新・サンショウウオ戦争

第三章 世界戦争

1 前触れ
 アメリカ合衆国領ハワイ諸島がマグチュード9.5の超大型地震に襲われ、マウナケア山の頂を残して7つの島すべてが海中に没した三日後、ロシア領アリューシャン地域でも大規模な地震が発生し(これはロシア政府により正確なマグニチュードが伏せられた)、やはり陸地の大部分が水に沈んだ。ハワイ諸島沿岸はこの百数十年間、アメリカがプラットフォームを拡張し人工的に領土を広げており、アリューシャン地域はロシアが列島間を埋め立てて地続きの半島に作り直していた。前世紀以来、各国はヒュマンダおよびサンショウウオを使役して領海を埋め立てて多くの陸地を作り出し、あふれ出す自国人類の生活圏としてきたのだった。そんな折、二つの連続した大地震によりアメリカとロシアの領土が水没したのである。当初アメリカはロシアの海底からの攻撃を疑い、ロシアもまたアメリカが報復として地底攻撃を行なったのではと互いに疑心暗鬼となり、近日中の米ロ開戦は必至と思われた。だが、さらにその三日後、南シナ海のスプラトリー諸島(中国名:南沙諸島)でマグニチュード8.5の、ペルシャ湾深部で同9.0の大型地震が発生すると、米ロは互いに冷静さを取り戻して、それぞれ自国の専門機関に原因究明の指示を出し、戦争の危機はとりあえず回避された。
 調査の結果、スプラトリー諸島では手付かずの岩礁・砂洲を残して中国が盛り土をして作った滑走路はすべて海面下に沈み、ペルシャ湾岸地震ではカタール・バーレーン‘クウェートの国土全てが、UAE(アラブ首長国連合)・イラン・イラクは国土の一部がそれぞれ水没し、ペルシャ湾も全面積が以前の約4倍となっていることが判明した。取り急ぎ何らかの結論を出すよう、それぞれの政府から厳命された米ロの研究機関は、「地球内部の動きが活発化している」とあたりさわりのない内容を発表。しかし、新聞はそれらの調査報告書の一部を手短かに(全体を理解するには高度な専門知識が必要だったので)引用して、「地球内部に異変発生」「大地震は今後三十年間継続の可能性あり」「安全な場所はないと専門家が指摘」等、人びとの不安を煽る見出しを掲げた。案の定、世界各地がパニック寸前の状態に陥り、教会やモスク、寺院その他、宗教施設は祈りをあげに来る人であふれたため、門前町は時ならぬ活気がみなぎり、人々の間に異様な興奮状態をつくりだしていた。



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