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【創作】山羊が山羊に宛てた手紙



親愛なる黒山羊さんへ


濡れそぼつ 乾きのおそい 夏毛かな

 あんなに暑かった夏も過ぎてしまうと、少し寂しいです。この手紙が黒山羊さんに届く頃には、私は貴方の愛した冬毛になっているでしょう。

 前回頂いた、黒山羊さんの手紙の冒頭の詩に感動して、返詩の代わりに詠みました。慣れないことをすると照れくさいですね。
 さて、実は謝罪しなくてはいけない事があるのです。実は……その詩に感動しすぎて......

 手紙食べちゃいました。

 文字通り、愛おしすぎて食べてしまいました。バカみたいって思われるかもしれないけど、黒山羊さんの想いの詰まった手紙、美味しかったです。
 優しい貴方はその事を責めたりはしないでしょう? でも、どうしても気になることがあるので教えてください。
 前の手紙の内容ですが、私の「高校野球部と吹奏楽部の軋轢」についての考察を、シュールストレミングと社会主義的観点からも支持できるという見解だったと思います。弁明する訳ではないですが、共感してもらえた喜びと詩の感動が相まって、衝動を抑えきれず食べてしまい、肝心の内容を読みこめていないのです。
 本当にごめんなさい。もう一度、手紙にしてほしいです。ちゃんと貴方の言葉を受け止めたいのです。

 寒い季節がやってきます。黒山羊さんは冬毛が短くて寒いの苦手でしたよね。また私で暖をとってほしいなー、なんて。
 お体にはくれぐれも気を付けてください。

白山羊

追伸 次の手紙には、シュールストレミングの匂いを染み込ませてください。次は食べてしまわないように。



***



愛する白山羊さんへ

陽は沈むとて 熱は変わらず

 素敵なお手紙、素敵な歌をありがとう。まずはお返しに。

   白山羊さん、ごめんね。今とりかかっている山を越えればきっと帰れるから。だからもう少し、待っていてほしい。

 君が手紙を食べてしまったことについてだけど、怒ったりなんかしないよ。むしろね、興味が湧いた。君の手紙はどんな味だろうってね。だから僕も食べたよ。美味しかった。あの日――そう、君と初めて会った日に食べた草の味がした。
 それで何だけど、衝動的に食べてしまったから手紙に何が書かれていたか読めなかったんだ。チラと野球の文字が見えたから、君が以前書いていた考察の続きかな? あの件で、シュールストレミングを引き合いに出したけど訂正があるんだ。だけど、考察の続きがあるならまずそれを教えてほしい。申し訳ないけど、もう一度手紙にしてもらえるかな。

 こっちはかなり冷え込んできたよ。こんな日は君の冬毛にうずもれて眠りたいね。だから、健やかでいてください。また会うその日まで。

黒山羊

追伸 シュールストレミングの話題で気分を害してはいけないので、白山羊さんが好きだと言っていた草の匂いを手紙につけました。



***

童謡「やぎさんゆうびん」のオマージュです。

これは別記事用に書いたものです。よろしければこちらもどうぞ。

また、朗読(声劇?)もしています。ご興味があれば。



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