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ペットのドジョウ


自分の家は昔からペット禁止だ。

それでもただ一度だけ捨て猫を拾った事がある。当時5歳だった自分は初めてのペットを心底可愛がっていたが、ある日、父がその猫をもう一度捨て直すという無情の犯行が判明。


唐突に訪れた別れに耐えられず三日三晩泣き続けて最終的に父が詫びの仮面ライダーベルトで丸く収められるという形でこの事件は幕を閉じた。それ以降しばらく家にペットはいなかった。



数年後、友達と田植え体験に行った時「ドジョウすくい」が催されていた。
興味本位でやってみると思っている数倍難しく、ドジョウを絞殺する勢いで掴みに行かないと手から滑り落ちてしまう。気合いで7匹掴み取り、帰りの車で獲ったドジョウを鍋にして食べようと友達の父親が提案したが自分と友達は、すでに愛着が湧いておりドジョウをペットにすることにした。

恐らく犬や猫を飼いたいペット欲が強すぎて、もうドジョウにすら愛着が湧いてしまう脳になってしまったんだろう。



お隣さんはトイプードル。斜向かいのお家はダックスフンド。ウチはドジョウというアブノーマルペットライフが始まった。
ドジョウ達に特に名前はつけたりせず(デカイやつと小さい奴しか見分けがつかない)とりあえずカブトムシを飼ってた時の飼育ケースに入れて飼い始めた。

友達はドジョウの飼い方を調べて、育てるケースを発泡スチロールにしたり、中に砂を入れたり、水をこまめに変えたりとドジョウに良い環境を整えていた。

対して自分は水槽が緑色まみれに汚れてもしばらく変えずエサは金魚用だったりと大分ずさんな飼育をしていた
にも関わらず友達の方が先にドジョウを全滅させてしまっていて、これは自分なりの推測だがこまめに水を変えられたりしても元々汚い川で生きてきたドジョウには生きづらかったんだと思う。汚れたドブ水の方がきっとドジョウの肌には馴染んでたんだろう。間違いない。



自分の怠惰を詭弁でまかり通して早2年。まだドジョウ達は元気にくせえドブ水の中で暮らしていた。
そんなある日事件が起きる。

冬、雪が降り積もった庭で、いつものように母が水槽の水を変えているとドジョウが1匹水槽から飛び出して雪の中に吸い込まれていった。ドジョウの生死をかけた母とのリアルドジョウすくいスタート。 
母も息子の可愛がっているドジョウを死なせるわけにいかないので必死に掴みに行くがドジョウの習性上、どんどん下に潜っていくので掴みあげるのは困難を極める。

結局、ドジョウは雪の上で静かに息を引き取った。

しかし母は諦めなかった。息子がこの事実を知ったらどんな怒号が飛んでくるか。そこで考えたのが動かなくなったドジョウをぬるま湯につけるという焼け石に水な対処だったのだが、しばらくするとドジョウが動き出していた。どんなミラクルだ。

確かにドジョウは一度死んだ。だが実はまだ仮死状態で細胞までは死んでおらず、ぬるま湯で蘇生されたのだ。息子が居ない間、ドジョウを一度殺してから蘇生させるという母の驚愕的な行為を後に知った。


月日が経つにつれてドジョウは少しずつ旅立っていき、中学生なる頃には水槽の中にはもう1匹しか居なかった。最初は小さかった奴が今では恰幅の良い大物に様変わりしていて嬉しい気持ちになる。
そんなドジョウとの日々を噛み締めていたがエサを変えてから僅か数日で最後の1匹も旅立ってしまった。
きっと変えたエサが合ってなかったんだな、気づいてやればよかったと後悔しながら庭に埋めて長いドジョウとのペットライフが終わった。


ドジョウすくいの時はこんな長い付き合いになるとは思っていなかったがあの時お前らを鍋にしなくて本当に良かったよ。天国で待っててくれ

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