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「山のは」より - 2023/12/26 冬至

拝啓 「山のは」は初めての冬を迎えることとなりました。寒い寒いと聞いていた奥久慈の冬は、確かに寒いです。12月に入ったあたりからちらほらと氷の張る日があり、ここ数日は毎朝氷点下まで下がります。

もちろん日本各地を見ればもっと気温が低い地域はあるのですが、東京の温暖な冬に慣れていた私には十分寒いです。しかし寒いからといって嫌気がさすかというとそうでもなく、むしろはっきりと肌で冬を感じられるのは、懐かしいような嬉しさがあります。

冬に入って気づいたことがあります。それはどうやら、この築150年の古民家の立地条件が、私の想像を超えてすばらしいということです。

山を背負って立つ築150年の家

夏、私はこの家に越してきたばかりでいきなりの猛暑を乗り越えなければならなかったのですが、家には南北に涼しい風が通り、日中でも(あくせく働いていなければ)涼しく過ごせることに感動していました。しかも朝は東側の山が朝日の出る時間を遅らせ、夕方は西の山が西日を防いでくれる。家に太陽が照りつける時間は夏の割に短く、夜は比較的早く涼しくなっていました。

なるほど、これはよく考えられた夏の家だな、などと感心していたのですが、実はこれには続きがありました。夏がこれだけ涼しかったので、冬はさぞ日が当たらず、寒い家なのだろうと覚悟していたのですが、その想像は良い意味で裏切られました。

冬の太陽は日の出の位置が南にずれ、東の山を避けるように早く日が昇ります。ちょうど南の山の稜線に沿うように移動し、一日中ぽかぽかと家を照らし続けたあと、夕方は、日の入りが西の山より南にずれ、夕刻まで綺麗な西日を拝むことができるのです。

南の縁側は日向ぼっこに最適

さらに、風の変化にも驚かされました。夏の間南北に吹き抜けた風は、冬は東西に向きを変え、家の南側を通るため、びゅうびゅうと音を立てるような強風の日でも建物にはほとんど風が当たらないのです。

恐らく、150年前にこの地に家を建てた方はこの諸沢の地を熟知していたのだと思います。一年を通して、太陽の動き、風の流れ、水の流れ、土の性質、地盤の強さ、土地を構成するさまざまな要素を理解した上で、これ以上にない好条件の土地を選び抜いたのでしょう。だからこそ、150年という長い時を超えて、家は守られ、愛されてきたのだと思います。

何かが残る、というのは不思議です。人の力で意図的に作為的に守られるものでありながら、その奥には風や水の流れのように、残るべくして残る何らかの理由があるようにも思われます。自然の摂理と人の想いが合致した時、大切な文化が奇跡的に伝えられていくのかもしれません。

漆の文化もまた日本という土地に残るべくして残ってきたものだと思います。残したいという、人の心が途絶えさえしなければ、次の世代にもきっとこの魅力が受け継がれます。一年の最後に、そんな希望を描いて新年を明るい年にしたい。そんなことを考えている次第です。

近所の方が作ってくださったしめ縄をリースに

先日、こちらでお世話になっている方々をお招きし、みんなで奥久慈の郷土料理「けんちん蕎麦」を食べる会を開きました。こちらについてはまた機会を作って、お伝えしたいと思います。けんちん蕎麦はとても美味しいです、ということだけご報告しておきます。

いよいよ年末。寒さも厳しくなります。何かと忙しいことと思いますが、お体に気をつけて、良い新年をお迎えください。敬具

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