室瀬祐 | 工房 山のは

この度、生まれ育った東京を離れ、茨城県奥久慈地方に「工房 山のは」を開くことになりまし…

室瀬祐 | 工房 山のは

この度、生まれ育った東京を離れ、茨城県奥久慈地方に「工房 山のは」を開くことになりました。漆芸作家として、作品の制作とともに漆生産地の未来に役立てるよう活動していければと思います。うまくいくこともいかないことも、あたたかく見守っていただければ幸いです。

最近の記事

「山のは」より - 2024/4/30 穀雨

拝啓 奥久慈に春が来ました。春爛漫です。初めての夏も秋も冬も、私にとってはどれも魅力的でそれぞれに違った美しさに感動してきましたが、ここへきてダントツで美しい季節がやってきました。まさに花盛り。 桜はもちろんのこと、コブシ、レンギョウ、木瓜、ツツジ。今はサツキと大手毬。足元を見れば菜の花、水仙、タンポポ、スミレ、ハナニラ、カラスノエンドウその他名前の知らない花々も、全身に春の風をうけて気持ちよさそうに揺れています。 花もさることながら、心を震わせたのは木々の芽吹きの美しさ

    • 「山のは」より - 2024/3/31 春分

      拝啓 令和5年度、最後の夜です。 今日は全国的に暑く、東京は3月の歴代最高気温を3度も更新したとニュースで報じられていました。今年は3月に入っても寒さが続き桜も遅い開花となりましたが、突然のこの陽気、いかにも近年の気候変動らしい急展開です。 工房のある諸沢も日中は初夏を思わせる日差しと暖かさでしたが、家の中は涼しく、窓を開けると心地よい風と沈丁花の香りが通り抜け、穏やかな気持ちで過ごすことができました。 山の季節は冬から春へ、みるみる変化を遂げていきます。足音はしないま

      • 「山のは」より - 2024/2/15 立春

        拝啓 今週は季節外れの4月並みの天気でした。山のはにも、ところどころに春が見られるようになってきました。朝の冷え込みも幾分落ち着き、日中はダウンジャケットなしでも外を歩けるくらいの暖かさです。 奥久慈の冬は寒いと聞いていたので、晩秋から怯えていたのですが、気づけば寒さの峠を超えたようです。季節は驚くほどに、日々移り変わっていきます。 真っ先に春を報せてくれたのは福寿草。庭に2箇所、眩しいほどに明るく黄色く光る大輪の花を咲かせてくれました。福寿草は早春のこの時期以外、どこに

        • 「山のは」より - 2024/1/8 小寒

          拝啓 こんなにも複雑な気持ちで新年を過ごすのは初めてのことと思います。 歳の瀬、慌ただしく一年の諸々を片付け、来る年に向けてできる限りの準備をし、嬉しかったことも辛かったことも全て自分の中で整理して、来る年が良いものになるように、そう願って元日を迎えるのです。 その元日に、大きな震災が起きてしまいました。 能登半島をはじめ、北陸地方は日本の漆産業の根幹を支えている地域です。中でも輪島は、私個人にとっても縁の深い、思い入れの深い土地です。 私の祖父は現在の能登町に位置す

        「山のは」より - 2024/4/30 穀雨

          「山のは」より - 2023/12/26 冬至

          拝啓 「山のは」は初めての冬を迎えることとなりました。寒い寒いと聞いていた奥久慈の冬は、確かに寒いです。12月に入ったあたりからちらほらと氷の張る日があり、ここ数日は毎朝氷点下まで下がります。 もちろん日本各地を見ればもっと気温が低い地域はあるのですが、東京の温暖な冬に慣れていた私には十分寒いです。しかし寒いからといって嫌気がさすかというとそうでもなく、むしろはっきりと肌で冬を感じられるのは、懐かしいような嬉しさがあります。 冬に入って気づいたことがあります。それはどうや

          「山のは」より - 2023/12/26 冬至

          「山のは」より - 2023/11/8 立冬

          拝啓 お変わりありませんか。私は少し体調を崩していました。言うまでもなくこの突然の寒さ到来が原因の一つでしょう。そんな展開になるのだろうと覚悟はしていましたが、長すぎる夏が終わったとたん、堰を切ったように季節は進み、今朝は氷が張っている始末。体がついていかないのも、ひとつ多めに見てやってください。 寒くなってきたとはいえ、まだ秋のうち。紅葉は綺麗に色づいて日々の車の運転も気持ちよく。そして何より茨城県は食材の宝庫です。先日もお米の美味しさについて書きましたが、秋は柿に林檎に

          「山のは」より - 2023/11/8 立冬

          「山のは」より - 2023/10/4 秋分

          拝啓 遂に。長い長い、暑い暑い夏が終わりましたね。諸沢にも秋がやってきました。 早朝、台所脇のくたびれた引き戸を開けると、ピンと張り詰めた、ひんやりとした空気が流れ込んできます。外は青空、太陽の光がキラキラと朝露を照らし、冷たい風がとても心地よく、山あいを流れてゆきます。待ちに待った秋です。夏が痛烈だった分、涼しさが身に染みてありがたく、目に入る色々なものが美しく感じます。 金木犀も咲き始めました。子供の頃、秋の夜、風に乗ってどこからともなく漂ってくるあの香りがたまらなく

          「山のは」より - 2023/10/4 秋分

          「山のは」より - 2023/9/13 白露

          拝啓 いつまでも暑い日が続きますね。お元気ですか、という挨拶さえ憚られる気候です。台風もきました。諸沢は山に守られ大雨に遭わずに済みましたが、僅か10kmほど離れたところでは甚大な被害があり、あらためて自然の脅威に打ちのめされる思いです。大きな力に脅かされ、同時に大きな力に守られ、そのうえで自然に魅せられるとはどういうことなのか…などと難しいことを考えてしまいます。 新しい生活が始まって3か月が経ちました。はじめは生きていくことに精一杯で、とにかく空元気でも前に進まなければ

          「山のは」より - 2023/9/13 白露

          「山のは」より - 2023/8/15 立秋

          拝啓 お盆です。田舎のお盆は忙しいと聞きます。自分自身は、今年は帰省もせずなので、むしろ仕事が捗る連休ですが、まわりはいつもより少し慌ただしい空気が漂っています。 普段静かな我が家の前をいつもより多くの車が行き来し、時々、道案内を求められたりもします。しかしこちらはといえば、引越してきてまだ2ヶ月の新参者なので、「たぶん…」「…と思います」などと歯切れの悪い返事しかできないので申し訳ない気持ちになります。早く道案内くらいはできるようにならないと。 夏の風物詩といえば、スイ

          「山のは」より - 2023/8/15 立秋

          「山のは」より - 2023/7/18 小暑

          拝啓 暑い日が続きますね。今月の初めまで、山は涼しいです、というようなことを言っていましたが、そうも言っていられなくなってきました。確かに朝は涼しいので助かりますが、日中はといえば普通に暑いです。 そして山の生活において暑い日とセットでやってくるのが激しい夕立。これが一筋縄ではいきません。聞くところによると気温が高くても風がある日は夕立が来ないのだとか。ものすごく暑くて風がないと夕方に嵐のような雨がやってくることがあります。 雨自体は嫌いではないですし、夕立がきてくれれば

          「山のは」より - 2023/7/18 小暑

          「山のは」より - 2023/7/5 夏至

          拝啓 暑い日が多くなりましたが元気でお過ごしでしょうか。 各所で暑さや大雨が騒がれているようですが、私が住んでいる諸沢という集落は茨城の中でも比較的涼しいようです。中でも我が家はいくらか山を登ったところで風が心地よく、朝晩は布団を被らないと体が冷えるくらいです。 子供の頃から、植物の匂いがする山の風が好きでした。時々、旅行の際に触れるたび、毎日こんな風の匂いを嗅ぎながら生活がしたいなと憧れたものでしたが、今その夢が一つ叶っていると思うと感慨深いです。 この1ヶ月は激動で

          「山のは」より - 2023/7/5 夏至

          「山のは」より - 2023/6/10 芒種

          拝啓 入梅の候、いかがお過ごしでしょうか。今日は大事な報告があり筆を執りました。 この度生まれ育った東京を離れ、茨城は常陸大宮市、奥久慈地方というところで漆の工房を開くこととなりました。なぜまたこの場所に引越すことになったのかというと、これはなかなかに話が長くなりますので、追々お便りの中でお伝えできればと思っています。 引越し当日はまさかの台風に見舞われ、大騒動でした。朝から土砂降りの大雨…何もこんな日にと、ツキのなさを恨めしく思いそうなものですが、これはここ数年の私のジ

          「山のは」より - 2023/6/10 芒種