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薄暮のシダネル、コントラストのマルタン

会期終了間近で、やっと「シダネルとマルタン展」を見にSOMPO美術館に行って来ました。
新宿は苦手なのですが、行って良かったです。
本当に好きな絵ばかりといっていいくらい、素敵な展示でした。

展覧会のパンフレットには、アンリ・ル・シダネルとアンリ・ル・マルタン「最後の印象派、二大巨匠」とあります。
シダネルは2012年にSOMPO美術館で行われた展覧会で見ていて大好きでしたが、マルタンはほとんど知らなかったといっていい画家です。

会場を入ってまず目に入るのは、マルタンの大きな絵でした。

「野原を行く少女」アンリ・ル・マルタン

印刷だと暗くなってしまうのですが(それがいつも不満)、実際は明るい黄緑色の草原とドレスにまとわりつく花々の色がとても美しい絵で、大好きでした。もう一度見たいくらい。
確か、彼の姉妹がモデルと説明があった気がします。

「ガブリエルと無花果の木<エルベクール医師邸の食堂の装飾画のための習作>」アンリ・ル・マルタン
「二番草」アンリ・ル・マルタン

上の2点は撮影可、個人的にSNSアップ可でした。
今日は来場者がけっこう多かったので、ちょっと斜めから撮りました。
どちらも陽の光がまぶしく美しいけれど、上の絵は特に、写真だったら撮りたくない時間帯だと思ってしまう。。
下の「二番草」こういう光のコントラストはドラマチックで、必ず撮ります。
今回の展示は珍しく、写真を撮る感覚で光を見ている自分がいます。

「マルケロル テラス」アンリ・ル・マルタン

雨で光るテラス、遠くの林がぼやーっと雨で煙る中、手前の赤い花(ゼラニウムかな)と緑のコントラストが印象的した。
雨の音まで聞こえてきそう。

「ジェルブロワ、テラスの食卓」アンリ・ル・シダネル

シダネルはこの1枚が撮影可でした。
手前のテーブルは陰になり、遠くの街並みに陽が当たっています。シダネルの絵ではこういう光と陰のシーンをよく見かけますが、私も好きな情景なので、目の前にこんな光があったら撮りたくなります。

アンリ・ル・シダネルを知ったのは、2008年に発行された『旅』という雑誌の「ノルマンディは薔薇の村から」という特集。
フランスのノルマンディー地方にある薔薇の村と呼ばれるジェルブロアの記事でした。
村中の建物すべてが薔薇で彩られる宝石のような村です。
(雑誌ではジェルブロア、今日の展示ではジェルブロワ)

ジェルブロアを薔薇の村にした立役者が、アンリ・ル・シダネルだったそうです。
田舎にアトリエを作ろうとした彼は、彫刻家のロダンに勧められてノルマンディーに移り住み、ジェルブロアを発見したとのこと。
その当時は中世の宗教戦争で荒れたままの姿の村で、古い家を買い取って修復し、1901年に移り住んだそうです。
そして村の建物を修復し、村中を薔薇で飾ることを提案したのはシダネルだったそう。
雑誌でシダネルの絵とアトリエの写真を見て、いっぺんに魅了されました。
2012年に「薔薇と光の画家 アンリ・ル・シダネル展 ~フランス ジェルブロワの風~」という展覧会がSOMPO美術館あると知り、見に行きました。

2012年に購入したポストカードの一部

ちょうど10年前ですね。
初めて見るシダネルの絵はとても印象的でした。
日暮れの薄暗い時間帯が多く、でも建物の中にはオレンジ色の温かい灯りがともっていて、人の気配を感じます。
その静謐な世界が大好きでした。

人は描かれていませんが、ジェルブロワより前は人物も描いていて、今日の展示にも人が描かれたものがいくつかありました。
また、ごく身近な人は描いていたようです。

左「ジェルブロワ、離れ屋の前の小卓」 右「ポン=タヴェン 橋」

今日購入したシダネルはこの2枚。
でもベルギーの絵や、ヴェルサイユの月の夜の絵も買っておけばよかったと後から思いました。前に買ってあったような気がしたんですよね。

今日はふたりの絵を同時に見ていって、マルタンのほうが色の彩度が高く、コントラストが強いことがよくわかりました。特に赤と緑のコントラストが印象的。
描かれている風景も、日の高い時間が多く、写真だったら避ける時間帯だなという印象です。

シダネルは薄暮はくぼといった日暮れ時がとても多いし、すっかり日が落ちて窓に明かりが灯る時間帯が多い。
幻想的というか、まどろみの中のような雰囲気の絵が多いのです。

あらためて展覧会のパンフレットを見ると、シダネルは北フランス、マルタンは南仏の光を描いていたと書いてあって、なるほどと思いました。
以前知り合いのフォトグラファーが、南仏の光はパリと比べて強く、露出がぜんぜん違うといっていたのを思い出します。

マルタンは知らなかった、と書きましたが、実は中学の社会科見学で上野の西洋美術館に行ったとき、とても好きだった絵のうち3枚をポストカードではなく、A4くらいのサイズで購入しました。
その中の1枚が、花に囲まれた池の絵で、どうやらそれがマルタンでした。その池を違う角度で描いたものが、今回展示されていました。
名前も気にせず買っていたのですが、シダネルより先にマルタンの絵を知っていたのでした。

最後に、すこし異色な感じの作品を1枚。

「クレマンス・イゾール」アンリ・ル・マルタン

クレマンス・イゾールとは伝説の人物だそうですが、初めて聞く名で気になったのでいま検索してみたら、

「黄金のイシス」あるいは「金色のイシス」を意味しています。クレマンス・イゾールが実在の女性であったことを示す資料が何点か残っており、それによれば彼女は、15世紀の後半から16世紀前半にかけて、フランス南部のオック語圏に暮らし、その類まれなる美貌と才能で人々に強い印象を与えたとのことです。その一方で、クレマンス・イゾールとは、過去の時代の古き女性像を伝えるために作り出された架空の人物であったと述べている資料もあります。

という記述を見つけました。
これはバラ十字会日本本部のサイトにありました。
今日の会場で、アンリ・ル・マルタンが、「バラ十字展に出展」という記述があって、中世の時代に存在した薔薇十字団という秘密結社のことを思い出していました。
現代のバラ十字会は、政治や宗教とはまったく関係がないと記載があります。
でもとても興味深いと感じました。

話が逸れましたけど、1つの美術展で1,2枚かなりお気に入りの絵に出会えればバンバンザイなのに、今日はたくさん好みの絵に出会えて幸せです。
巨匠の絵や有名な絵を興味深く見る、ということと、本当に自分の好みの絵を見るということは、やっぱりちょっと違うのですよね。


最近も新宿三丁目には行きましたが、小田急側に出るのはひさしぶり。
あのあたり、再開発でいったん閉店になるみたいで、すでに閉まっている店も多くてビックリしました。
新宿は人が多くて苦手ですが、それなりに思い出もあります。
初めて個展をやったのが、小田急ハルクの上のイタリアンレストランでした。その店は、今日みたらすでに無くなっていたようです。
もうだいぶ昔の話です。

渋谷もですが、知っている町がどんどん消えていきます。
時の流れで仕方がないですが、なんだか淋しい感じもしますね。

書くこと、描くこと、撮ることで表現し続けたいと思います。サポートいただけましたなら、自分を豊かにしてさらに循環させていけるよう、大切に使わせていただきます。