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【エッセイ】桜を見て死にたくなってしまう君へ

梶井基次郎の『檸檬』(短編集)を久しぶりに再読。
最近は読むペースが格段に落ちたことに加え、つい軽めの本に流されている。久々に文学作品に触れたよろこびは大きい。
最後に「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」という冒頭で有名な『桜の樹の下には』が収録されている。

私は主に10代から30代前半、詩を書くことで生き延びてきた部分もあったが、桜という題(あるいはモチーフ)で詩を書きたいと思いながら結局書けないでいる。恐れ多くて書けないのである。美しいものに圧倒され、それらによって希死念慮を抱くことを余儀なくされる私にとって、桜は危険極まりない凶器の一つである。しかし、梶井のこの作品を読んで安堵した。

そうか、屍体が下に埋まっているからこそ、桜は美しいのだ。「……それで俺達の憂鬱は完成するのだ。」「……今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑めそうな気がする。」
妙に納得し、快哉を叫びたい気分だった。
権利!
そう、梶井のように考えでもしないと、やってゆけない人種もいるのだ。生きてゆけない人種もいるのだ。私のように。君のように。
梶井もさぞかし、美しきものに起因する苦しみに辟易していたのではないだろうか。

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