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 コ・デザインで始める長浜カイコー


長浜カイコーは正式名称「長浜デザインセンター」として2022年2月中旬より公設民営として営まれる。長浜市を拠点に活動する中山郁英氏と石井拳之氏の企画書を長浜市がバックアップする形でプロジェクトがスタートした。

1.建築設計の条件について

通常の建築の設計では、施主から条件が与えられて始まる。
まずはその施設の用途や予算がデザインを考えることにおいて大きく関わってくる。本件においてはその二つが曖昧なままプロジェクトがスタートした。用途も当初はクリエイティヴセンターという、デザインセンターやコミュニティセンター、コワーキングなどの機能も求められる曖昧なものだった。場所は長浜駅前の第三セクターが営む、元カフェであったテナントが長い間空いており、そこを改修して使用する。
また公設民営の施設であるが故に、パブリックな意見を取り入れなければならない。そして年度の関係で意思決定を主体的に出来る運営者も確定することが出来ないまま進んでいくことになった。そのため、一番の使い手である運営者が曖昧となり、どのように具体的に使っていくかも見えないままだった。
まずはチームをしっかり整え、従来の建築家主導の施設の整備ではなく、五者が対等な「コ・デザイン」という形で進めていくことにした。

チーム編成

2. 本設計における意見の取り入れ方

そのような条件の中で、通常通りの設計手法で進めていくことに困難があった。
通常の公共設計では、ある程度用途を図面に落とし込んで、その上でワークショップ(以下、WS)を行い意見を取り入れていく。WSで意見を取り入れることの問題点は、議論をしっかり固めていくには、参加する人を一定の人にしなくてはいけないし、議題ごとに参加する人を変えては、幅広い意見を取り入れられるが、議論を熟成させていくことが難しい。またWSで意見を取り入れるのは「使い方」だけであり、「意匠デザイン」が専門家のものだけになってしまう。

WSとMWの比較検討

今回はそのような条件の中で、メンバーと進め方を議論したうえで、改修する前のスペースが自由に使えたので、WSではなく、モニターワーク(以下、MW)をして意見を取り入れていくことにした。MWでは、一か月間既存のスペースを平日の10:00~17:00まで開放し、自由に使用してもらった。椅子やテーブルなどを寄せ集め、その他の備品などを借りて準備し、スペースを主にコワーキングのように使える場所として最初はスタートした。その中で子供向けのデザイン教室や学生を集めてのペディストリアンデッキのイベント企画をしたり、クリエイター達のたまり場になったり、働く以外にも様々な使い方が生まれてきた。
またMW後に付箋の貼りだしやアンケートを使って意見を求めていった。付箋の貼りだしは意見を展示して、蓄積していくのに優れていて、使用中の空間を豊かなものにしてくれた。

モニターワーク中の様子
意見を出してもらい、いつでも見られ共有出来るようにした。
設計者自身で検討を説明

設計者側でも模型を作り展示することで、デザインや使い方を可視化した。また自らもモニターワークをすることで、直接説明したり、意見を聞いたり、ディスカッションすることも可能となった。モニターワーク期間中に意見を取り入れながら新たに模型を追加していき、バリエーションを増やしていった。そして、その変遷やバリエーションの比較・検討資料も公開していった。
モニターワークの参加者はまずはこの場所を使ってくれるだろうと想定する人から声をかけていき、時間の間を気軽に使ってもらった。三週目を過ぎたあたりから、最初に使ってくれた人達のSNSや口コミを通じて、自分達のネットワークにない様々な人が集まり、意見も出してもらえるようになった。また通りがかりの人や行政の人まで幅広い層にも使ってもらうことが出来た。

比較検討のシートも公開し、過程を見やすくした

3.反映した意見

モニターワークが終了後、チームメンバーでディスカッションを行い、デザインを一案に絞った。その上でさらに議論し、様々な使い方の意見を入れながら設計に取り入れていった。運営や備品の部分の意見の方が多く得られたが、「使い方」として取り入れた意見として、

・議論が気軽に出来る場でありながら、集中して作業出来る場所を設ける
・時にイベント利用も出来る(テーブルは可動式)
・オンラインブース、オンライン会議室を設ける
・仕事を離れてくつろげる休憩室が欲しい
などがある。

「意匠デザイン」として最終的に「川」のようなテーブルのあるデザインが採用された。もっとも「面白そう」や「長浜らしい」という意見が聞かれ、採用することにした。これは付近を流れる「米川」をイメージしたものである。米川は長浜の中心地を流れる川であり、今でも人々の生活が溢れだす場となっているが、そのことが意識されることも少ないと思われる。しかし米川の話をすると、みんなが好きな場所であるということも感じられた。また、川のように高低差のあるテーブルを設けることで、テーブルの高さやカウンターの高さなど自分の好みに合わせた高さで作業や少人数でのディスカッションをすることが出来る。別々の活動が川のようにつながっていることで、一つの繋がりとして表現される。
そして川を横断する動線がトイレに向かう主要動線となるが、段差を設けることで身体
性にも意識を向けることが出来る。

そして、モニターワーク期間が終わった後に、各分野の専門性を生かして、詳細を詰めていく作業に入り、責任を明確にした。施設の名称である「長浜カイコー」という名が決定した。この名称もモニターワーク期間に様々な人の意見を聞きながら、決定した。
そのことによって、最初は引き戸で検討していた前面の「開口」は「長浜カイコー」が作っていく、前のめりに挑戦する姿勢の人達の「開港」となる場所にとって、受動的であるようにも感じられた。そこで5連の開き戸にすることによって、能動的に開いていけるゲートのようなイメージのデザインに変更した。またロゴの文字の色見に合わせて、集中室の壁と天井を青色に、照明にマリンランプを使用したり、グラフィックに寄せて詳細のデザインを変更した。全体として川が港へ繋がって栄えた長浜らしいデザインとなった。
施設が竣工してからも、これで完成ではなく、サインの追加や一部手直しによって、今後も改良していくつもりだ。ソフトもクリエーションセンターという曖昧な目的ではなく、デザインセンターとしての方針を強く打ち出していく。運営もモニターワークの時に頂いたアイディアを参考に今後固めていく。

意見のあった休憩室。靴を脱いであがり、子供も遊ぶことも出来る
長浜カイコーのコンセプトをイメージした開口部
ロゴの色をイメージした集中室

4.結論

本設計の良い点として、他分野の専門家と協働することで、使い方の意見を取り入れるだけではなく、プロセスにおいてもディスカッションし、どのアプローチがこの施設にとってふさわしいかまでも検討することが出来た。またハードの意匠デザインが途中交わりながらソフトのデザインに寄り添うような形で、修正しながら設計を進められた。最初からゴールへ直進して進めて行く手法ではないので、ソフトの変更にも対応しやすい。悪い点として、設計の時間が通常よりかかることが上げられる。当初の計画よりも一か月遅れての設計期間となった。発注者の十分な理解が求められる。
それでもWS形式よりもオープンでゆるいという利点は、公共的な機能をもつ建築の用途によっては非常に大きい。
建築デザインだけではなく、グラフィックデザイン、イノベーションデザイン、コミュニティデザインなどの様々なデザインを並列にすることで、従来の建築家主導のパターナリズムではなく、各専門のリーダーが並列となる関係でハードとソフトの同時設計が今後も求められるだろう。またハード面からソフト面への提案もしやすくなる。建築設計におけるCO-Designの在り方はまだまだ実験中であり、今後も様々な用途に活用し、改善していくことが必要である。


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