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フランス美術を学びにパリへ。心を楽しませながら最大限の活動を

「私を変えたあの時、あの場所」

~ Vol.42 フランス/パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校

東京大学の先生方から海外経験談をお聞きし、ご紹介している本コーナー。

今回は松井 裕美先生に、フランスで5年ほど滞在されていた当時についてお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。

パリ留学へ。それまでとは違う自分を発見しようと意気込んだ

——5年近くパリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校で留学されています。はじめに、渡航の理由からお聞かせください。

松井先生: 専門がフランス美術だったため、現地で調査をすることが研究に必須でした。また、海外のアクチュアルな研究動向に日常的に触れていたいという思いもありました。


——フランス美術の研究のための留学とのことですが、実際のフランスでの研究生活はいかがでしたか? 印象的だった体験などお聞かせください。

松井先生: フランス留学の際に印象的だったのは、日本のどの大学で、どのような経験を積んできたのかといったことを、留学先の指導教員を含めた周囲の人が全く気にしないことです。一方ではそれは、留学先で何を学び、語り、書くのかということだけで判断されることを意味するので、それなりにストレスではありましたが、他方では色々なことに挑戦して、これまでの自分とは違う自分を発見していこう、という動機にもつながりました。

フランスは大小の研究会がたくさん開催されていて、なかには博士課程の学生が主催しているものもたくさんありました。そういったこともあり、私自身は、初めての研究発表はドイツで、フランス語で行いました。また自分でもそうした会を開いてみたいと思い、留学最終年度に、博士論文のテーマに関する研究会を開催し、さらに留学先の大学から助成金をいただき、研究会の成果を論集としてフランスで出版しました。


大きなハードルを越えたことで、その後の力に

——日本での経験について気にされないのはよい面もありつつ、プレッシャーでもありますよね。モチベーションに転換されたのは素晴らしいです…!
外国での研究発表や研究会の開催の経験は、ご自身にとってどのようにプラスになったと思われますか?

松井先生: 人前に出て話すということはもともと得意ではなかったので(最初から得意という人は、そもそもいないかもしれませんね)、外国語で研究発表をしたり研究会を開催するということはハードルが大きい面もありましたが、発表練習を重ねたり、伝え方や立ち振る舞い方などに気を配ったりする経験は、その後、国際的な研究会を日本で開催する際にとても役立ちました。とはいっても、その都度多くの課題はありましたが、とにかく準備を怠らない、当日は逆にリラックスしてのぞむ(参加者との食事と会話は最大限楽しむ)といった基本的なことを大切にするようになりました。


歯を食いしばる時間だけではなく、休息の大切さを実感

——準備は怠らず、当日はリラックス…。なるほど、重要なコツを教えていただきました。
発表や研究会開催の裏にはたくさんの努力があると思いますが、留学生活の中で、日常的な思い出話もありましたらお聞かせください。

松井先生: フランスは夏になると夜遅くになっても明るい日が続きます。吐き気すら覚えながら歯を食いしばって20時まで図書館で勉強したあと、生暖かい空気を肌で感じながらテラス席で冷えたビールやワインを飲みつつ、温かいご飯を囲みながら友人と語る日々は、間違いなく贅沢なものでした。図書館の近くには映画館があって、勉強の後にふらっと映画を見に行けたこともまた良い思い出です。少し飲み食い過ぎたと思ったら、1時間でも2時間でもパリの街を歩いて家に帰りました。

また、時には一時帰国をして、母と京都の庭巡りをし、心を落ち着けました。

体力も精神力もゴリゴリと削られるような研究生活だったので、もう今となっては繰り返すことはできないかもしれませんが、しかし仕事をある程度のところで切り上げて、リラックスする時間を家族や友人たちと持つことは、今でも大事にしています。


——研究生活にいかに注力していたか、ご様子が浮かぶようです。
リラックスの時間を今も大切にされているとのことですが、オン・オフの切り替えについて、さらにお話を伺えますか。

松井先生: 留学生活は、自分の限界がどこまでなのかを試すようなところがありました。それは同時に、自分の限界を広げる、ということも意味していました。そのことは研究面において得難い経験であり、成長だったと思います。またそうした中でこそ、どのようなことに気をつければ体を壊さずに、かつ自分の心を楽しませながら最大限の活動をすることができるのかも、体感として掴むことができました。

帰国後は初めて教壇に立つようになって、つい無理をして日付が変わるまで研究室で授業準備をするような日もありましたし、突然の依頼原稿を引き受けてしまったストレスで顎関節症になってしまったりもしたので、必ずしも効率よく仕事をしたり体調管理をしたりすることができていたわけではありません。それでもサックスを趣味で始めたり、映画を見たり、学生さんや友人たちと食事に行ったりするなど、楽しい時間をたくさん過ごしました。

「トレポールというノルマンディー地方の街にある、友人のご夫婦の家に滞在した時の写真です。海岸が夕日で黄金色に照らされ、やがて銀色に沈んでいくのを、友人と眺めていました。時期はなんと、私の博士論文の口頭諮問の数日前。ストレスフルなはずの時間を、楽しく過ごしてしまいました」と松井先生。


心身の健康は重要。仲間や家族とのつながりをぜひ大切に

——無理する場面が帰国後もあったのですね…。新しい趣味など、仕事外でもわくわくする時間を持たれているのは素敵です!
最後に、留学や国際交流がしたいと考えている学生へ、メッセージをお願いします!

松井先生: 海外での生活で重要になってくるのが、心身ともに健康でいることであり、そこで欠かせないのが信頼できる友人や家族とのつながりです。本当に辛いことがあったとき、相談したり、話を聞いたりしてくれる人がいることは、とても重要でした。私は滞在時間の大半を図書館で過ごしましたが、友達とコーヒー休憩を取ることは、毎日の楽しみでした。住んでいたところも大学寮でしたので、同じ留学仲間と夜遅くまで語り合ったことも多いです。これから海外生活を送る人にも、お互いに励まし合える、信頼できる友人を見つけてほしいです。

——ありがとうございました!

松井 裕美先生は、フランスで提出した博士論文をベースにして『キュビスム芸術史』(名古屋大学出版会)を出版されています。
本書の三分の一には博士論文の成果を圧縮した内容が収録され、残りの部分には博士論文後の研究成果が反映されているとのこと。
「博士論文は、提出して終わりというものではなく、そこで新たに出てきた問いを将来の自分への課題としてひらいていくきっかけでもあります」とお話ししてくださいました。


📚 他の「私を変えたあの時、あの場所」の記事は こちら から!

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