夫婦別姓をめぐる「つぶやき」から

最近、とある漫画が、Twitterで話題になっている。
まず、そちらを紹介したい。

選択的夫婦別姓そのものに賛否両論があること。
賛成のなかにも積極的賛成と、消極的賛成があることは理解している。
法律上そのようになっていなくても、大多数が採用する「お嫁さんがきて、男性の苗字に統一する」という形式にあこがれる人・面倒だからそれにならいたいは男女ともにいるだろう。

しかし、そのなかでどうしても見逃せない意見があった。

「女性の言っていることは正論だが、夫婦別姓が制度として認められていない時点で、このような要求をしてくる女性は地雷だ/結婚に向いていない」
「苗字くらいそろえられないようじゃ、夫婦としてやっていけない」
「結婚は、苗字を変更した相手の家系に組み込まれるもの。それが嫌なら同棲してバカみたいに自称夫婦を名乗っていろ」

このような意見をみて、事実婚中の私は心が痛むと同時に、
結婚の慣例・慣習にとらわれすぎて、法律で定められている「婚姻」が見えていない人が多いのではと感じた。
何番煎じかわからないが、日本の婚姻の現在地についてまとめてみたい。
私は法律のプロフェッショナルでないので、法律にかかわる点に間違いがあればぜひ指摘していただきたい。

なお、ここでは、「婚姻届を出した夫婦」ということと、「事実婚をしている夫婦(同性・異性は区別しない)」を区別するために、前者を「婚姻」、前者+後者を「結婚」と呼ぶことにする。

①現行民法下での婚姻

婚姻の基本となる、民法の条文を確認したい。

民法で定められている、婚姻の効力には以下のようなものがある。
1 夫婦の氏は、どちらかに統一する。
2 同居し、扶助・協力する。
3 未成年者は婚姻により、成年とみなす。
4 夫婦間の契約は、婚姻中、夫婦の一方から取り消しができる。
5 夫婦は婚姻費用を分担する。
6 婚姻前や自己の名で築いた財産は、本人のもの。夫婦どちらかに帰属するか明らかでない財産は、共有財産。
7 日常の家事における債務は連帯責任である。
8 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。
9 配偶者には、相続における遺留分が定められている。
10 婚姻中の親権は、共同親権である。
11 夫婦間の権利の時効停止。
12 近親者に対する損害の賠償。

この中で、現在話題になることが多いのは、1夫婦の氏に関する部分だろう。社会の制度がこれしかない以上、どうしても婚姻したいのであれば、従うしかないのが現状だ。
8についても、婚姻の特権で、事実婚の場合は遺言状を残すか生前贈与をするしかない。しかも、遺産を相続するのは、通常、配偶者や親や子が想定されているため、事実婚の場合、婚姻している配偶者の1.2倍の相続税を払う必要がある。
また、根本の問題として、婚姻は男女カップルでしか行うことはできない。
結婚の意思の表明として、パートナーシップ制度を選択することもできるが、制度化している自治体が少ないうえに、居住している時しかその制度を使うことはできない。また、相続など肝心な部分に適用されることはない。加えて、パートナーシップ制度に統一の基準はなく、同性カップルのみとしているところもあれば、男女カップルを含むところもある。

余談であるが、「嫁ぐ」「婿入り」なんていうのも、現代の法律では存在しないものである。もちろん、苗字を統一したほうの家の人間になるということもない。その家の人間になるのなら、「相続権」があるのが道理だろう。
たまに、「離婚のハードルが下がる。離婚率が上がる。」を夫婦別姓の反対意見にあげる人がいるが、離婚率の低さが何の指標になるかよくわからない。辛抱強さ?合わないんだったら、さっさと別れたほうがお互いのため。「離婚率の高さ」のほうが健全ではないかと思う。

また、結婚は基本的に、両性の合意にのみ基づくものなので、基本的には個人間の契約だ。それでも、相手に紐づく家族がいるので、それぞれの家族との関係は浅かれ深かれ持たなければいけないだろう。

氏・相続以外は、男女の事実婚であれば、判例などでカバーされるものが多いということもわかった。
事実婚はもはや「自称夫婦」ではなく、生活の実績を積み上げていくことで「夫婦」として、法のなかで扱われるのだ。
(もちろんそれが、同性カップルに広がることを望む。)

②選択的夫婦別姓とは

さて、先般の引用記事でも話題になっている「夫婦別姓」に話を戻そう。

現在、議論が活発になっている「選択的夫婦別姓」とは、まずどのようなものなのだろうか。

法務省HPによれば、夫婦が望む場合には婚姻前の姓をそれぞれが名乗ることができる制度である。
もちろん、今までどおりが良い人は今まで通りでよい。
子供の姓は事前にどちらか決めておくこと、複数人子供がいた場合はみな同じ姓にすることなど、ある程度の見通しがたっているらしい。
夫婦別姓を容認する声も増えているそうだ。

旧姓併記や、職場での旧姓使用などは広がっているが問題がある。
まず、旧姓併記をしたところで、何にも使えないということだ。戸籍上の氏が新姓である以上、役所や銀行などは新姓を求めてくるだろう。使えない旧姓が併記されていて、何の意味があるのだろうか。
職場の旧姓使用は、私の勤める会社も可能だが、結局会社の自分にしかそれは使えない。保険証は新姓になる。つまり身分を証明する場合は、旧姓はどうにもこうにも使えないのである。
結局、根本的な部分での解決にならないのである。

私が夫婦別姓にしたい理由はなにか。
相手の苗字と、自分の苗字を合わせたときの、漢字表記・読み方がどうしても自分の感覚で、受け入れがたいからである。
私のフルネームを仮に「広原雪(ひろはらゆき)」、相手のフルネームを「滝廉太郎(たきれんたろう)」としよう。
相手の苗字にそろえると、「滝雪(たきゆき)」のように、漢字が2文字・読みが4音・苗字と名前がまったく同じ音で韻を踏むという状態になる。
インターネットで調べても、この3つがそろった芸能人などが出てこない。
うまれながらの名前でつける人が少ないのだろうと推察できる。

正直、これを受け入れることがどうしてもできない。
好きな人の名前なんだから我慢したら?とか、そのうち慣れるよ、などとたびたび言われるが、それでも我慢できない。
慣れてみようと思って、紙に100回くらい書いてみたりした。
むしろ我慢ならない気持ちがマシマシになって、粉々に破り捨てて、もう書きたくないと思った。
「千と千尋の神隠し」で、名前をとられた「ハク」は自分の本当の姿を忘れていた。その気持ちが少しわかった気がした。

「広原廉太郎」のほうがよっぽど自然な名前じゃないか?と思う。
夫は、苗字を個人識別記号をとらえており、こだわりがなく、苗字を「広原」に変えていいよと言ってくれている。
まぁ、相手の親は、自分の息子(しかも長男)が苗字を変えるなんて考えは毛頭ないだろう。
自分が譲れないことを、相手に譲らせるというのも申し訳なく、
また私は家庭不和だったため、良好な親との関係を悪くさせるのもなと思い、その申し出は保留にしている。

ということで、話し合いの結果、事実婚を選択することにした。親にも報告済みである。

結果として私たちは苗字をそろえることはできなかった。
それでも、何の支障もなく夫婦として暮らしている。
今年は双方の親に、母の日・父の日のプレゼントもあげた。
苗字をそろえるかどうか、お互いの考えをしっかり言えた・聞けたことで、その後の夫婦関係に良好な影響を与えている。

③意見を言うことは「地雷」なのか?

最後に、この点だけ、突き詰めたい。

自分が嫌だなと思うことでも、しれっと受けいれ、受け流すのが大人のような風潮があるが、私はそれに真っ向から反対する。
受けいれたというメッセージを一度でも発してしまったら、それはますます自分の首を絞めることになるからだ。
選挙権、居住の自由、信仰の自由など私たちの周りにある様々な権利は、それこそ先人たちが戦って手に入れたものだ。だれかが声高に違和感を表明しないと、考える機会すらない人もいる。

結婚とは確かに我慢の連続なのかもしれない。
そうだとしても、話し合うこと・自分の気持ちをいうことが地雷だとなってしまったら、その関係は対等ではない。
法制化はされていないが、慣習として残っていることはたくさんある。

苗字を変えるのは女性側だという慣習。
墓守や親の介護をするのは長男であるという慣習。
子供の面倒をメインで見るのは母親であるという慣習。
男性は大黒柱として働き続けながら生きていくという慣習。

もちろん面倒くさいと思うこと自体を否定しない。
私も面倒で受け入れ、受け流している身の回りの慣習はある。
(私の名前で契約しようと思っていても、夫と行くと夫の名前で書面を用意されるとか)

ただ、婚姻についてはそれができなかった。
どうしても譲れない部分があって、かといって相手に譲ってもらうのもつらくて、だから、事実婚の選択にいたったのだ。
夫婦別姓のことで事実婚になっている夫婦は、このように話し合いをして事実婚にいたった人たちが多いだろう。
それを「バカみたいに自称夫婦名乗ってろ」なんて、断罪する権利は誰にもないはずだ。

事実婚ライフは快適だ。
好きな人と同じ家にいて、一緒にご飯作って一緒に食べて、一緒にねる。そしてたまに旅行に行って、帰ってきてからもその思い出を反芻する。
相手の家の懸念事項を話し合い、解決策を提案してみる。
大きい買い物をするにあたって、それぞれの予算や理想のものをプレゼンしあう。折衷案にきまって、ほっとして、2人で出前とか取っちゃう。
たまに子供がいたときの妄想や、猫を飼った時の妄想を話す。
たぶん子供のいない婚姻夫婦となにもかわらないのでは。
外から見て、私たちが苗字を一緒にしてるかどうかなんて、
すれ違ってもわからないんじゃないかな。

選択的夫婦別姓が法制化されたら、一回くらいは婚姻してみてもいいかな。
まっさきに届をだして、TVの取材受けちゃおうかな。
そんな妄想をしながら、今日も寝よう。







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