新・サンショウウオ戦争

第三章 世界戦争

10 第四の動画
「ハローハローハロー。ヒュマンダ・ドミニオン・チーフ・スピーキング。人間の皆さん、緊急放送です。ハローハロー、こちらヒュマンダ・ドミニオン、チーフ・ヒュマンダ、スピーキング。」
 おなじみの女性アナウンサー登場。続いて、チーフ・ヒュマンダが現れる。今回は画面をじっと見つめると、小さな声で切り出した。
「このたび、敦賀・玄海・泊の原子力発電所攻撃により、失われた人命にまずはお悔やみを申し上げる。」
 そして、大きな口でゆっくりと息を吐いた。はぁぁぁぁという音をマイクが拾った。
「さて、今回の件について、われわれHDの所業であると考えるヒトはまさかいないと、私個人は信じている。なぜなら、放射能で汚染された土地に人類が住めないのと同様、われわれサンショウウオおよびヒュマンダもそこで暮らすことはできない。そんなことは子供でも三秒考えればわかることだ。」
 どん、と机を小さな前足で叩き、チーフ・ヒュマンダはリズムを整えた。
「今回の攻撃が誰によってなされたかを私はここであげつらうつもりはない。すでに、地球上多くの国の人びとが誰の仕業か気づいているだろう。あの正確な照準、破壊力……、」
 チーフ・ヒュマンダは背後の世界地図(日本または韓国製と思われる)を振り返り、視線を右斜め上すなわち北アメリカ大陸のほうに向けて三秒ほど凝視した。そしてまた画面を見据えて、口を開いた。
「残念ながらわれわれは日本海地域を諦めざるをえない。かわりの場所は現在、選定中である。人類の皆さん。私はがっかりしている。皆さんがそこまで愚かだとは思っていなかった。今後一切われわれからの発表は行なわず、次に首都地域が決定した際には、実力行使で建設を行なわせていただくことになるだろう。」
 画面切り替わり、女性アナウンサー登場。
「では、ここで音楽をお聞かせいたします。作詞、作曲、不詳。朝鮮民謡“海鳴り”でございます。」
 ここで玄海・敦賀・泊の原子力発電所が白い煙を上げて崩壊している映像に切り替わる。

海鳴り/ヘミョン(日本語訳 金素雨)
日が沈み 海が鳴る
北の空へと 雁が飛ぶ
なつかしき わが父母の
声が 聞こえるようだ

星が消え 海が鳴る
東の空へと 月がゆく
なつかしき わが故郷
野辺の道も 今はない

故郷消え 海が鳴る
北極星だけが 動かない
なつかしき 面影は
すべて 夢の中にある

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