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【創作エッセイ】アイドルになれたら

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。


時々、夢を見る。

無数の観客が詰めかけたスタジアムと、眩しい照明の光、自分の手に握られた黒いマイク、怒号のように唸るスピーカー。

全身が震え、やっとの思いで足を踏ん張る。その僅かな間にも、歓声は勢いを増していく。

うゆ「スタジアム全員、叫べ~!!!」

そう言うと照明が青く光り、1曲目のイントロが流れる。去年SNSで爆発的な人気を得た、チャート逆走曲「Tear」だ。歓声は雷鳴のようにとどろき、留まるところを知らなかった。

『Listen to us, WellBee is Coming!!』

コロコロとした音と華やかなバイオリンの調べにEDMの力強いベースが加わった特徴的なサウンドが印象的な、デビュー3作目の自信作だった。しかし発売当時は鳴かず飛ばずな成績で、「セルフプロデュースアイドルの失敗作」と呼ばれていた。

でも、私は信じてた。この曲の良さをわかってくれる人がいずれ出てきてくれると。

『あなたがいない世界なんて 魚のいないアクアリウム
 私を置いていかないで 流れる涙は白昼夢』

離れていく相手を恋しがり追いかけるけど、涙に溺れて視界が徐々に塞がれていく。これ以上泣いてしまったらあなたを見失ってしまう。だから私は追い続けるの。たとえ全て夢だったとしても。

『息が詰まる水槽の中 あなたと私は泣いていたの
 もう離れはしないわ この瞬間 強く抱きしめて』

マイクを強く握り、天井を突き抜けるようなハイトーンを響かせる。
大歓声につられて、フェイクを交えてラストを駆け抜ける。

最後の隊形になり、全員で折り重なるようにポーズをとる。
そのまま照明が赤く染まり、更に強烈な金管セクションの音色が響き渡る。

ブラスセクションに雅楽をイメージしたEDMを融合させたショーソング「It's Time to Go」。初めてチャートで1位を獲得した思い出の曲。

この曲を作る過程で何度も制作チームと衝突した。言葉が強すぎる、女性らしくない、「Tear」の二の舞になるぞなどと厳しい意見をたくさん受けた。

自分たちの曲なのに何故こんなにも辛い思いをしなければいけないのかと涙が止まらず、ダイエット期間にもかかわらず出前を食べ過ぎて3キロ増えた。ストレスでニキビも3つできた。

でもそれもいい思い出。この曲が話題になったことにより、ファンクラブ会員数が倍以上になったし、初めて単独コンサートを開催したのもこの時期だった。

『悩む余地も無いね ここに全て揃ってるんだから
 その手で選んで 未来を It's Time to Go』

『ありふれた正解の果てに 何かがあるとしたら
 それは君が生み出した 真新しい最高の人生』

この歌詞は、この思いは、今までで一番大きな壁を乗り越えてきた証。
この曲に共感してくれる人に良い影響を与えられる創作者・演者になることが、私の務め。

掛け声が聞こえる。私の名前を呼ぶ声が、ペンライトの光が、キラキラと輝く瞳が、大きな波動となって押し寄せてくる。

あぁ、私はここにいていいんだ。パフォーマンスしてていいんだ。
数万のエネルギーを全身に浴びて泣きそうになる。

中間のパートで袖にはけると、同い年のメンバー・ルイと目が合った。

ルイ「ヤバいね、歓声」
うゆ「ね、なんか泣きそう」
ルイ「もう?早くない?」
うゆ「ルイも目、赤いじゃん」
ルイ「うゆには言われたくないけどね、泣き虫プロデューサーさん?」
うゆ「私も絶対あんたにだけは言われたくないわ(笑)」

初めて会った日から、一番ぶつかったし一番笑いあったのがルイ。
全ては一緒の夢を叶えるため。

『歩みを止めないで Everything's gonna be alright
 君を待ってる 未来のあの場所で』

曲が終わると、鳴りやまない歓声が会場中に広がる。
そのまま照明が強い白へと変わり、センターステージまでの花道を照らす。

コンサートの定番曲、「Parade」。始まりを予感させるホルンの音色と、軽快かつ技巧が光るバンドサウンドが全身に染み渡る。2作目の収録曲で、発売当初から現在に至るまで根強い人気を得ている。

ルイ「スタジアムにお越しの皆さ~ん!おっはよ~ございまぁす!」
うゆ「今はこんばんはでしょ」
ルイ「どっちでもいいじゃん」
リーダー・レミ「2人とも喧嘩しないの」
マンネライン・カヤ「うゆちゃんが正しいと思います!」
マンネ・ヒヨ「でも次の曲は朝がテーマですよね?」
レミ「マンネズまで加勢しないの!」
うゆ「じゃあレミちゃんは何て言うんですか?」
レミ「そりゃあもちろん…」

レミ『Hey guys, Listen to us!! WellBee is Coming!! Jump up, jump up!!』

また会場がひとつになる。飛び跳ねる振動がパーカッションの音と共鳴して、もっともっと膨らんでいく。

ルイ「全員、うゆにちゅうも~く!!頼んだよ!」
うゆ「任せて!」

『いつもより少し薄暗い朝 おひさまより早起きしたら
 誰よりも早くドレスアップしよう
 今日の私はいつもより 10割増で Very Cute』

早起きが苦手な私が作った、早起きが楽しみになる曲。これをアラームにして早起きを頑張ってるファンの子たちもいるんだって。可愛い。

『誰も見たことのない 私の目に映る世界
 心のままにありのままに 従うそれが正解
 絶対に秘密よ 私だけの How to
 お褒めの言葉に 笑顔で You too』

カヤのラップに合わせて掛け声が響く。彼女の耳に光る銀色の星が揺れて、照明を乱反射する。
誰にも真似できない輝きが渦となり私を包み込む。

あぁ、生きててよかった。今日を迎えられて本当によかった。

『さあ手を伸ばして あの雲のもっと上に行こう
 不可能なんてない 私のための Parade』

『今日も最強で最高な私に乾杯
 この際あてにならないの勝敗
 Say Hi!』

またみんながひとつになる。普段は道端ですれ違うだけの関係でも、回線越しで交流する関係でも、会いに来てくれる関係でも、今この瞬間だけは全員が私を見て聴いて、WellBeeの音楽を楽しんでくれてる。

これが幸せだとしたら、もう何も望まない。

ねえ、お願い。終わらせないで、この夢を。

ずっと、ずっとこの場所で、この景色を見ていたいの。



キャプション

「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。

・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。


©2023 うゆ <https://note.com/uyu_toxic0v0/>
Graphic powered by Canva


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