Usako Sucharaka

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新・サンショウウオ戦争

第三章 世界戦争 16 エピローグ  やがて人類はまた陸地に満ちはじめる。  人類は高地から徐々に陸地の名残りの海岸線へと戻ってくる。だが、海にはまだ長いこと、ヒュマンダの死体の腐臭がただよっている。陸地は川上から運ばれてくる沖積土で、少しずつ広がっていき、海は少しずつ遠ざかる。やがて、すべては元の姿にかえる。人類は「神」を作り、新しい創世神話を語り始めるだろう。 ――むかし、むかし、神様は地球上に、ご自分のお姿に似せて、ひとつの命を生み出されました。  神さまが、罪深い

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      第三章 世界戦争 15 世界の終わりの片隅から  チベット高原の粗末なレンガ積みの家に、ひしめくようにして暮らしていた一群のヒトのなかに、ひとりの少女がいた。夜空を見上げていたとき、大きな火の塊が現れ、南の山並みへと流れていった。少女は目にしたもののことを周りの大人に伝えたが、それが意味するものが何なのか、誰も知らない。少女は山を一つ越えた向こうの村に住むという老人に聞いてみようと思い、家を出た。老人はものごとをよく知っているらしい。 「世界の終わりじゃ。」  少女は信じな

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        第三章 世界戦争 14  歴史は繰り返す  人類が陸地の奥へと追いやられていた三世紀の間、ヒュマンダは爆発的に人口を増やした。当然、さまざまな信条を持つものが現れ、いくつかの派閥に分かれた。ヒュマンダの発展を第一に自然を作り変えるべきだと主張する旧HD主流派はもちろん、絶滅危惧種となった人類保護を訴えるタマリア教徒のほかにも、「サンショウウオ時代に戻ろう」と唱えるナチュラリスト、膨大なヒュマンダ人口を養うためには宇宙開発が必要だと働きかける“宇宙党”等、サンショウウオの世界

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          第三章 世界戦争 13  世界の終わり  南部と東海岸を失った合衆国に同情するふりをしながら傍観していた南北アメリカ以外の国々も数年後にはヨーロッパは地中海を蝕まれ、ロシアは黒海、カスピ海周辺から土地を失っていった。こうして次々と棲息地を奪われた人類は大陸の奥地へと追いやられ、残されたのはチベット高原・アンデス山脈・エチオピア高原の三地域のみとなった。その間、人口稠密が度を越した地域では疫病が流行し、また土地をめぐってのヒト同士の戦いが起こり、人類は急激に数を減らしていった

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          第三章 世界戦争 12 中米地域での戦闘  次にHDが目をつけたのは中央アメリカの水域だった。南はトリニダード・トバゴから北はプエルトリコにかけて、大西洋との境界に位置する小アンティル諸島は一晩のうちにHD軍に制圧され、カリブ海沿岸地域はHDの支配下に入った。だが、多くの軍事評論家の予測では、膨張するヒュマンダ人口はこの海域から溢れ出し、数年後には北上してメキシコ湾にいたる水域を領海に組み入れるだろうと思われた。  喉もとにナイフの切っ先を突きつけられたかたちのアメリカ合衆

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          第三章 世界戦争 11 誤爆  HDによる動画アップの直後、アメリカ合衆国国防省が全世界に向けて発表を行なった。その内容とは、「今回の日本の原発攻撃は米国海軍のシステムが何者かによって乗っ取られた結果の誤爆である」というものである。各原発を襲ったミサイルはアメリカ合衆国の第十三艦隊所属イージス艦アルバカーキ、ホノカア、ラファイエットからそれぞれ発せられたもので、HDの艦隊を狙ったはずが、照準システムに狂いが生じて今回のような結果になったというのがその理由だった。当然、日本人

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          第三章 世界戦争 10 第四の動画 「ハローハローハロー。ヒュマンダ・ドミニオン・チーフ・スピーキング。人間の皆さん、緊急放送です。ハローハロー、こちらヒュマンダ・ドミニオン、チーフ・ヒュマンダ、スピーキング。」  おなじみの女性アナウンサー登場。続いて、チーフ・ヒュマンダが現れる。今回は画面をじっと見つめると、小さな声で切り出した。 「このたび、敦賀・玄海・泊の原子力発電所攻撃により、失われた人命にまずはお悔やみを申し上げる。」  そして、大きな口でゆっくりと息を吐いた。

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          第三章 世界戦争 9 日本海側原発誤爆  ●月×日午前九時二十四分、福井県にある日本原子力研究開発機構・敦賀本部に警報が鳴り響いた。制御パネルは、半世紀前から運転を休止していた高速増殖炉かんざんに異常が起こっていることを示している。この“かんざん”は建設当初からトラブルが絶えない原発で、廃炉作業に入って後も、この手の誤報が警報装置の不備により年に数回は起こっていた。当直の職員は一瞬、「またか。」と反射的に警報装置の電源を切ろうとしたが、ふと嫌な予感に動かされてモニター画面を

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          第三章 世界戦争 8 カイロ会議  それから数週間後、エジプトの首都カイロで国際会議が開かれた。当初はラパスやボゴタなど南アメリカの高地にある都市が開催地候補に挙げられたものの、高度よりも乾燥度を重視すべきではないかとの意見が複数の国から出され、最終的に砂漠を背負ったこの地が選ばれることになった。この選定基準は、もちろんHDの攻撃を避けることにあったが、ヒュマンダましてヒュマンダが砂漠には近づけないとの保証はない。単純に感覚的な判断だった。  まず、HDとすでに戦火を交えて

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          第三章 世界戦争 7 第三の動画  日本海海戦が午前中でほぼ終了したその十時間後、案の定、第三の動画がインターネット上にアップロードされた。  おなじみになったスタジオで、これまたおなじみの女性アナウンサーが切り出す。 「ハローハローハロー。ヒュマンダ・ドミニオン・チーフ・スピーキング。人間の皆さん、緊急放送です。ハローハロー、こちらヒュマンダ・ドミニオン、チーフ・ヒュマンダ、スピーキング。」  画面切り替わって、チーフ・ヒュマンダ。今回はあいさつもそこそこに、があがあ声を

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          第三章 世界戦争 6 日本海海戦混戦  対馬海峡でも、ほぼ同時刻に砲撃が始まった。しかも、日韓の両司令部は連携がなかったために、レーダーに映るその船体が正体不明の敵艦なのか日本または韓国の軍艦なのかを見極められず、手も足も出せない状態に陥った。その間にも、日本艦十一隻、韓国艦九隻が複数の大型艦からのミサイル攻撃を受けて撃沈もしくは航行不能に陥る。ようやく一時間後、各国司令部は応戦命令を発し、ミサイル・機雷での攻撃を開始。だが案の定、日韓見分けのつかない混戦となり、ついには日

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          第三章 世界戦争 5 日本海海戦開戦  第二の動画がアップされて三日後、世界はかたずを飲んで日本海/東海を見守っていた。日本と韓国はそれぞれ軍艦を各二十隻ずつ日韓にはさまれた対馬海峡に陣取らせた。また、宗谷海峡には日本からのみだが、やはり二十隻が派遣され、日本海/東海にいかなる不審船も入れじと目を光らせた。日本海/東海の呼称問題は結局、解決せず、それぞれが自国の命令系統のみに従うかたちで配備を行なっていた。  午前五時四〇分、宗谷海峡に陣取っていた日本の艦隊が国籍不明のミサ

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          第三章 世界戦争 4  日本海海戦  各国政府は悩んだ。タチの悪いいたずらだと主張する者もいたが、この数ヶ月各地で起こった大地震との符合を考えると、あながち冗談とも思われない。だが、これが宣戦布告だったとして、画面の中の本人が「これから首都を設置する」と言っているように、現在その主体はどこにあるのか不明であり、否も諾も答を返しようがない。そこでアメリカ、中国およびヨーロッパ・アフリカ大陸に位置する各国は無難な策を採り、日韓朝露の成り行きを見まもることとした。  一方、名指し

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          第三章 世界戦争 3 第二の動画  翌日、先の映像が一〇〇万ヒットを越え、世界各地の政府関係者の耳にもその内容が届きはじめた矢先、同じ製作者の手になると思われる新たな動画がアップされた。前回と同じ場所と思われるスタジオで、まず女性アナウンサーが切り出す。 「ハローハローハロー。ヒュマンダ・ドミニオン・チーフ・スピーキング。人間の皆さん、緊急放送です。ハローハロー、こちらヒュマンダ・ドミニオン、チーフ・ヒュマンダ、スピーキング。昨夜、ヒュマンダ・ドミニオン最高議会で決定した

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          第三章 世界戦争 2  宣戦布告  日本時間十一月二十日午前一時十七分、インターネットの動画サイトにひとつの映像がアップされた。はじめの一時間ほどは、たまたま「地震」「大サンショウウオ」「ヒュマンダ」の3つのキーワードにヒットした数十人がその動画を閲覧し、ほとんどの人間はとくに何という感想も持たなかったが、中に二人ほど、それを「何だこれは?」もしくは「いいね!」と感じた者がいたらしく、知り合いにそれを伝えた。その結果、情報は加速して世界中に拡散し、二十四時間後には閲覧者数は

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          第三章 世界戦争 1 前触れ  アメリカ合衆国領ハワイ諸島がマグチュード9.5の超大型地震に襲われ、マウナケア山の頂を残して7つの島すべてが海中に没した三日後、ロシア領アリューシャン地域でも大規模な地震が発生し(これはロシア政府により正確なマグニチュードが伏せられた)、やはり陸地の大部分が水に沈んだ。ハワイ諸島沿岸はこの百数十年間、アメリカがプラットフォームを拡張し人工的に領土を広げており、アリューシャン地域はロシアが列島間を埋め立てて地続きの半島に作り直していた。前世紀以

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