見出し画像

禰󠄀豆子のキャラ属性は「麻の葉」文様そのもの

若い町娘の「初々しさ」の象徴だったり、
産着の願掛け(丈夫に、すくすくと育ちますように)だったり、と
庶民と共に歩んだ「麻の葉」文様の受容のされ方を前回は見てきました。

こういった特徴に加えて魔除け、厄除けの意味を持つ、
というのもこの文様の大事なポイントです。
(産着に用いるのは厄除けの意味も大きいですね。)

という訳で今回は、「麻の葉=魔除け」がテーマです。

これには
ざっくり「仏教」由来説、「麻」由来説、「三角形」由来説、と
ありそうなのですが・・

「仏教」由来説は前回、仏像が纏っている例が、奈良時代からたくさん見られる
という感じで軽く触れましたので、今回は「麻」由来説、「三角形」由来説を
ご紹介します。



神話の時代から、神の依代。「麻」由来説


麻は、昔から日本人の暮らしに欠かせない素材だったようです。
縄文時代の遺跡からは、麻で出来た縄がたくさん発掘されていますし
日本神話にも出てきます。長く深い付き合いです。

神道では、御幣(または、おおぬさ)、注連縄、鈴の緒など
重要な部分で様々顔を覗かせます。

(※御幣というのは、お祓いをする宮司さんやら巫女さんを
 頭の中でイメージして頂いて・・ きっと今、手に持っている
 白いヒラヒラとした房のついたステッキ、それの事です。)

御幣の房の部分は紙、あるいは麻の繊維を束にしたもので作ると
決められているそうです。祓具、神の依り代に麻は選ばれている訳です。

この話を聞くと「麻」→穢れを拭い去るパワー、という風に連想され、
めちゃくちゃ効きそうです。
この厄除けパワーにあやかりたい気持ちはよく分かります。

(「麻の葉」文様は麻を模して生まれた図案ではなく、
近世以降に後付けで「麻の葉」と呼ばれるようになっただけなので、
この説も近世以降の後付けと思われます。)

お化けも、お結びも、盛り塩も。「三角形」由来説


次は、形(三角形)由来説です。
日本では、三角形は霊力を持つと言われます。

幽霊の三角頭巾、お結び、盛り塩・・
いずれも三角形だから、力を発揮します。形が大事です。

(世の中には、盛り塩をきっちり三角にするためだけの道具、
 塩固め器(盛り塩器)なるものが、ちゃんとあります・・。)

文様で三角というと、まず「鱗」文様が想起されるのですが
確かに魔除け、厄除け文様の代表格ですね。
「鱗」文様は、正三角形の平面充填です。

厄除けの代名詞、鱗文様。

また「籠目」も厄除けの文様として有名です。
「籠目」は、六芒星の形をした文様ですが、わざわざ「六つ鱗」と呼ぶ事も
あります。これも三角形が意識されているためなのでしょうか。
「籠目」は、2つの大きな鱗を違い違いに組み合わせる事で
6つの小さな鱗が描かれている文様ともいえますし、鍵はやはり三角形です。

籠目文様、別名六つ鱗。6つの鱗(小)と赤、青2つの鱗(大)。

ちなみに、籠目といえば、

 か〜ごめ、かーごめ♩かーごの中の鳥は♩〜・・

という伝承遊びも思い起こされますが、この遊びのルーツは諸説あって、
(どの説もトンデモ話の匂いがするのですが・・)

一説によると「神遊ばせ(口寄せ)」の呪術(=イタコさん的な神様の召喚術)をなぞらえた遊びで、手を繋いで作る人の輪(籠)はこの儀式で使う結界を見立てたものだそうです。

六芒星、結界。訝しげに聞いてはいても、霊力は充満してそうに思えます・・。

さて。ここまで書いておいてなんですが、実は・・
三角形がなぜ霊力を孕み、邪を払うのか、その理屈は、よくわかりません。
ですが「三角形=魔除け」は、お墨付きを受けてからけっこう長い歴史が
ありそうです・・。

魔除けの意味で描かれたのではないか?と考えられている三角形の平面充填が
古墳時代の壁画にあります。
(昔から日本だけでなく、世界中で、呪術的な意味合いの三角形が
描かれているそうです。
ユング的な人達?の出番なんでしょうか・・)

「麻の葉」は厄除けの要塞?


「麻の葉」は、よく見れば二等辺三角形の平面充填です。
だから、厄除けです。

それに加え「麻の葉」が厄除け文様の基礎工事として、
非常に優秀な点にも触れておきます。

「鱗」も「籠目」も「麻の葉」の中に潜んでいます。
これを理由に厄除けの力が強いと言われる場合があります。
この説も結構、説得力を感じます・・。

「麻の葉」文様に潜む「鱗」文様
「麻の葉」文様に潜む「籠目」文様

何重にも張り巡らされた結界は、最早、
スパイ映画のレーザートラップのようです。
ルパン3世でも侵入できるか否か・・。

以上が、「三角形」由来説でした。


まとめ 禰󠄀豆子は「麻の葉」文様の化身


さて。
三回に分けて「麻の葉」文様について書いてみました。
なかなか終わらないので、途方に暮れました・・。

が、結局、一言で言い表すなら「禰󠄀豆子!」でOKでした。
今回、長く書いた末にその答えに辿り着きました。

「麻の葉」文様といえば、『鬼滅の刃』の禰󠄀豆子も
取り上げない訳にはいかないなと思ってはいたのですが

改めて振り返ってみると、
禰󠄀豆子は「麻の葉」文様をそのまま擬人化したキャラクター
だったのか!と今更ながら思い当たりました・・。

列挙してみると

  1. 鬼に抵抗する、魔除けの「麻の葉」

  2. 特別な出自ではない、庶民的な「麻の葉」

  3. 可愛らしい、初々しい町娘としての「麻の葉」

  4. 自在に小さくも大きくもなれる、成長を暗示する産着の「麻の葉」
    (口に咥えた竹もコレなのか?・・かぐや姫的な。)

さらに深読みすると、

5.人であり、同時に鬼でもある、という禰󠄀豆子最大の特徴は、
 ダブルミーニング、図地反転の危うさが常に付きまとう「麻の葉」だからこそ
 一層際立つように思われます。

(ワニ先生、文様にめちゃくちゃ詳しい説。妄想が捗ります笑。)

※1は今回。2〜4は前回、5は前々回の内容です。

もしも「麻の葉」文様を知らない人にどんな文様?
と訊ねられたならば、禰󠄀豆子が着ている柄という事に加え、
禰󠄀豆子の特徴をあれやこれやと思い起こしてみて下さい。
その結果、芋づる式に回答を導き出せると思います。

禰󠄀豆子の正体は、竹を咥えた「麻の葉」文様でした。

世の中にまた新しい?説をひとつ増やしてしまったかも知れません・・。


瑞々しくきらびやか。「これからの金彩」を模索しています。 ▼instagram https://www.instagram.com/takenaka_kinsai/