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【ショートショート】中国の流しのお姉さん

 無錫市の日本料理店が集まっている假日広場に、”流し”をしている若い女性ミュージシャンがいるとの情報が入った。

 ”流し” なんと良い響きなんだろう。日本にはもうほとんどいないであろう。しかも青島などの観光地によくあるような”流し”ではなく、本当の”流し”らしい。

 そんな若い女性の本当の”流し”に出会うのに苦労することはなかく、情報を得た翌日に出会えた。とある日本料理店で友人たちと食事をしている時だった。

「あ、来ましたよ。彼女じゃないですか?」

 連れが教えてくれた。店の入り口を見ると、二十歳くらいの若い女性が安っぽい古びたギターを抱えて入って来た。

 彼女はリクエストを聞くわけでもなく、勝手に歌い始めた。もちろん中国語の曲だ。それなりにギターは弾けていた。

 一曲歌い終えると、それなりの拍手が起きた。僕もそれなりの拍手をした。

 すると彼女は客席を回り始め「お金をくれ」と言い出した。だが誰もリクエストしたわけでもなく、勝手に歌ったわけなので、誰も彼女にお金を出そうとはしなかった。

 でも僕は彼女の歌を聴きたかったし、彼女の勇気に対しチップを払おうと思っていた。そんな雰囲気が伝わったのか、彼女は僕の方にやって来た。僕の近くに。とっても近くに。想像以上の近くに。

「気をつけて!」

 店長が大きな声を出した。

 彼女は「チェッ」と言ったかと思うと、僕の右手の甲を爪で引っ掻いて逃げるように店を出て行った。かなり痛かったし出血もした。

 後で店長に聞くと、彼女は最近この広場に現れ、弾き語りをしながら、客の財布を狙っているのだと言う。

 凄えな。

 参ったな。

 僕はまだまだ中国のことを知らないなと思った。



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