見出し画像

唐揚げ2/4【Vの庭先で肉食を】

>唐揚げ1/4

雨が降っている。
人工河川から水が溢れ、集団農場を飲み込んでいく。
生まれ育った貧しい家も、痩せた畑も、僅かに手元に残った収穫物も、両親も、何もかもを飲み込んでいく。
よく分からないが、荒れ地を肥沃な農場に改良するという計画にそもそも無理があったらしい。
噂によると、誰か偉い人が粛清されて、この事件は終わりになったとか。
全てを失った僕の人生は続いていくのに、何が終わったというのだろう。


雨が降っている。
演習場から宿舎まで走って帰れと言い残して、訓練教官は車に乗り込む。
少年らが訓練で疲れた体に重い装備を背負い、ぬかるむ道を歩き、宿舎までどうにか辿り着くと、仲間が数人消えていた。
脱走か、脱落か。
訓練教官は舌打ちをして、どちらでもいいから装備だけ回収してこいとびしょ濡れで空腹の僕らに命令した。


雨が降っている。
「敵補給部隊を足留めしてこいだってよ」
少ない食事を終えた後、リーダーが任務を説明する。
補給部隊とはいえ、偵察によれば護衛の規模はこちらより大きい。
無理だ。やられる。
「だから足留めなんだよ。本命の部隊が来るまで時間がかかる。ああ、近くに少年兵がいたな。あいつらを敵の前に置いときゃ少しは足が鈍るだろう。使い捨てても替えは効く。ま、そういうこった」
ざわつく隊員を見渡し、リーダーは一喝する。
「気合を入れろ!あいつらの思惑通りに死にたいのか!生きて帰ってまたオッサンらに嫌な顔させてやろうぜ!」
おお!と皆が応える。
うちのリーダーは凄い。
少年兵部隊は損耗率が高いのが常だけど、うちの部隊は違う。
きっと今回も生きて帰れる。


雨が降っている。
「撤退の許可を!もう無理だ!撤退を!オーバー!」
『撤退は許可できない。オーバー』
「じゃあ鶏を撃つ許可をくれよ!」
『正気かね?そのような正義に悖る行為を許可できるわけがあるまい。撤退は許可しない。敵のみを撃ち、任務を継続せよ。終わり』
「クソッ!」
最初は順調だった。トラップ、不意打ち、統制された遅滞戦闘。敵が積み荷の鶏をばら撒くまでは。
ヴィ連で生まれた僕たちは、生まれたときから動物を殺すのは悪だと教え込まれてきた。
その信仰の度合いは様々だけど、中には信心深い奴もいる。
引き金を躊躇う者、誤射してショックを受ける者、気にせず撃つ仲間を止めようとする者。つまりは大混乱だ。
リーダーは撤退が出来ないのならせめて鶏を殺すことのお墨付きをもらおうとしたが叶わなかった。僕たちの命は鶏より安いらしい。
仲間が撃たれた。リーダーが撃たれた。僕も撃たれた。
そうして終わりかけた戦場に、突然彼らが現れた。

>唐揚げ3/4
>唐揚げ4/4

#小説 #逆噴射プラクティス #Vの庭先で肉食を #唐揚げ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?