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『好きで好きでどうしようもなかった人には奥さんがいた話』

今日はイメージソングをつけてみました。

私もまもなくアラフォーになる。
この年になるといくつかの恋愛を経験しているものだと思うが、私は恐らく人よりもその経験が少ない。

私が人生で心から愛した人は4人。
ひとりは10代から20代になるまでずっと好きだった人。
ひとりは我が旦那。
ひとりは皆さんご存知の通り坂本昌行。
そしてもうひとりは、
キャバ嬢時代に出会ったD社長である。

💔恋愛をこじらせた自分

キャバクラに勤める女性というのは、少なからず“男性“に対する付き合い方に、負い目をもっている人が多いと私は思う。
彼氏や旦那がDVをしてくるだとか、彼氏がヒモだとか、ろくでもない男とばかり付き合ってきたから男性不信だとか。
男性に苦労させられてきた女性が多い。

そんな時、たったいっときの関係であっても、
ちやほやされ、優しくされ、大事にされたらどうなるだろう。
とてつもなく悪い言い方になるが、
いわゆる“チョロい“女性が少なからず水商売に存在するのは、ここらへんに原因があると私は睨んでいる。

さて、では私はどうか。
私もまた、“こじらせた“人間であったことは間違いないだろう。

恋愛対象はほぼアイドルで、偶像が恋愛対象だからやたらと理想が高くて、若い時にありがちな感覚ではあるけど、偶像以外の他の男性を全て見下していた。

私がキャバ嬢で売れなかった理由の半分も、たぶんコレだ。
お客様に連絡先を教えて、密にやりとりをして、アフターやら同伴やら、そういったサービスをしないと売れていかないのに、私はどうしてもそれが出来なかった。

自分の目に叶う男性以外が、自分の隣を歩くことが許せなかったのである。

今考えれば頭おかしんじゃねえか自分と思うが、
当時の自分にとってはそれが正義だったし、どうしてもそのポリシーをねじ曲げることが出来なかった。

そして、そんな私の前に現れたのがD社長だった。

💔すべてが完璧だった

見た目も、スペックも、立ち振る舞いも。
すべてが好みだった。

見た目なんかは今思い出しても悶えるくらい、私の大好きな坂本くんに似ていてかっこよかったし、めちゃくちゃ見た目が好みだった。
そして何より複数の会社を経営する社長である。

当たり前の話だが、女性に対する扱いはとんでもなく紳士だった。

『キャバ嬢になった話』でも触れたが、彼の発する言葉には重みがあった。
誰が何を相談しても、的確な答えを返してくれるし、辛そうな子がいれば、しばらく付き合って話を聞いてあげていた。

女性が嫌がることは一切しない。
どんなに緊張した新人でも、彼の席につくといつのまにか笑っている。

空気感、というのか。
彼の横にいると安心するのだ。
年の離れた兄ほどの年齢ではあったが、包容力が尋常じゃなかった。

だからD社長はキャストみんなの人気者で、時々彼を取り合って小競り合いが起こるほどだった。

そのD社長がお気に召したキャストがいた。
普段絶対に特定のキャストを指名をしないD社長が、その子がいる日だけ、必ず指名するキャストが1人だけ存在した。

そう、私である。

💔いつのまにか好きだった

私のどこが、なにが彼の琴線に触れたのか、未だに考えても答えは出ない。
見た目だけでいえばもっと可愛い子はたくさんいたし、私は自分の人見知りを治す為にキャバクラに働きに出るくらいなのだから、決して話も上手くなかった。
芋っぽいから“チョロい“と思われたのかもしれないが、だとしたらそれを見抜いた彼はやはりすごい人なのだろう。

チョロい私は、そうしてD社長と話をしているうちに、どんどん彼のことが好きになっていったのだから。

何か明確な出来事があったわけではない。
好きになるきっかけなんてわからない。

ただ、いつのまにか好きだった。それだけだ。

この期に及んでも連絡先を教えなかった私とD社長は店だけの関係だったけど、出勤するたびに彼を待っている自分がいた。
来てくれた日は嬉しかった。
来なかった日は不安になった。
そんな私を見かねたのか、NO.1のC姉さんは
「それは、キャバ嬢がプロとして1番やってはいけないことだ」と叱ってくれたけど、それでも気持ちは止められなかった。

C姉さんに叱られて「じゃあ店で会わなきゃいいんだろう」と暴走した私は、こっそりD社長と連絡先を交換した。
そうじゃないだろ、と今の私からすると呆れ果てるばかりだが、それから私とD社長は外で食事をするようになった。

💔関係の変化と優越感

外で会うようになったといっても、本当に食事をするだけだ。
生々しい話をするとホテルに行ったり、そのまま同伴したりは絶対にしない。

いくら指名されているとはいえ、D社長と一緒に店に入ったりなんかしたら非難轟々で恐ろしいことになるのはわかっていたし、私にはそこまでの勇気はなかった。

けれど、その関係は、私に不思議な優越感をもたらしてくれた。

誰も知らない関係。
あなた達が席を取り合っているこの人と、私は個人的に会える関係にある。
そして坂本くんに似ているこの人と、こんなにカッコいい人の隣を私は歩いている。

いつもなにかと下に見られがちだった私が、
唯一手に入れた優位性。
そんなものにすがれば、後に待つのは破滅であると、今の自分ならわかるのに。
若かった私は、それがどんなに危険な感情であるかを知らなかったのだ。

💔そして真実を知る

ある日、C姉さんが言った。
このキャバクラのNO.1である彼女は、キャストの中でも1番長く勤めている人だった。
だからお客様同士の関係であったりとか、お客様がどういう人なのかとか、この店にいる誰よりも知っていた。

「リト、アンタD社長と最近どうなの」

「どう、って。別にどうもしませんけど」

「ならいいけど……。あの人、既婚者だからね。
騙されるんじゃないよ」

「えっ……」

そんな馬鹿な、と愕然としつつも、“そりゃそうだよな“と納得している自分もいた。
見た目が良くて、高スペックで。
女性の扱いにも長けているとなれば、結婚していないはずがない。

当時、私とD社長はいわゆる男女の関係には一切なかったから、その点では心配することはなかったが、私の心にはモヤモヤとした何かが残った。
だってこのまま進んでしまえば。
遠からず、そうなるであろうことは、誰の目から見ても明らかだったから。

💔葛藤

C姉さんに真実を告げられてから、
私はずっと悩んでいた。

彼が好きなのも本当、これから先の関係を望みたいのも本当。
でも、D社長には自分の知らない家族がいて、すでに愛を誓った人がいる。

ならば自分は2番手ということだ。
そして例えどういう関係になったとて、
その2番手が覆ることは一生ない。

どんなに彼を好きになったところで、奥さんと離婚して、自分と結婚してくれるなんて幻想だ。
だって私は年齢も若くて、世の中の何も知らないただのクソガキなのだから。
そんな私が、社長夫人という立場になれるわけがない。
恋に浮かされた頭でも、それくらいの判断は出来た。

2番手でいいのか。
例え顔も知らない人だとしても、誰かを傷つけてしまう恋愛でいいのか。
良いわけがない、正しいわけがないのに。

迷っていた。
それでもいい、と何処かで囁く自分がいた。
醜い感情であるが、私は一瞬でもそう考えてしまった私を否定しない。

💔私の答え

数日後、私とD社長はとあるレストランにいた。
食事をしながら、いつものように他愛のないことを話す。
楽しそうに笑う彼の左手薬指には、
今日も指輪ははめられていなかった。

それを見た時。
裏切られたような、恨みがましいような、苦しいような、切ないような、複雑な気持ちになったことを覚えている。

食事を終え、外に出る。
そこはビルの2階にあって、階段で下に降りようとした。
その時、たまたま酔ってふらついてしまった私は、気がついたらD社長の腕の中にいた。
抱き締められたのだ、と気づくまでにはゆうに数秒の時間を有した。

ふらついて、足を踏み外すといけないから、という理由であっても。
これまでよりもグッと近い距離にお互いがいる。
まるでそうするのが自然なのだとでも言うように、彼の顔がゆっくりと迫ってきた瞬間。

「ーーやめてください」

私は彼を拒絶した。
違う、と。咄嗟に感じたのである。
誰かを傷つけて、誰かを踏み台にして、
例えそれがその“誰か“に知られることがなかったとしても。

そうして育まれる恋愛が、尊いものであるはずがないし、そんな悲しい恋愛をしたくなかった。
傷つきたくなかった。
私は自分が思うよりもずっと、臆病者だったのだ。

💔好きな気持ちは変わらない

私とD社長は、それから2人で外で会うことはなくなった。
店には来てくれたし、指名もしてくれたけど、連絡を取り合うことはもうしなくなった。

元に戻っただけ。
店だけの関係に戻っただけ。
それでも、私は店を辞めるその日まで、D社長のことが好きだった。

好きだった気持ちを、否定したくはない。
私と彼が近づいたあの一瞬、ほんの一拍、止めるのが遅かったら、きっと戻れなくなっていたくらいには汚い感情だとしても。
私が彼を好きな気持ち自体を、消してしまいたくなかった。

誰にも迷惑をかけないから、好きでいることを許して欲しかった。

私が店を辞めるその日。
D社長は店に来なかった。

ただ1通のメールが私の携帯に入ってきた。

「ありがとう」と。
たった一言だけ綴られたメールを、
私は今も消せないまま、古い携帯に残している。

💔綺麗な想い出

あの時。
一瞬の判断が遅れて、私が一線を越えてしまったとしたら、きっとこんな風に綺麗な想い出にはならなかったんだろうと思う。

嫉妬とか、羨望とか。
複雑なものが絡み合って、見るに耐えないものに変化していたと思う。

だからこれでよかった。
何事もなく終わりを迎えてよかったんだ、と。
今は納得して、ようやく思い出せるようになった。

不倫を否定はしない。
それが本人達にとって純愛であるのなら、私はそれを“いけないことだ“と断じるすべを持たない。
でも、結局悲しい思いをするのは自分で。

どうにもならなくなった時に、引き裂かれるような別れをしなくてはならないのも、自分なのだ。

ちなみにこの話を旦那にしたら、旦那はものすごく複雑な表情で。
「いくらその社長が坂本くんに似てるからって、ほぼそれだけでそこまで暴走するってことは、
それ結局、その社長が好きだったんじゃなくて、坂本くんが1番好きだけど手に入らないから、その社長を身代わりにしようとしたってことで、
嫁がそこで踏みとどまったのは、“この人は坂本くんじゃないってことに気がついたから“なんじゃ……(´・ω・`)」と考察していた。

本当のことを言う男は嫌われるぞ、旦那よ。

もしもサポートをいただけたら。 旦那(´・ω・`)のおかず🍖が1品増えるか、母(。・ω・。)のおやつ🍫がひとつ増えるか、嫁( ゚д゚)のプリン🍮が冷蔵庫に1個増えます。たぶん。