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観賞中、隣の声が気になったらどうする?ーArtとTalk㉛ー

皆さんこんにちは、宇佐江です。
今回の「ArtとTalk」は美術だけでなく、映画、舞台、コンサートなども含めた「鑑賞の場」でのあるある問題。
「隣の声(または音)が気になるとき、どうする?」というテーマです。

美術館での会話問題については、以前こちらの記事でお話しましたが

今回は、「是か非か」ということは少し置いておいて、自分が困った状況のときどう行動するか?について考えたいと思います。ただ、本文はあくまで私の個人的見解であり、どこかの施設のオフィシャルな考えではないことを、あらかじめご了承ください。

自分ならどうするかな?
と、想像しながらお読みいただけると嬉しいです。

それでは、参りましょう~!




行動①直接言う

いきなりですが私は過去、コンサートホール、セレモニーホール、現在は美術館の展示室スタッフとして働いています。
これらに共通するのはずばり、
「物音や声にとても気を遣う場所である」
ということ。
つまり、おそらく私は他の人よりも、職業病的に物音や声に敏感なのです。にぎやかな隣席に声をかけた経験も過去に2度あります。

1度目は大学時代。
とても楽しみにしていた某演歌歌手のコンサート中、隣のご婦人3人組がずーっとおしゃべりしていて、曲中もお構いなしでマイクと張り合うように声を上げるので、我慢ならず「静かにしてください」と1度ならず2度までも声をかけました。それでも、返事だけして改善ならず。多分、その人たちは常連さんだろうし、まわりの客層もそのような人が大半で、真剣に、生の歌声とお姿を胸に刻むべく集中している私の方があの会場では少数派だったのでしょう。

そして2度目の声かけ経験は、実は今年。
映画館で高齢ご夫婦の会話、特に私のすぐ隣に座る奥さんの、大きさでいうと日常会話レベルの声量が気になって仕方ありませんでした。
でも、言うか言うまいか、かなり長く迷ったのです。
その時観ていたのは『憧れを超えた侍たち 世界一への記録 2023 WORLDBASEBALL CLASSIC』。今年の春、日本全国を感動させてくれたあの大会のドキュメンタリー映画。もともと野球ファンで、WBCも熱狂して見ていた私にとって、そのひとときは、大学時代のあの公演と同じくらい集中して味わいたい時間でしたが、ふつうの映画と違い、作品の内容は、いうなれば気合の入ったテレビ特番のような雰囲気。お茶の間でテレビを観ているノリでお隣さんが楽しんでいても、不思議ではありません。話の内容も、
「ああやっぱり、ほらあの人、○○だったもんねえ」
「ああ~そういうことだったのねえ」
など、実家の母を思い出すような、テレビ視聴者なら鑑とも言いたいある種微笑ましいリアクション。

けれど…私…
これ観るのに2000円払ってるんですうううううう(心の声)!!

そう、映画はもはや安価な娯楽ではありません。この時私が訪れた映画館のウェブサイトにも「上映中のおしゃべりはご遠慮下さい。」としっかり明記されています。現に私の隣以外は(聴こえる範囲で)誰も目立ったおしゃべりはしていません。悩んでいるうちに映画はどんどん進行し、ご夫婦は順番に席を立ち、お手洗いに中座されました。
(ああ、戻ったらきっと余計おしゃべりが加速する)
と予想した私は意を決し、隣のご婦人が次に話し出したタイミングで服の裾をそっと引き、「シーー!」と動作で訴えました。
幸い彼女は謝って、「静かにしてって」とその向こうの旦那さんにも私の抗議が伝わり、完全に会話がやんだわけではないけれど、音量はかなり下げてくれました。

結果的に、あの時勇気を出して良かった。

そのあと終盤に「あの」名場面(未鑑賞の方のためご想像にお任せします)で映画の中の大歓声が急に無音になる演出があり、隣のご婦人が何か言いそうになるのを必死に堪える気配がしました。映画館じゅうがシーンとなったあの瞬間にしゃべったら、多分、他の観客にも怒られていたと思います。

「あの人うるさいなあ」
と気になっても、席が離れたところからは注意しづらいもの。隣に座ってしまった人は、自分も我慢しなければならないと同時に、他の観客からのプレッシャーまで背負っている気がして余計に疲れます。
勇気を出して(穏やかに)注意してくれた人には、ぜひ「あっぱれ」をあげて欲しいです。


行動②逃げる

では美術館はどうでしょう。

実は、上記のようなコンサートホールや映画館と、美術館とでは対処法に大きな差があります。それは、席が固定されていない美術館では「逃げる」という選択肢があるということ。

そもそも明確に「お静かに」を謳っているコンサートホールや映画館と違い、このnoteでもたびたび申し上げていますが、美術館には「静かにしなければならない、会話してはいけないというルールはない」のです。(もちろん施設の方針により様々ですが、一般的に。)

静かに鑑賞を楽しみたいか?
誰かと会話しながら鑑賞を楽しみたいか?

それは本来各々の自由であり、うまい具合に共生できるのが理想。けれど日本の場合、美術・博物館の成り立ちの歴史や、国民性、美術館に対する一般的な強いイメージなどから、どちらかと言えば圧倒的に「静かな状態がスタンダード」だと現状は思われています。
まわりくどいですが、このニュアンスをあえて毎回お伝えしているのは、「静かにしたくてもできない人」もいること。お子さまや、障がいを持った方、高齢でお耳が遠い方などもいます。その方たちが、静かにしなければいけないなら美術館に行けない、行きたくない、と思って鑑賞の機会が失われてしまうのは大変もったいないことです。

一方で、「静かに観たい派」の人にひたすら我慢を強いるのも、それはそれで、美術を愛する人たちの気持ちを冷ませてしまいかねません。

先日こんなことがありました。

私が某美術館にて鑑賞中、その展示では一部を除いて会場全体が撮影OKだったのですが、私のすぐ後に入場してきた女性が、観るものすべて、作品だけでなく説明パネルやキャプションに至るまで几帳面に写真におさめていました。ほとんど、肉眼で観ていないと言っていいスピード。
「図録用撮影?」
と思ってしまう程ですが、恰好やお連れ様の様子からもちろんそうではありません。そして問題は、彼女の持つ、大きな一眼レフカメラの音でした。

ピッ…カシャッ!
ピッ…カシャッ!

ピントを合わせる「ピッ…」のあと、派手な「カシャッ!」。これが延々、一定の早いピッチで繰り返されるのにはちょっと困ってしまいました。

ひとまず、すぐ隣に迫っていた彼女をやり過ごし入り口に逆戻りして、私は「ごあいさつ文」を丹念に読み直して時間稼ぎする作戦に出ました。距離が離れれば気にならなくなるだろう。
ところが、平日夕方の空いた展示室はひときわ静かで、なんと、彼女が次の展示室に行き姿を消したあとも、パパラッチなみに派手な「ピッ…カシャッ!」が遠くからバッチリ聴こえてしまっていたのです。

そこで私は本格的に「逃げる」ことにしました。近くの監視員さんに声をかけ、極力穏やかに、
「すみません、やっぱりコレクション展の方を先に観たいんですけれど、再入場ってできますか?」

これぞ美術館通の秘儀、「コレクションから先に観る作戦」(そのまんま)!!

状況的に、悪気がない人に苦言を呈するのは気が引けるのが人情。さりとて自分の気持ちに蓋をしてせっかくの楽しみな時間を汚したくない。そんなとき、企画展の影に隠れてふだんは目立たない存在のコレクションルームが強い味方となって、クールダウンをさせてくれるのです。

おかげでこの日、私も間を置いたことでうまくカメラ音から逃げることができました。


美術館で近くの人のおしゃべりや音が気になってしまった時は、ぜひ、この方法をお試しあれ。







今週もお読みいただきありがとうございました。鑑賞スタイルはひとぞれぞれ。自分の楽しむ気持ちを抑える必要はないけれど、夢中になって他の人の迷惑になってしまっていないかどうかは、忘れずにいたいですね。
ちなみに美術館の中座による再入場は、「出る前に」入り口で声をかけると手続きしてもらえますよ。

◆次回予告◆
『ArtとTalk㉜』久々に、ひとりで美術館ハシゴ旅!さて何県?

それではまた、次の月曜に。


*美術館での撮影問題についてはこちら↓

*その他、宇佐江の語るアートへの扉はこちら↓








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