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【詩】花びらのおみやげ

あまりにあたたかったので窓をいっぱいに開きました

風がゆるやかにふいて白いカーテンをゆらします

ひらひらと白っぽい花びらが幾枚もやってきました

濃い茶色の机の上に落ちたので

そっと指でつつきます

あははうふふ

つつくと花びらから笑い声が聞こえてきました

「どこから来たの?」

遠くとっても遠くよ

「遠くってどこ」

海をみて山をみて空を走る雲にのってきたのよ

他にも町をみたわ大きな大きな時計塔をみたの

私には花びらの話がよくわからなかったので

そのままじっと聞いていました

山奥には雪が残っていること

生き物たちがうごめいていること

春の女神の後姿をみたこと

雪のちらつく雲が大あくびをしながらのったりのったり歩いていたこと

四つ葉のクローバーを見つけるのも手伝ったのよ

「どうやって手伝ったの?」

花びらがひらりと浮いて遊ぶようにゆらゆら揺れます

こうやってよ

ふっと風が窓に吹き込んで大きく花びらが舞い上がります

目を閉じて開くと花びらの下に四つ葉のクローバー

あげるわ旅のおみやげ

あなたがわたしたちの話を聞いてくれたから

お礼よお礼だわ

四つ葉のクローバーを手に取ると後ろで扉が大きく開きました

「そろそろご飯にするわよ」

「今行くわ」

母にこたえて机を見ると

おしゃべりな花びらは

もうどこにもいませんでした

きっとどこかへ旅立ったのでしょう

うきうきわくわく話をしながら

四つ葉のクローバーをひとつおいて


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