見出し画像

記憶に残る活発なディスカッション。ボリビアへ講師として渡って

「私を変えたあの時、あの場所」

~ Vol.45 ボリビア/サン・シモン大学

東京大学の先生方から海外経験談をお聞きする本コーナー。

今回は成田 大樹先生に、ボリビアのコチャバンバにある大学で教壇に立たれたご経験についてお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。


ボリビアの大学で集中講義の講師を務めることに

——ボリビアで講師をされたことがあるとのことですが、その経緯からお伺いしてもよいでしょうか。

成田先生: 当時ドイツの研究所でポスドク研究員として働いていたのですが、その後のキャリアのためにも教育経験をもう少し積みたいと考えていたところでした。そんな中、研究所のボリビア人の同僚からサン・シモン大学の経済・開発修士プログラム(Maestría En Economía y Desarrollo)が集中講義の講師を探している話を聞き、同プログラムで環境資源経済学を教えることになりました。私自身はスペイン語を話せないのですが、授業では通訳が付き、私の英語での講義を通訳がスペイン語に同時通訳するという形で講義を行いました。


社会問題への関心の高さ。講義では毎回、活発なディスカッションが

——同僚にボリビアの方がいらっしゃったことから、プログラムに参加されたのですね。現地に行かれて、印象的だったことはどんなことですか?

成田先生: ボリビアは後にも述べるように様々な魅力がある国であり滞在も楽しいものであったのですが、一つ非常に驚いたのは当地の時間感覚です。大学での初日の講義の際、教室で準備をして待っていたのですが、授業開始時刻になっても学生が誰も来ず教室は空っぽでうろたえたのを覚えています。通訳の方に聞くと「しばらく待っていれば来るから焦らなくて良い」というような趣旨のことを言われ、実際に15分くらい待っていると何事もなかったように徐々に学生が集まり始めました(!)。授業だけでなく大学の運営事務もゆっくりで、そもそも私が集中講義を行うことについても、初め2011年の秋に話をもらっていたのですが延期に延期が重なり、実現したのは2013年の2月となったという次第でした。しかしそのようなのんびりとしたペースでも物事は回るものだというのがわかったのは新たな発見でした。

履修生は社会人学生が多く経済学の知識のレベルも人によって様々であったこともあり、授業では経済モデルの講義にクラス・ディスカッションを混ぜる形式を取ったのですが、彼らにとって縁もゆかりもない異国の講師を前にして、また言語の違いもある中、学生は臆せず発言しディスカッションも毎回大いに盛り上がったことが記憶に残っています。天然資源の利用をめぐる諸問題や社会全体の経済格差が深刻なボリビアという国の事情が関係しているのかもしれませんが、社会問題一般に対する関心や意識は私が教えたことのある他の国々の学生と比べてずっと高かったような印象があります。


現地の言葉が話せなくてもごく自然に受け入れてくれた

——強く印象に残るほどディスカッションが盛り上がったのはすごいですね…! 講義を通じてご自身の中でも変化はありましたか。

成田先生: 大学の授業環境の違い、言語の違い、また時間感覚も含めた習慣の違いなどに慣れないところはありましたが、大きな意味では集中講義の実施は驚くほど順調に進みました。現地の学生や大学スタッフも、外国から来たスペイン語も話せない私をごく自然体で講師として受け入れてくれたことにも感銘を受けました。この経験を通じて、世界あるいは日本の様々な人に対して、見た目の違いはもちろんですが、言語や表面的な行動様式の違いでも先入観を持たずにそれぞれの人たちの本質を見極めて接したいという考え方が強くなったように思います。


現地で過ごしてわかった、その土地の精神性や社会のこと

——「ごく自然体で」受け入れてもらった体験があったからこそ、ご自身もそうされたいということですね。
他にもボリビアで印象的だった出来事について教えてください。

成田先生: 集中講義の期間に合わせる形で、国内のいくつかの都市や名所を回ることができました。人の穏やかさや温かさ、美しい自然、土着の要素とヨーロッパ由来の要素が混ざり合った豊かな文化など、ボリビアは様々な魅力がある国です。私が訪れた時期はちょうどコチャバンバの近郊のオルロという町で大規模なカーニバルが開催されたときであり、パレードを鑑賞することができました。パレードは陽気で華やかなものなのですが、他方で苛烈な植民地支配も経験したボリビアの重層的な歴史を象徴したテーマが散りばめられており、ボリビアの人々の精神性の一端に触れたような気がしました。

そのような素晴らしい国である一方で、国土は山がちで主要都市間であっても高速道路網というものが存在せず、地域間の移動が比較的困難である国であるということも実体験を通じてよくわかりました。ボリビアは南米において最も貧しい国の一つですが、地理的特徴が国の経済発展の阻害要因になっているのが実感できます。道路網が発達していない分、航空機での移動が容易かというとそうではありません。例えば首都ラパスの空港は富士山頂よりも高い標高約4,100メートルに位置しており、私が同空港に初めて降り立ったときには高山病のような症状が出てしまいました。今となってはそれも良い思い出ですが。


ハプニングをも楽しむ姿勢はボリビアでの経験があったからこそ

——帰国してからもそうした海外での経験が活かされているな、と思うことはありますか?

成田先生: 私の研究上の専門は環境経済学ですが、ボリビアに滞在した2013年以降、途上国の環境問題に関する研究に携わることが増え、それらの国の人たちと共同研究をする機会も多くなりました。また東大への着任後は主にPEAK生(PEAK:教養学部英語コース)を教えており、毎日が国際交流体験の日々です。自分自身と異なる背景を持つ人たちと関わる際にはコミュニケーションのずれやハプニングはつきものですが、それをも楽しもうという姿勢(もちろん、特に仕事に関するものだと限度というのもあるのですが…)が身についたのはボリビアでの経験が大いに関係していると思います。


考えすぎず踏み出してみるのも良し。新たな発見が気持ちを開いてくれる

——最後に、これから留学や国際交流をしたいと考えている学生へ、メッセージをお願いします。

成田先生: ボリビア滞在に限らず、私は今まで留学、勤務、フィールド調査などを通じて色々な国に居住や長期滞在をする機会がありましたが、新たな環境に飛び込むのは常に不安を伴うものです。ただ一旦飛び込んでみると、新たな発見を通じて自分自身の思い込みやこだわりが消えていくことにより解放感を味わうことがむしろ多かったです。あまり考えすぎずはじめの一歩を踏み出してみるのが良いのではと思います。

——ありがとうございました!

文中に登場したPEAKとは、「教養学部英語コース(PEAK: Programs in English at Komaba)」を指します。PEAKのカリキュラムはできるかぎり全学の学生に開かれることを目指しており、成田先生の授業も東大の一般生が受講できるものとなっています。詳しくは大学シラバスをご覧ください。


📚 他の「私を変えたあの時、あの場所」の記事は こちら から!

最後までお読みいただき、ありがとうございました! よろしければ「スキ」を押していただけると励みになります。

次回の記事も引き続き、お読みいただけるとうれしいです^^


リンク

🌎 Global駒場(駒場キャンパスの国際関係総合サイトです)

🌏 GO公式Twitter(GOからのお知らせなどを日々更新しています)

🌍 学生留学アドバイザーTwitter(留学アドバイスを行っています)

🌏 GO Tutor(留学生向けにチュートリアルを行っています)