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蜘蛛女のキス

2021.12.01

ミュージカル『蜘蛛女のキス』
東京芸術劇場 プレイハウス

せっかく来たし、時間があるのだから何か観ようと旅の直前でチケット購入した作品。
観劇して、思った、感じたこと。ネタバレです。


モリーナ達の牢獄での生活が、コロナ禍で閉鎖的になった生活を彷彿させた。

大好きな女優オーロラのことを語る姿は、苦しい中でもその心は屈しない強さも感じられた。
エンタメが与える喜び、希望を感じられた。
でも、1つだけ。蜘蛛女の役は、大好きなオーロラが演じているとしても、「死」を連想させ恐れていた。共に収容されている人々の死。人権も何もない、非情な牢獄で過ごす自分の命を脅かす死、そして病気の母の死。死が近づくことを連想させる蜘蛛女が恐ろしかった。
オーロラから与えられる喜びと恐怖。

どんなに仲間を送られても口を割らない。
それがなんの意味になるのだろうか。
仲間が拷問にあい、自分も生き地獄。
革命が押し潰される世界。
他人を信じることが難しくなる。
境界線を引いて、こっちには来るなと自ら壁を作るバレンティン。
その境界線を無視してひょいっと入り込むモリーナ。
モリーナはオーロラの魅力を語り続けた。
鬱陶しかったけど、ユーモアに語ってくれるモリーナの姿は、次第にバレンティンの心を癒した。牢獄の生活の中で、楽しさを覚える時を与えてくれた。そして、一緒に楽しむことができた。

女性の心を持つ性的マイノリティを抱えて生きるには、世界はとても辛いものだった。
自分はダメな人間だ。クズな人間だ。と卑下する。
「自分に誇りを持て」と言われた。自分と全然違う道を歩む、性格も真逆の人間に励まされ、勇気を持っていった。

所長は革命家たちを潰そうと、モリーナの釈放と引き換えに、バレンティンから口を破るように仕向けた。モリーナはバレンティンを売ることはできず、なんとかやり過ごしていた。

自分を愛してくれる母とともに生きることを、ずっと願っていたモリーナ。牢獄を早く出て、母と慎ましくてもともに生きていくことを望んでいたモリーナ。臆病で自分を卑下して生きてきたモリーナ。
でも、バレンティンと出会って、マイノリティに厳しい世界でも、自分に誇りを持ち、間違った世界に対して、立ち向かおうとする勇気を持つことができた。バレンティンの思いを胸に、託されたことを実行することができた。
牢から出してくれた所長を裏切ったため、モリーナは命を奪われてしまう。バレンティンが大好きだと言ってくれたオーロラの映画のように、愛する彼をかばって死んでしまう。

その後のバレンティンがどうなったのかは分からない。
バレンティンの恋人も、バレンティンとはもう関わりたくないと、モリーナに託した恋人への命懸けでメッセージも受け取ってはくれなかった。
革命家の仲間がどんどん捕まって拷問を受けて亡くなり、恋人も自分の元を去ってしまったバレンティンは、その後どうなってしまったのだろうか。私は、それでも誇りを持って、自由と人権と愛を勝ち取ろうと生き抜いたと思う。
一瞬、国を揺るがせ、一瞬にして国に握りつぶされて儚く散った革命家たち。
でも、国が徹底的に潰そうとしたその脅威。
その時代、のちの時代に、彼らの志が残る。そう信じたい。

1人の人間が、全く違う1人の人間によって、強さや優しさ、愛を知っていき、成長していくストーリーに心打たれた。
モリーナにとってのオーロラのように、エンタメがどんな状況になっても心に癒しやユーモアを与えてくれて、それが生きることの支えになったりする。そして蜘蛛女から与えられる恐怖のように、世界や自分自身の問題や愚かさ、脆さを気づかせてくれる存在。牢獄の閉鎖的で精神がどうにかなってしまいそうな空間が、コロナ禍の世の中と重なった。

モリーナの死後の世界では、マイノリティの苦しさもなく、国と革命家の争いだとかもなく、誰もが生き生きとしてて、仲良く手を取り合って、楽しく、一緒に踊っていた。モリーナが描く理想の世界。
そんな世界が来てほしいと、心から思った。

余談ですが、、
バレンティンがモリーナを抱く時、蝋燭の火を消そうと息を吹きかけても消えなくて、4回くらい頑張ったけど消えなくて、最終的に手で消したあいばっちが愛おしかったです😗💨🕯☺️


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