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『海辺の彼女たち』映画レビュー

題名:海辺の彼女たち 英題:Along the Sea

制作年:2020年

監督:藤元明緒
 
レビュアー:藤田いろは(京都産業大学現代社会学部)


ベトナムから技能実習生として日本にやってきたアンとニューとフォンは、劣悪な労働環境だった職場から脱走し、海辺の雪が降る街とやってくる。彼女たちに用意された家はストーブと必要最低限の家具が置かれ、仕切りも不十分な質素な小屋だった。そこで3人はブローカーに紹介してもらい、慣れないながらも漁港で働き始める。そんな中、フォンが体調不良で倒れてしまう。
3人のベトナム人技能実習生同士での会話が多く、日本人と関わる場面は少なかったが、ごめんなさいと何度も口にする場面が印象に残って、胸が痛くなった。ありがとうよりもごめんなさいと何回も言う彼女たちを見ていると、日本での劣悪な労働環境がそうさせたのかもしれないと思い、日本人として申し訳ない気持ちになった。
3人の女優はハノイとホーチミンで行われたオーディションで、100人の中から選ばれたという。中には演技が未経験ながらも抜擢された方もいたと聞いて驚いた。3人の自然な演技がリアリティーを増して、ドキュメンタリーのように思わせられた。そのため、感情移入してしまう場面が多く、どんよりした気持ちになることが多かったと思う。
この作品はフィクションだが、主人公の3人のように誰にも頼れず、異国の地で辛い思いをしている人がいることは現実で、想像するだけで胸が苦しくなった。もしかしたら、映画のように3人でいられるのはまだましで、一人きり、日本語もままならない状況で一日一日を懸命に働いている人もいるかもしれないと思った。そんな人たちが辛い気持ちを抱えずに働ける環境を実現していくためにも、私たち日本人は現実と向き合わなければいけないと感じた。
外国人技能実習生の置かれている状況や実態について問題提起をする作品ではあったと思うが、一人の女性の妊娠という個人的な問題に観点が移っていて、少し違和感を覚える作品のように思えた。また、フォンが人工妊娠中絶薬を飲むところで終わるが、結末がどうなるのか気になりながら観ていたため、急に終わったような印象を受けた。しかし、私たち日本人が外国人技能実習生の現状を知るきっかけになるとても良い作品だったと思う。実際私はベトナムに関係する映画ということで鑑賞したが、日本の外国人労働者の受け入れや、移民についても興味がわき、もっと調べてみたいと思った。
この作品は日本とベトナムの共同で制作された映画で、サンセバスチャン国際映画祭・新人監督部門に選出されるなど、海外からも高い評価を得ている。現在も全国にて公開中だ。これから公開される地域も多いので、ぜひ近くの劇場で観てほしい。上映時間は88分と少し短めなので観やすい映画だと思う。

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