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『燃える平原』(1953) フアン・ルルフォ

メキシコの作家、フアン・ルルフォの短篇集、『燃える平原』を読みました。

表題作『燃える平原』を含めて、全体としてほぼ、「救いのない」作品で固められているなあ…という印象。

人はすごく簡単に死んでしまうし、殺されてしまう。
それに理由がある時もあれば、ない時もあります。

人々は貧しい。愛は脆いし、憎しみは根深い。後悔はただ後悔のまま存在する。

かと言って、それが【悲劇】であるのかと問われると、中々「はいそうです」とは言えない感じがします。

「救いがない=悲劇」というわけではなく、ただ奇跡のない現実が再現されているだけなのだ。と、そういう感じがするのです。
登場人物の絶望感や恐怖感、満たされない欲望が描写されますが、過剰な同情を誘うことはない…という、見事に乾いた文体でストーリーが展開されていきます。

作者のフアン・ルルフォ自身が、メキシコ革命による混乱の中で幼年期を過ごしたこともあり、日々救いのなさを感じていたのかも知れません。
父は7歳の時に殺され、数年後に母親も亡くなり、孤児院で育ったのだとか。

暴力や死、貧しさが日常だったからこそ、「悲しみを誘う」というよりは淡々とした無力感や虚無感を描いているような感じがしました。

***

ルルフォほどの壮絶な体験はないにしても、僕たちも日々の生活の中で、無力感や虚無感に苛まれたりすることはある気がします。

がんばっても結果が出なかったり、愛したはずの人と上手くいかなかったり、苦労して手に入れたはずの何かを壊してしまったり。

僕はそんな時、ある種の「切なさ」のようなものを感じることがあります。
(ある種の…というのをそれ以上明確に説明しようとするのは中々難しいのですが…。でも、その捉えどころの無さ自体が、なにか〈やるせなさ〉と〈温かみ〉のようなものを、同時に運んでくるような感覚かも知れません。)

そして、虚無感や無力感から抜け出したい(逃げ出したい)気持ちもある一方で、何故だかその「切なさ」自体からも、もしかすると、自分はとても大切なものを受け取っているのかも知れない…と、思うことがあるのです。

この本の読後感も、少しそれに似ているなあ…と思いました。

〈救いのなさ〉もどこか愛おしい。
もし良ければ読んでみてください。

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