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小説集

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#短編小説

波止場のブルウス

波止場のブルウス

神戸の波止場のそばには三等船客向けの安ホテルがあって、僕はよくそのロビーに入り込んで自分の描いた浮世絵もどきの危な絵を外人客に売り付けた。それは結構な商売になった。受け取ったドル札にものをいわせて、これまた外人客向けに媚を売る歌手の女とそのままそのホテルの客になってニ、三日しけ込む日々が続いた。絵のコンクールに何度出品しても落選ばかりしているうちに、芸で身を助けるしかなくなってこの有様になったわけ

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黒と白のフーガ

黒と白のフーガ

 染井吉野が葉桜になって、マンションの玄関に植えてある早咲きのつつじが真っ赤に開き始めたある晩、シュンは、会社の帰りに東京駅の構内の和菓子屋であんみつのカップを二つ買って帰ってきた。
 私は勤め先からの帰宅がシュンよりも一時間ほど早かったので、夕食のハヤシライスを作って待っていた。
 そこにシュンが帰ってきて、いきなり
「マキ、あんみつ買ってきた。食べないか?」
と言ったので、
「先にハヤシを食べ

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タイガー・カット

タイガー・カット

 ユウイチは、明後日に中学校の入学式を控えていた。
 彼はけさもおつかいでパン屋に行く途中に、自分が入学する予定の中学校の正門に、
「昭和五十一年度 入学式」
と大きく毛筆の楷書で書かれた看板の前を通ったのだが、その看板を正視したくない気持ちがして、往復とも前を足早に通り過ぎたのだった。
 彼が入学式の前に心が浮き立たないのは、散髪をしたくないからであった。
 地域の中学校は、男子が入学の時には、

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菓子の棚

菓子の棚

 だらだらと隅田川の方に下る坂の途中に、その和菓子店はある。
 早春の昼前、眼鏡にリュックの男が店に入ると、七十代と思しき白衣の店主が声をかける。
「いらっしゃい」
「金龍を一つ、大きい方で」
「包み方は普通で?」
「はい」
 店主が菓子を包む後ろ姿に、男が話しかける。
「正月明けにこちらに来て、俳句ができました。」
「ほう、それはそれは」
 男は俳句を朗詠するかのようにゆっくり口ずさむ。
「松明

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白シャツのX

白シャツのX

 最近、連日のようにXの名前を報道で見かける。彼にどういう疑惑がかかっているのか、なぜ世間が彼を批判しているのか、その詳細は報道に譲る。

 私はXとは特に親しかったわけではない。高校時代の思い出も少ない。覚えていることといえば、阪神ファンがほとんどであった同級生の中で、彼が自分は巨人ファンだと公言してはばからなかったこと、友達がほとんどいない様子だったことぐらいだ。
 高校を卒業すると、Xも私も

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