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サンタさんへ こいつはあずかった 4/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

■蒼井家・1F リビング(朝)

 朝の準備をする蒼井夫妻。妃璃愛、テレビでまたしても「聖夜に成敗!プリティサンタ」を見ている。正人、キッチンの戸棚を開ける。

正人「ねえママ、戸棚に入ってたお菓子食べた?」
優「え?どれを?」
正人「どれっていうか……」

 すっからかんの棚。

正人「全部?」
優「食べるわけないじゃんそんなに」
正人「わかんないよ〜?」

 お腹に触ろうとしてくる正人の手をめんどくさそうに払う優。ドタドタと階段を駆ける音がして、天嵩が下りてくる。何も言わずダイニングテーブルに着席し、テレビのチャンネルを変える。

優・正人「天嵩、おはよう!」
妃璃愛「あ!ねえ変えないでよ!」
優「挨拶くらいしなさい!」
正人「おーい、お菓子勝手に食べた人、手挙げて〜」

 天嵩、ニュース番組を探してチャンネルを回し、音量を上げる。妃璃愛、文句を言って泣き始める。
×  ×  ×
(ニュース番組)
 昨夜未明、キューロランド館内全域で水道管設備が破損しているのが発見されました。館内は歩くのが困難なほど浸水している状態で、キューロランドを運営する株式会社ムンリオは、水道管設備に老朽化などの不具合がなかったかを調査しています。また、調査と復旧作業のためキューロランドは当面の間営業を停止、再開の目処は立っていないと発表しました。すでに販売済みのチケットについては……
×  ×  ×
 ニュースを聞き、ニヤリと笑う天嵩。

優「え!キューロランドだ……」
正人「(スマホを見ながら)あ〜……ホームページにも書いてるわ。チケット払い戻しの案内出てる」
妃璃愛「キューロランド行けないの?」

 長靴を履き、スッテンスッテン転びながらキューロランド館内の水をかき出す作業員たちの様子を困った顔で見る優。

優「うーん……残念だけど、難しいかな……」
天嵩「あーこりゃ無理だ!残念!行きたかったなー!」
妃璃愛「嫌だ!キューロランド行きたい!行きたい行きたい行きたい!!(食卓をバンバン叩く)」
天嵩「行ってどうするんだよ。泳ぐんですかぁ?」
優「余計なことを言わない!」
妃璃愛「(立ち上がり正人に駆け寄る)ねえパパ行けるよね?あと5回寝たらキューロランドって言ってたでしょ?」
正人「ん〜……クリスマスじゃなくてお正月にするのはどうかな?」

 地団駄を踏み、ついには床に転がって泣き叫ぶ妃璃愛。

祐徠「プリキューハイランドはどう?」

 スマホ片手に階段を下りてくる祐徠。優、正人、天嵩、振り返る。祐徠、書類入れの引き出しを開け何かを探す。

正人「プリキューハイランド?」
祐徠「父さんこの間商店街の福引で温泉宿泊券当たったけど、キューロランド行く日だから行けないって話してただろ。プリキューハイランドならこの宿から車で行けるし、(宿泊券を正人に手渡す)ほら、妃璃愛の好きなプリティサンタがクリスマスイベントやってるんだ」

 祐徠、スマホでイベントの告知画像を妃璃愛に見せる。泣き止む妃璃愛。天嵩、眉をひそめる。

祐徠「妃璃愛、プリティサンタに会いたいだろ」
妃璃愛「プリティサンタ会いたい!」
正人「そうか、こんなの当たってたな!忘れてた!」
優「いいじゃん!電話する、すぐ!」
正人「そうだな、チケットも取らないと」
妃璃愛「やったー!プリティサンタ!プリティサンタ!」
天嵩「宿泊って、泊まるの?オレ行きたくない。サッカーが……」
優「(天嵩を抱きしめる)ねぇ〜天嵩そんなこと言わないで、ね!みんなで行けば楽しいから!しかも温泉つきっ」

 優、宿泊券を受け取って電話をかけ始める。正人、スマホでプリキューハイランドのチケットを予約する。食卓につく祐徠。むすっとした顔で兄を睨む天嵩。

■河川敷・堤防

 天嵩、自転車で走っている。天嵩の胸ポケットに収まっているマッシ・コテッシ。マッシ、コテッシを盾にして風を避けている。

マッシ「残念だったな、蒼井天嵩。……(無視される)……思い通りの展開じゃなかったみたいだな、蒼井天嵩。……キューロランドがダメならプリキューハイランドとは蒼井祐徠もさすが機転がーーー」
天嵩「うるさいよっ」

 マッシ、天嵩の語気に眉をひそめる。コテッシ、目にゴミが入って涙が止まらない。

マッシ「はは、不機嫌だな。ところでどこへ向かっているんだ」
天嵩「見せに行くの。オレの欲しいもの」
マッシ「ほう!やっとか」
天嵩「誰かさんたちが邪魔しなかったら昨日の試合の後に行くつもりだったの!」
マッシ「別に邪魔したつもりはないさ。天嵩が勝手にヘソを曲げただけだろう」

 唸り声を上げる天嵩。

マッシ「どこにあるんだ?」
天嵩「もう着く」

 大きなショッピングモールの駐輪場へ乗り入れる天嵩。

■ショッピングモール・おもちゃ売り場

 おもちゃ売り場へスタスタと向かう天嵩。クリスマスツリーやモールなどでキラキラと飾り付けられた店頭の商品棚には、「聖夜に成敗!プリティサンタ」の人形やヨイコハットなど関連商品がズラリと並んでいる。天嵩、プリティサンタの棚に向かいかけるが、一旦立ち止まり、躊躇し、その手前の通路を曲がって店内のトミカ売り場へ入る。が、トミカなどには一切見向きもせず、店頭が見える位置へ回り込んでプリティサンタの商品棚をこっそりと覗き見る。

天嵩「あれだよ」
コテッシ「どれですか?」
天嵩「あ・れ!」
マッシ「もっと近くで見せてくれよ」
天嵩「やだね」
マッシ「何が嫌なんだ!?欲しいんだろう!」
コテッシ「どれですか!?」
天嵩「ヨイコハット!」

プリティサンタ商品棚の先頭でキラキラと光っているヨイコハット。

コテッシ「天嵩はプリティサンタが好きだったんですか!」
天嵩「好きじゃねーよ!」
コテッシ「え?ではなぜヨイコハットを?」
天嵩「決まってるだろ。嫌なことばっか言うヤツに被せて、良い子にしてやるんだよ」

 顔を見合わせるマッシとコテッシ。 

コテッシ「あー……人を思い通りに動かしたいというのはいただけませんが……まあいいでしょう」
マッシ「なんだ、こんなに時間をかけて……普通に売っているおもちゃなんだな。もっと難しい注文かと思ったぞ。なんでスッと言わないだ、スッと」

 5歳前後の女の子2人組が保護者の手をぐいぐいと引きながらヨイコハットのところまでやってくる。

少女B「あ、ねえ見てヨイコハット!」
少女B・C「「カワイイ〜!」」
少女C「サンタさんにお願いするのヨイコハットにしようかな?」
少女B「でもプリティサンタのクリスマスティックとも迷う〜!」
少女C「どっちも欲しい〜っ」
マッシ「そういうことか」

 プイッとヨイコハットに背を向ける天嵩。

■河川敷・堤防

 河川敷。天嵩、堤防の道を自転車を引いて歩く。マッシ、自転車の前カゴの網目に足をかけ、真っ直ぐに立って天嵩を見つめている。コテッシ、自転車の揺れに酔って顔色悪く座り込んでいる。

コテッシ「マッシ、歩いて帰りませんか?私たちは別にこんなものに乗らなくても……」
マッシ「いいや。蒼井天嵩と話をしなくては」
天嵩「オレの欲しいものはわかっただろ。早くちょうだいよ」
マッシ「ご両親にお願いしてみたらどうだ」
天嵩「女のものなんか欲しいって言えるわけないだろ!」
マッシ「……君は令和に生きる少年の割に頭がカタいな。というか……ダサいな」
天嵩「はぁ?」
マッシ「あー、すまんな。思ったことが口に出てしまった。言っただろ、エルフは嘘をつかないんだ」
天嵩「何なんだよ、ムカつくな」
マッシ「そう自分を縛りつけてるばかりじゃ、苦しいことが多いんじゃないのか?」

 黙り込んでいる天嵩。
 コテッシ、胸元のボタンを開けて息の通りを良くしようと試みる。胸元からうちわを取り出した表紙に巻紙のようなものが落ちて自転車カゴの隅に転がっていく。紙を落としたことに気付かずにうちわで自らを扇ぐコテッシ。

マッシ「尖った言葉で自分の勝手な意思だけ相手に突きつけたり、ずるいやり方で押し通して生きていくつもりか、いつまでも」
天嵩「そうだよ!」

 マッシを鷲掴みにしようと手を伸ばす天嵩。目にもとまらぬ速さですり抜けて天嵩の手首の上に立つマッシ。マッシを振り払おうと天嵩が手を思い切り振ると、またするりとすり抜けてカゴの上に戻っている。

マッシ「天嵩、君はまだたった9歳だぞ。たった9歳の少年に、こうあって欲しいなんて求める人なんていないさ。少なくとも君の家族はそうだろう。何がしたいか、何が欲しいか、どんな自分になりたいか、なんだって大きな声で言えばいいじゃないか」
天嵩「言ってるよ!いつも言うんだ!でも言うとみんなが嫌な顔するんだ、こいつまた余計なこと言いやがってって顔するんだよ……正しいやり方とか正しい言い方とか、オレなんかが考えたってどうせわかんねえよ!」

 天嵩、自転車を蹴り倒し、堤防の土手を駆け下りる。草陰で膝を抱えて座り込む。
 マッシ、天嵩の隣へ歩いてきて隣に座る。自転車のカゴから転がり出たコテッシ、痛そうに腰を抑えてその後をついてくる。
 自転車のカゴに取り残される巻紙。

コテッシ「アイタタ……まったく、そんな風に怒鳴ったり蹴っ飛ばしたりできるなら、我々相手なら素直になれるということなんでしょうね!」
マッシ「もっともだ。どうだ、蒼井天嵩。君の生活に不具合が生じているなら、我々に相談してみてはどうかな」
天嵩「だから言ってるだろ、ヨイコハットが欲しいんだよ!」
マッシ「悪いが我々にあれを手に入れることはできない。あれば商品だ。お金がなければ買えない。エルフは人間のお金を持っていない」
天嵩「盗んでくれば」
マッシ「いかん。当たり前だ」
天嵩「キューロランドはめちゃくちゃにしたくせに」
マッシ「……あれは取捨選択の結果だ」
天嵩「なんだよそれ。意味不明だよ」

 むくれる天嵩。しばらくして何かを思いつく。

天嵩「ねえ、お金があればいいんでしょ」

 嫌な予感がして顔を見合わせるマッシとコテッシ。

マッシ「ああ、まあ……そういうことになるが、お金なんて……」

 エルフを見てニヤニヤし始める天嵩。

マッシ「見たことある顔だ……そして、良くない顔だな……」
コテッシ「……何を……ダメですよ!ダメ!何か知りませんが、反対!断固反対!絶対ーーー」

■コンビニ・レジ(夜)

 コンビニの入店音が鳴り響いて自動ドアが開く。マッシ・コテッシ、人間サイズでコンビニのレジの中にしかめっ面でまっすぐ立っているのが見える。2人ともきちんとコンビニの制服を着ており、マッシの名札には「松重」、コテッシの名札には「小手」と書いてある。

コテッシ「ぐぬぬぬ……蒼井天嵩〜っ」
マッシ「堪えろ、コテッシ……想定よりずいぶんマシだ……」
コテッシ・マッシ「「いらっしゃいませ〜(入店した客に頭を下げる)」」
マッシ「最悪、銀行強盗なんて可能性もあったんだぞ。時給1,200円、2人でたった一晩働けば十分にヨイコハット代は稼げるだろう……あ、はい、いらっしゃいませ……レジ袋どうなさいますか?……はい。353円です……あ、101番」
コテッシ「101番、はい(たばこを探しレジ台に置く)」
マッシ「はい、えー改めまして923円です……」

 板についた仕事ぶりのマッシとコテッシ。品出しをしながら噂をするアルバイトの女性とコンビニ店長。

女性店員「なんかあのおじさんたち、めっちゃ仲よしじゃないですか?」
店長「え?ああ……まあちょっと怪しいけど仕事よくできるよ。経験あるみたいで陳列も接客も丁寧だし。単発と言わず長期でやってくれればいいのになぁ」
女性店員「友達と単発バイトとか、大学生みたいでカワイイ」
店長「やめなさいって」


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