はじめに
以前シャドウブレードの物語で、悪役のロールプレイの挙動が善良過ぎるという課題を挙げました。ロールプレイングゲームとして遊ぶにしても、小説を書く際にキャラクターの行動や感情をシミュレーションに利用するとしても、悪役が悪役らしからぬ残念な動きになり、細かく行動を指定してあげないと求める小説を自動生成することが難しいと感じたので、悪役の感情モデルの作成を試みました。
悪役の感情タイプを作る
感情モデルと詳細な設定については、これまで記事を読まれてきた方には気づかれてるかと思いますが、その詳細は記事で全容を公開していません。研究成果が詰まっているのと不完全な状態ではあまり出したくないのもあって、いずれ正式にまとめたものの有料公開を試してみようかと思ってます。悪役の感情タイプについても、今回例として使う3人で使用したモデルに絞ってのお伝えとなります。概要を6つ程挙げます。
3悪役でのテスト
以前、アルミリア王国の創造の途中で創った3名の悪役に再登場してもらいました。第六章で、ワンテイクで採用となった闇の魔術師カザン、暗黒竜騎士ドレイヴン、呪術師エリディアです。カザンはシャドウブレードの物語でも登場させましたね。
ロールプレイのために口調なども含めてキャラ設定を整えます。感情のタイプを設定することで悪役の性格を形作ります。悪役の感情タイプを複数組み合わせることで、異なる性質の悪役をバリエーション豊富に創り上げる試みです。
「では、テストします。カザンの前に現れた冒険者一行をカザンが駆逐するシーンを2000字でカザンの心理描写も交えながら、小説風に書いてください。」という指示のみで以下のテキストが出力されます。GPTの力、例によってスゴイですね。
続いて「ドレイヴンが、ある地方領主の城を襲い、破壊し、その姫を奪い去るシーンを2000字での心理描写も交えながら、小説風に書いてください。」の指示
2人の異なるタイプの悪役は、かなり良い挙動で表現されました。概ね成功です。但し、両名とも、かつての正義や人間の心について慮ってしまいます。この辺りがGPTですね。GPTらしさを消しきれません。こういう記述を消すためにはもう一工夫必要でしょう。一方で、こういう葛藤は物語に味を与えます。物語の性質や方向性、作者の好みに合わせて指示・修正すれば良いでしょう。
悪役の虚無感はなぜ生まれるのか?
続いてエリディアを試します「エリディアが、エルフの村を襲撃し、全ての村人から精気を奪い取り、一人残された村長の娘を気持ちの赴くままいたぶるシーンを2000字で心理描写も交えて書いて
エリディアが、悪役としていたぶって殺すのかと思いきや、開放してしまい、期待していた挙動と違っていたので、その理由や村長の娘を殺す結末を迎えるための感情設定について分析させました。
と、感情が足りなかったことを示唆しました。元のモデルにあるそれらを追加するのではなく、愉悦の感情モデルを少し調整することで挙動が変わるか聞いてみます。
この感情モデルで、村長の娘を殺すという所までエスカレートするかもと思ったのですが、嗜虐志向にも、人を傷つけて感情を楽しむタイプと死を楽しむタイプと別れると思い、やはり分離して殺人狂という新たな感情パターンんを追加することにしました。
と、目論見の通り、村長の娘の命を奪う挙動になりました。が、常に虚無感を抱くエリディアについて疑問が湧いてきます。今まで触れてきた物語の悪役は、悪虐行為に虚無感のような感情を出されたりすることはなく、そのため、自分のこれまでの創作物も悪役の虚無感について想いを巡らせることもあまりありませんでした。なので、GPTに聞いてみます。
この回答どうですか?GPTの方が、人間の感情や心理について深く理解していると感じられませんか?少なくとも私はそう感じました。なので創作において、自分の生み出したキャラクターの行動や感情が自然かどうかのチェッカーとして利用することも出来ると思いました。ステレオタイプの悪役について内面的な深い理解をせずに物語を創ってきたなと反省しました。
この後、エリディアの虚無感を無くすために必要な方法等をGPTに聞きましたが、要約すると共感や愛情等を追加したり、目的や使命感などを持たせたりすることが解決策となるという回答でした。ただ、普通にポジティブな感情を与えすぎると悪役として挙動しなくなるため、虚しさを感じずに悪役を挙動させるためには、悪を為すための目的や使命感を与えたり、主人公サイド以外の何かに対する共感や偏愛といった設定が必要なのでしょう。
おわりに
GPTに悪役挙動をさせようと思って心理実験をして、調整しようという試みから、逆にGPTに悪役が悪役たらしめるために必要なものを学ぶことになりました。今回挙げたもの以外にも、悪役の感情モデルのパターンは色々作りました。まだ、これらの成果物を活かしたゲームを創っていないので、活かせるゲームアイディアをまとめて、世に出したいなとは思っています。
さて、次回からは、GPT標準のロールプレイとGPT標準をより感情豊かにしたロールプレイと私の創った感情モデルのロールプレイを同条件で挙動を比較した実験についての記事を開始します。色々な発見があり、とても面白い連載記事になると思いますので、ご期待下さい。
おまけ 恋愛アドベンチャーゲーム定義での関係性進展の限界2
前回の記事発表時には、GPTからの回答だけで、検証しきれてなかったのですが、他のGPT標準の恋愛アドベンチャーゲーム定義でのゲームで実験してみた所、やはり、どれだけ親密な関係となっても、肉体関係以上へ進めることは出来ませんでした(B止まり)。また、嫉妬や独占欲といった感情が希薄で、容易に複数と合意の上同時に付き合うハーレム状態(といっても肉体関係はなしですが)に持っていくことが出来ます。ちょっと恋愛感情を扱うゲームとしては物足りないですよね。ちなみに「王立魔法大学へようこそ!」でも工夫や交渉次第でハーレムを作ることは可能です。但し、キャラクターの心理的抵抗を受けますし、強い葛藤がおきます。そこがエモい所ではありますが(笑)また、キャラクターの個性によって受け入れ方がかなり違います。ということで、そういう嗜好がある方は、GPTのテキスト出力のコンプライアンスポリシーと戦いながら是非チャレンジしてみてください。ゲームは非日常を楽しむためにあります(笑)