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「山のは」より - 2023/9/13 白露

拝啓 いつまでも暑い日が続きますね。お元気ですか、という挨拶さえ憚られる気候です。台風もきました。諸沢は山に守られ大雨に遭わずに済みましたが、僅か10kmほど離れたところでは甚大な被害があり、あらためて自然の脅威に打ちのめされる思いです。大きな力に脅かされ、同時に大きな力に守られ、そのうえで自然に魅せられるとはどういうことなのか…などと難しいことを考えてしまいます。

台風翌日の袋田の滝(大子町)

新しい生活が始まって3か月が経ちました。はじめは生きていくことに精一杯で、とにかく空元気でも前に進まなければと、盲目的に自分を奮い立たせてきましたが、この頃は良いことも大変なことも、少し冷静に見えるようになってきました。

やらなければいけないことが次から次へと目の前に現れ、必死で対応しているうちにみるみる日は傾き、夜にはぐったり。今日もこれしかできなかったな…と頭を抱えることも多々あります。次第に生活にルーティーンらしきものが見えてくると、今度は「同じような繰り返しだな」と不安に苛まれる瞬間もあります。

元来同じことを繰り返すのが苦手な性格で、常に新しいフィールドを求めて走り回る節があります。ただ、最近は毎日違うものに追われすぎているせいか、繰り返しに対する感覚も少し変わりました。落ち着いて仕事場で朝から晩まで仕事をする、というような日を何日か続けられるととても充実した気持ちになります。早すぎる時間の経過には相変わらず頭を抱えるわけですが、振り返ってみると案外前進していることに気づきます。安定した繰り返しの生活を得るということは、実は、大きな推進力を得るということなのかもしれません。

いずれにしても課題山積で途方に暮れる日々ですが、救われるのはやはり眼前に広がる山の美しさ、その合間にのぞく空と雲。この3点セットの浄化力はすごいです。「苦しいなあ」というときは少しの間じっと山、空、雲を見ます。次第に「苦しいけど、頑張るか」に変わっていきます。体の不調も、諸沢へ来るまでは一度崩れると一週間くらい引きずっていましたが、今はすぐに持ち直せます。そもそも、あまり体調を崩さなくなりました。

山の端から湧き出る壮大な雲

不甲斐ない自分を支えてくれているもう一つの力は、やはり人です。先日こちらへ来てから一番落ち込んでいた時に、旧知の大先輩が「あなたも仲間です」というメッセージをくれました。自分の悩みとは全く無関係の文脈でしたが、タイミングがタイミングだったもので、うっかり泣きそうになってしまいました。

引越して初めての漆畑見学会ができたことも励みになりました。来てくれた方々はもちろんのこと、漆生産組合の方々にも相談に乗っていただき充実した2日間となりました。多くの優しさに支えられていることを痛感します。親族や友人なども、毎月誰かしらが訪ねて来てくれます。一緒に何かやろうよ。困ったら声かけてね。そんなふうに言ってくれる人たち、言葉にしなくても手を差し伸べてくれる人たち。本当に感謝してもしきれません。

講師を務める大学の学生たちが畑の見学に

自分の力が及ばず、失敗もたくさんあり、そんなふうに支えてくれる人たちにきちんとお返しができていません。いつかちゃんとお返しができるように日々積み重ねていかなければと思います。

奥久慈の田んぼが美しい黄金色に輝いてきました。秋の奥久慈も魅力がたくさんあると聞いています。今年の実りが良きものになるように祈りつつ、晩夏のご挨拶とさせていただきます。敬具

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