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唐揚げ3/4【Vの庭先で肉食を】

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「雨が…」
雨音に目覚めると天幕の中だった。
枕元に女の人が座っていて、視線を向けるとこちらを振り向く。
「お、目が覚めたかね、少年兵」
「ここは…?いった!」
激痛で意識が覚醒する。
「撃たれたのが肩で良かったね。傷痕は残るけど、元通り動かせるようになるってさ」
見ると左肩が包帯で巻かれ、他にもあちこちに治療の跡があった。
「…ここはどこ?」
「ふっふふふ。ヴェクター!説明!」
「ははは、嫌です。揚げ物で忙しいので。大体その子拾ったのアリサカさんでしょ。自分で説明してくださいね」
ヴェクターと呼ばれたエプロン姿の黒人男性は、こちらに背を向けたままそう答えた。
さっきから雨音だと思っていたのは、どうやら彼が何かを揚げている音だったらしい。
「えぇ~…確かにそうだけど…しょうがないなあ。えーとね、私たちは」
「戦場にいた人でしょ。狼っぽい感じの」
「ふふ、そう、その狼です。実際そう呼ばれている。ま、補足すると我々はPMC、つまりは傭兵でね。ヴィ連の依頼を受けてあの補給部隊を襲った。そして、ほっとくと死にそうだった君を拾ってあっちのヴェクターが治療しました。おわり」
「えっと…ありがとう。でも助けるのは仕事じゃないんじゃなかったの?」
「うっ、覚えてたか…」
「ははは。このお姉さんは酷い人だけどお腹空かせた子どもに弱いんだよ。君の最後の一言が効いたのさ」
「余計なこと言わなくていいよヴェクター!」
アリサカが拳を振り上げて抗議する。
その時、

ぐう。

二人の視線が僕に集まる。
話を聞いて体が空腹を思い出したらしい。それにさっきから美味しそうな匂いも漂ってくる。
「ヴェクター。唐揚げふたつ」
「アリサカさん、彼は」
真面目な顔のアリサカに、真面目な顔のヴェクターが何か抗議しようとする。
「誰が何を食べてもいい。だが選択肢は必要だ」
「…」
結局ヴェクターが折れたらしい。“カラアゲ”をふたつ載せた皿を持ってきた。
それを受け取り、アリサカが静かに話し始める。
「君はヴィ連で生まれ育った。そうだね?」
「うん」
「当然、肉を食べたことはなく、その機会もなかった」
「うん…」
アリサカが“カラアゲ”をひとつ摘み上げる。
「もう気付いていると思うけど、我々は肉食者だ。そしてこれは、君と君の仲間が守ろうとした鶏の肉だ」
イタダキマスと言ってから、アリサカは唐揚げに噛り付く。湯気が舞う。肉汁が指を伝う。それを舐め、残りも口に放り込む。
それはとてもとても美味しそうで、思わず喉が鳴ってしまうほどの食べっぷりだった。
そうしてひとつ食べ終えたアリサカは、もうひとつをこちらに差し出してくる。
「君はこれを食べてもいいし、食べなくてもいい。食べないのなら主義者用の食糧を与え、その後は原隊まで送って差し上げよう。だが、食べるのなら覚悟を決めろ。二度と祖国の枠組みへは帰れなくなる。ああ、憎き肉食者である我々と戦うという選択肢もある。お勧めはしないがね」

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#小説 #逆噴射プラクティス #Vの庭先で肉食を #唐揚げ

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