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アメリカで出会った100の光景 No.30(大自然の絶景)まるで絵本の中・オリンピック国立公園のホーレインフォレスト

トレイルを歩いていると強い日差しと乾燥に苦しむことが多いアメリカの国立公園巡りにおいて、珍しく深呼吸がしたくなる気持ちいい湿度の空気に満ちている代表格の場所がここだ。

ワシントン州のオリンピック国立公園にあるホーレインフォレスト。なんだかかわいい名前の森へのトレイルは、未知なる世界への入り口。足を踏み入れると、目の前には幻想的な温帯雨林の緑の森が広がる。


ただでさえ緑濃い森を、さらに緑深いものにしているのは苔とシダ。
立っている木々の幹も、倒れている丸太も、これでもかと周りを黄緑色の苔が覆っている。大きく枝を広げた木からは、レースのように苔が垂れ下がっている。苔をまとってドレスアップした木が、両手を広げて歌い始める。
♪wind is blowing from ・・・ 違う違う、ここはエーゲ海じゃない。

太平洋だった。

他に歩いている人とはめったに会わないトレイルだが、かわいい子鹿に出会って幸せな気分になる。
目が合うと森の奥に隠れてしまったけれど。


古代に迷い込んでしまったような気分に浸りつつトレイルを歩いていると、静かな森に「コーン、コーン」という大きな音が響いてきた。
国立公園を歩くようになってから、かなり、周りの音にも注意を払うようになった。山を歩いていて、カサカサっと音がしたらそこにはリスがぜったいいるぞ、とか、コンコンコン上の方で音がしたら、キツツキが木をつついているとか。
しかしこの、コーンという大きな音は初めて聞く。まさか、まさか。不安がよぎる。
こんな神秘的なところで、工事なんてしてないよね。そんな無粋なことはやめてね。
歩みを進めるつれ、音がだんだんと大きくなっていく。
そして、目に入ってきたのは大きなオスのエルク(鹿)!
音の原因は、彼が角を木に打ち付けていることだった。


それはそれは、おとぎ話の世界のような光景だった。
だけどそれは、絵や写真や映像で見たらそうだろうということであって、目の前で繰り広げられていると、うっとりはあっという間に恐怖に変わった。とにかくエルクの大きいこと。奈良の鹿が日本人サイズだとしたら、ここのエルクはやっぱりアメリカ人サイズ。そして、その血走った目が真剣そのものだということ。
もし、わたしたちが見ていることに気づいたら、すぐに木からわたしたちに突くターゲットを変えるんじゃないだろうか。
音を立てないようにそっと先へと進んだ。時折振り向いてエルクがついてきていないことを確認しながら。


無事に太古の森から帰還できてよかった。

ホーレインフォレスト・オリンピック国立公園(ワシントン州)
Hoh Rain Forest, Olympic National Park (WA)

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