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【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】「マナリ短編集1」 #1. full moon

【あらすじ】私マナリが恋愛を色々な形であらわす短編集。
#1 . full moon  
#2 .  東京スィートコーヒー
#3 . 寄り添う気持ち
#4 . Just in time
#5 . そんなに遠くないある夏の日に君に訊かれた「空を飛べたらって、思った事ない?」という質問について
#6 . 踏切
#7 . 真心
#8 . トマト!
#9 . 焼きたてのパンを買いに行く
#10 . ひととき
#11 . 海に風が吹くから
#12 . みかんが収穫できる頃
#13 . Midnight Blue
#14 . ムネ
#15 . 夕涼み
以上、15編を収録。

【本編】
陽が沈み、夜が始まった。
 
僕は部屋を出て、サーフボードをキャリーに乗せ、自転車で浜辺を目指した。
彼女とは、駐車場で合流した。
 
ボードを抱え、二人で砂浜に降り立った。
 
台風が過ぎて4日目。海は凪ぎ、波は立たない。
 
二人ともすでにウェットスーツを着ているので、そのまま海に入り、ボードを水の上に浮かべた。
9月も3週目だというのに、水は冷たくなく、温い。
 
浮かべたボードに身体を預け、二人でゆっくりとパドリングを始める。
 
綾夏が左斜め前、僕はそれについていく。
 
程よく沖まで来た。
 
「もうそろそろ、いいんじゃないか?」と、僕が言う。
「ここらへん?」と、綾夏が訊き、腕を止める。
 
僕らは、ボードにまたがり、来た砂浜の方を見る。
砂浜の向こうには、街が広がり、生活の明かりが瞬いている。
砂浜と街を隔てて、東西にのびる国道には、たくさんの車が走っている。
ヘッドライトはフラッシュのように流れ、テールライトは、ささやかな悲しみを感じさせる。
 
「拓郎、何で、今晩、海に出たかったの?」と綾夏が訊く。
「あれさ。」と、僕が空を指差す。
 
上空には、丸い黄色いお月さまが、輝いている。
雲はなく、月を曇らす心配はない。
100%の中秋の満月。
 
「海の上で、満月を見たかったの?」
「そう、そしたら、潮の満ち引きで、月をより自分事に捉えられると思って…」
「どうして私を誘ったの?」
「一緒にそれを感じられたらなあと思って…」
 
「どう?」
「気持ちいい。引力に支配されてるみたい…」
「そうだろう…僕もそれを感じてた…」
「月って、すごいね?」
「そうだね。」
 
「そろそろ、帰らない?」
「帰ろうか。あっ、ちょっと待って…」
「何?」
「今晩から…」
「今晩から?」
「一緒に住まない?俺の部屋で…」
「あっ、ああ、それが言いたかったのね?」
「そう。答えは?」
「教えない…」



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