🌾 ヒンメリが生まれ、育まれる場所 vol.4 伝説のヒンメリ作家 ヒルマ・シエヴァ

ヒンメリを作っている人、ヒンメリに魅了されている人の声を紹介することで、ヒンメリの文化的な側面を考える「ヒンメリが生まれ、育まれる場所プロジェクト」。

第４回は、１９７５年に収録されたインタビューで、フィンランド国営放送 yle がアーカイブとして公開している記事と映像をご紹介します。

原文はこちら

Himmelintekijä

ヒルマ・シエヴァさん
ご存知ですか？

まずは、２００６年１１月にフィンランド国営放送 yle がニュースサイトで公開した記事を翻訳します。ヒルマ・シエヴァさんについて、簡単に紹介する内容になっています。

ヒルマ・シエヴァさんは１３歳のとき、教会学校の天井をゆらゆらと絶えず揺蕩い続けるものに出会いました。家に帰ってすぐ、近所から葦を摘んできて自分でも同じように作ってみることにしました。彼女のはじめてのヒンメリはこのようにして生まれました。

シエヴァさんは７５歳でプロのヒンメリ作家になりました。学校には通いませんでした。当時、学校に通えるのは裕福な家の子どもに限られていたのです。ヒンメリが彼女の「パンノキ」になりました。

チップ工場と、そのあと働いた金属工場で右手と左手の指を失いました,不幸中の幸いで、ヒンメリ制作においては何の妨げにもなっていません。

シエヴァさんは折り畳みができる、素晴らしいヒンメリを開発しました。必要な麦わらは約２４００ピース、制作には３０時間ほどがかかります。

2006年11月27日に公開されたyleを翻訳

切実と安らぎのヒンメリ

続いてご紹介するのが、yle がアーカイブ公開しているインタビュー動画です。私はリスニングが苦手なので聞き取れない単語が多くて、前後の文脈から、だいたいのニュアンスで意訳しました。

Himmelin teko

シエヴァさんは実際にヒンメリを制作しながら、インタビューに答えています。麦わらを口にくわえてモゴモゴしている場面があったり、細かなパーツコレクションのお披露目があったり、ヒンメリを制作している方々にはいっそう楽しめる動画だと思います。所々で登場する作品紹介のカットも必見です！

私がこの仕事を始めたのは６０歳のときです。働かなくちゃいけなかったんです、ちょっと事情があって。もう１５年になります。

１３歳のとき、教会学校で天井をゆらゆらと揺蕩うものに出会ったんです。それがヒンメリでした。

近所から葦を摘んできて、さっそく同じように作ってみようと挑戦しました。ところが、葦に糸を通すのはなかなかの難題です。ついには葦に直接口をつけて、吸い出すようにしてみました。母が「先に寝るよ」と様子を見にやってきたので、私は「（空気を吸いすぎて）鳥になっちゃうよ」と戯けてみせたのでした。その日はそこで作業を中断しましたが、その後もこっそりヒンメリづくりは続けられました。興味があったんです。

私は学校には通いませんでした。当時は、農家や商家の裕福な子どもしか通えなかったんです。我が家には５人の子どもがいて、家族は手工芸をして暮らしていました。それに、学校までも距離があって、通学途中の寒さをしのぐために重ね着するような洋服も持ち合わせていませんでした。

教会での堅信礼を終えたあと（おそらく１５歳で）奉公に出ました。いくつかの家を渡り歩きましたが、クリスマスには毎年ヒンメリを作って楽しむことを忘れませんでした。

結婚したのは１９３３年のことでした。１人で生きるには大変な時代で、２人のほうがうまくいくかなと思ったんです。１９４４年に夫が亡くなり、結婚生活は１０年で終わりを迎えました。

その後、チップ工場に働きに出て、作業中の事故で左手の指を切断してしまいました。右手の指は、次に勤めた金属工場で失いました。

そして、再婚しました。今度は私は主婦になりました。展示会に出展して、賞をもらうこともありましたが、ヒンメリを運ぶときに大きな箱が必要になるので、どうにかできないかと考えていました。

試行錯誤を繰り返して、ようやく完成したヒンメリには、約２４００本の麦わらのパーツが必要でした。

さて、ここには１１種類のパーツがあります。麦わらをパーツに合わせたサイズに切るときには、少しも誤差があってはいけません。だから作業には時間がかかりますが、さらにこれらを組み立てるだけで３０時間もかかるのです。

１９６０年に引越しをしました。月々の年金だけでは生活が苦しくて、それでヒンメリを作るようになりました。指が痛むほどに、切実でした。

それなのに、お店に持っていくと「誰も真似して作れないようなヒンメリにお金が払えない」と言われました。でも、そのあとで縁があったお店は、私の作品を気に入ってくれました。私のヒンメリは国内外へ売られるようになりました。

私が発明した、持ち運びできるヒンメリは国から表彰されました。賞金は４０００マルクで、私にとっては大金です。嬉しかったです。でもそれよりも、これまでは陰日向で咲いていた私に、ようやく太陽が振り向いてくれたことが言葉にできないほど嬉しかったです。

今までは我慢していたものもこの賞金で手に入れることができます。私はすぐに眼鏡を買いました。必死になってヒンメリを作ったことで肩こりが悪化し、手がよく動かなくなっていたので、海外に治療にも行きました。

ここには５年前に引っ越してきました。よいところです。

今は年金だけで十分に暮らしていけますが、気持ちの拠り所として、ヒンメリを作っています。売ったらお小遣いにもなりますし。新しいヒンメリが完成するのは楽しいです。お金にはならないかもしれないけど、それでもヒンメリ作りをやめることはできません。今の私には、趣味のような存在なのです。

折りたたんで持ち運びができるヒンメリを編み出すまでには、たくさんの時間と労力と根気を費やしました。私にはこの技を受け継いでくれる人がいないので、このまま途絶えてしまうのが残念です。

1975年12月24日に公開されたインタビューを意訳

編み物にしてもヒンメリにしても、どうしたら細かい作業を繰り返し飽きずに続けられるのだろうと、常々不思議に思っていたのです。そのモチベーションは何なのかなって。

でも今回、この動画を翻訳するために、映像をスローモーションにして何度も聴き直したり、単語を調べたりしながら、ひょっとしたらわたしがフィンランド語に夢中になっている感覚に近いのかもと思いました。肩こりもツラいし、目もショボショボするけど、楽しくて、気持ちの拠り所になっている、そんな風に思ったんです。

シエヴァさんがヒンメリと出会ったのは１３歳のときでした。おそらく簡単に藁が手に入るような環境じゃなかったけど、その好奇心を簡単には捨てられなくて、近くに生えていた葦を使おうとしたのでしょうね。ところがなかなか糸が通らない、でも諦められない。家族に隠れてこっそり作業を続けたのは、うまくいかないのが恥ずかしかったから？それとも、農家の娘じゃないシエヴァさんが葦で代用してまでしてヒンメリを作ってることがまわりに知られたら、なんとなく居心地が悪くなったりすることがあったのかな。

持ち運びができる折り畳み式のヒンメリを生み出したのは、大きな箱代を工面することが難しかったからだそうで、不便は発明の母とはこのことですね。シエヴァさんの人生の半分は戦火とともにあって、欲しいものがすぐには手に入らない環境に身を置いていたけど、藁を葦で代用したり、大きな箱が手に入らなかったら、箱に収まるようにヒンメリをコンパクトに収納できるように発想を転換させたりと、暮らし上手ですよね。麦わらのパーツも大小さまざなサイズがあって、無駄をなくすためにデザインを考えたのかなって思いました。

奉公先で家族と離れ離れだったり、家計が苦しかったりしたときに、ヒンメリに救いを求めた切実さを想像すると、シエヴァさんの頑張りが報われてわたしもとても嬉しいです。経済的にも余裕ができて、人生の後半はゆったりとした気持ちで向き合えたのでしょうか。今までの苦労が報われて、本当に本当によかった。

皆さんも映像の余韻をじっくり味わってください。

第５回に続きます。