一旦別の街に引っ越すことに。後にこの街に訪れた時には白い柱は無くなっていた。結局、白い柱の秘密に触れることはなかった。

 ……そして歳月が経ち、少年は立派な大人へと成長した。

 台風による被害の経験から、民間の防災研究員となったのである。

 そんな研究員の男性だが、最新技術を取り扱う友人から声がかかった。

「タイムマシンがついに完成しました。しかし、まだ法が整備されていないため、公には出来ません。公表前に、実験的に人の役に立つ方法での利用を画策しているのですが……何か得策はありませんか?」

 男性は考えた。

 現在男性が専門にしているのは、気象に関する防災研究だ。

 気象の観測データは最近こそ観測器が普及され豊富になり、防災研究も進んでいる。

 しかし、一昔前は観測器の設置数が少ない上に精度も低く、限られた場所にしか設置できなかったため、蓄積データが無いのだ。

 それならと、男性は気象に関する共同研究を提案してみた。

 過去に観測器が設置されずデータ未取得となっている所に観測器を設置し、過去データを取得。今後の防災に役立てられるよう考えた。

 ただ、問題はどこに置くかだ。そしてふと幼少期を思い出した。甚大な被害の出たあの場所を襲った突風が、どのようなメカニズムで起こったしたのか手掛かりを掴むためだ。

 きっと、今後同じような現象で被害に遭うだろう地域を、減らすことが出来る。

 そう考えた男性はこう告げた。

「過去に観測器を置きたいと思います」

 男性の共同研究は無事承認され、過去に観測器を設置することになった。

 設置場所は、過去に突風で甚大な被害の出た故郷である。

 被害を防ぐのは過去の上書きに当たるため出来ないが、気象の参考となるデータを取得するのであれば問題ない。

無事、突風が発生した前後数日の観測値を確保することが出来た。

……全てが終わり、男性は白い観測器を回収しながらふと昔を思い出した。

そういえば、少年時代に非殺風景な白い柱を見たが……この気象観測器と似ているな……と。