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ある対話(関西弁)――2023年に読んだ本

※昨年

A:2023年ももう終わってもうたやん。えらい早かったな
B:年取ると時間の流れが早くなる言うのはほんまやと思うわ。2023年になじまんうちに2024年になってまう
A:こう早く時間が経つと本もあんまり読まれへんな。今年はなんかええ本あった?
B:そうやなあ……。今年忙しくていつもよりあんま本は読めてへんねんけど……

B:記憶の新しいやつからいくと、最近読んだ山内朋樹『庭のかたちが生まれるとき』はおもろかったな。タイトル通り、庭師の人についていって庭ができていく様子を記録してくれてるねん。庭を作るドキュメンタリーとしても読めるし、庭に関する評論みたいにも読めるし、ひとつぶで二度おいしい感じやな
A:たしかに、庭ってようわからへんわ。特におしゃれなやつはようわからん。なんか石とかおいてあるイメージや

B:せやねん。それに俺ずっとマンションやったからな。庭のことなんて考えたことなかってん。その分おもろかったわ。あと美術つながりでいうと、松田修の『尼人』が笑えるという意味でおもろかったな。
A:Chim↑Pomと仲ええ現代アーティストやな。あのひと「アマ」なんや
B:みたいやねん。「アマ」いうたら関西でも特殊なとこやんか。俺も年に1回用事で行く行かんかいうとこやけど、この本読んだらやっぱヤバイ人多くておもろかったわ。本人もかなり個性的やしな。尼崎人生態図鑑みたいな感じやな。ちなみに松田修はChim↑Pomの卯城竜太『公の時代』って対談本も出してて、これもなかなかよかったで。比較的まじめにしゃべっとる

A:あ、美術対談で言うたら今年ホックニーとゲイフォードの『絵画の歴史』読んだわ。「画像」って観点から世界中の芸術の歴史をいろいろ見ていくねん。絵に対する姿勢みたいなんて言うかな、それがようわかったわ。
B:ホックニーってipadで絵とか書いてる人やんな。あの人の絵の感じ、なんか好きやわ
A:展覧会見に行ったついでにこうてん。展覧会もなかなかよかったで。あと美術手帖の『目[mé]特集』(2024・1)も、このアーティストがどんなことやってるか、全体像が見える感じで面白かったな。「スケ―パー」とか「半静物」とか、考えたくなるような橋がようさん出てきたわ
B:あんま難しいこと考えたら脳みそ爆発すんで
A:いや、ちょくちょくメンテしてやらんと腐り落ちるやろ。いっそのこと『やわらかあたま塾』買おうかと思ったくらいやのに

B:ゲームやんけ。なんか、本での変わり種はないん?
A:むずい質問やなあ。ふだん読まへん本っていう感じで言うたら、岡嶋裕史『ブロックチェーン』がおもろかったで。ブルーバックスや
B:ブロックチェーンって、あのビットコインとかのやつか
A:そうそう。なんとなく有名やけど、中身がようわからんやんか。せやから気になって読んでみてんけど、暗号の変換の話とかから丁寧にやってくれてて、オレでもええ感じに読めたで
B:自分が分かるんやったら、たしかにだれでも読めそうやな
A:うっさいわ

B:こっちの変わり種は坂口恭平の『TOKYO0円生活』やな。ホームレスの人が作ってるダンボールとかブルーシートとかでできた「0円ハウス」を取材した本やねん。ホームレスのルポみたいなんはようさんあるけど、「0円ハウス」を建築として真面目におもしろがってる感じがええわ
A:坂口さんか。読んだんは去年やけど、『独立国家のつくりかた』もよかったな
B:このひとは自由なんがええとこや。暗いニュース多いからな、エネルギーもらえるわ

A:あと変わり種言うたら、『タイ現代ポストモダン短編集』とかも読んだな
B:タイ文学か。読んだことあらへんな
A:せやろ。オレもなかったから、ためしに読んでみてん。けっこう政治性が強い感じで、階級意識とかもあって、日本の現代文学の「オレオレ」感とはだいぶ違ったわ。あ、あと台湾やけど呉明益『歩道橋の魔術師』もよかったで。なんか村上春樹感ある。あるでっかいショッピングモールにおった、魔術師の話なんやけど、そいつが主人公ってわけじゃなくていろんな人の思い出話にちょくちょく魔術師が登場するような仕掛けになってんねん。朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』に近いかも知れへん
B:それは良さげやけど、「オレオレ」感てなんやねん
A:「オレの話聞いて欲しいわ~」って感じのやつや
B:……なんか悪意あらへん?

B:小説言うたら、相沢沙呼の『medium』はすごかったな
A:ああ、あれはええ探偵小説やな。いろんなとこで話題になっとって、そのうち読も思いながらようやく読んだけど、歴代で読んだミステリーの中でもトップの完成度やわ
B:ちなみに他にミステリでよかったやつあらへん?せっかくやし他のも読むわ
A:今までので挙げとったらキリないから今年読んだやつにするんやけど、原田マハ『楽園のカンヴァス』はよかったで。ルソーとピカソの絵画をめぐる、歴史絵画スペクタクルミステリーや。逆に、島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』はひどかったな。あれで読者への挑戦入れたらあかんやろ
B:お怒りやな
A:新本格は途中からトリックに凝って、複雑になりすぎたわ。いまのミステリ作家が割りとワンアイデアのスマートな解決で決めに行くんも、そうせな読者がついてこうへんからやろうな。それにしても天狗の鼻は許せへん
B:逆に読みたなってきた

A:変わり種とちごて、王道はなにがあるやろ
B:今年は東浩紀の『訂正可能性の哲学』が出たのがでかかったんちゃう。まえの『観光客の哲学』からだいぶ経っての、なんというか正面切っての批評やん
A:『訂正する力』とかも出とったね。こっちのほうが入門にはええんかな
B:東に関しては好き嫌いあると思うし、それも分かるんやけど、読まへんって選択肢はない人やと思う。じっさいこの本もリベラルの行き詰まりとか、落合陽一やら成田悠輔やらのAI推進論者への応答とか、しっかり勘所みたいなん押さえとるもん
A:たしかに王道やな。王道といえば、最近浅田彰『構造と力』の文庫化もあってちょっとびっくりしたな。単行本持っとるから別に文庫は買わへんけど
B:でも正直『構造と力』って現代思想マニア向けみたいなとこあると思うわ。よく知らんやつが読んでも分からんくて、ある程度知ってるやつが読んで整理の仕方とかを楽しむような本や。門の内側におるやつには面白い入門書みたいな感じや
A:まあ、「これから現代思想読みますぅ」って人に勧めへんのはそうやな

B:あと王道枠は佐藤卓己ヴィリリオやな
A:メディア論の王道やな。どしたん、急に
B:ちょっと必要があってん。佐藤卓己やと『KINGの時代』『輿論と世論』『ファシスト的公共性』あたりやな。そのへんのひとらがなにかに「参加」したいって気持ちから生まれる公共性って話、俺の関心にベストマッチや
A:ほーん
B:もっと興味もてや。ヴィリリオは『ネガティブ・ホライズン』『アクシデント』やな。なに言ってるかようわからん部分もあるけど、とにかくかっこいいし、時間と速度って観点から現代のメディア環境を見ていく一貫性がええわ。『ネガティブ・ホライズン』とか、タイトルがすでにかっっこええ
A:ほーん、まあ、かっこええな
B:あかん。全然こたえてへん

B:ところで自分、詩の研究者やろ。詩集をなんか挙げんかい
A:詩はもうちょっと丁寧に記事作りたいんやけど……
B:名前だけでええから。2023年読んでよかった詩集や
A:名前だけやったら、素潜り旬『パスタで巻いた靴』暁方ミセイ『ブルーサンダー』蜆シモーヌ『膜にそって膜を』入沢康夫『歌 耐える夜の』あたりやな
B:なんかバラバラやなあ
A:好みに一貫性がある方がウソやと思うで、オレは
B:まあそうかもしらん
A:そういえば、今年は近所に「アルチュール・ランボー」ってバーを見つけてん。おばちゃんがやってるスコッチウイスキーのバーやねんけど、やっぱり詩人のランボーリスペクトらしくて、話が盛り上がったわ。ふたりとも中原中也訳のランボーが好きってことで意気投合した
B:ええバーやな
A:しかも値段も安いねん。ふたりで合計5杯飲んでんけど、お会計合わせて3300円やで。たぶんチャージ料とかあらへん
B:ええバーやなあ!

A:来年はどんな本読みたいとか、あるん?
B:いや、そんなに考えてへんけど……。たぶん忙しゅうなるから、「とりあえず読んどこ」みたいな読書は減らさなあかんやろな。ある程度使うもんを読んでいく感じにはなると思う
A:世知辛いわ
B:しゃーない。自分は?
A:やっぱ詩集やな。もっと読まなあかん。なんだかんだ、研究者が作品読んでへんのはダサい
B:真面目やな
A:真面目で売っとるんでな
B:買い手がついたらええけどな

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