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「山のは」より - 2024/5/31 小満

拝啓 5月、「山のは」は目まぐるしく新緑の季節を走り抜け、深い緑の季節となりました。

4月から5月は本当に忙しく過ぎてゆきました。新年度、特に小さな子どもがいるとそのせわしなさは桁違いです。毎週末何かしらのイベントがあり、クタクタになった体で月曜から仕事を再開、という2か月でした。

5月、子どもたちは田植え体験も

しかし諸沢の山はとにかく綺麗で、日々の疲れも山の風にほどけていきます。日々が大変なことは以前から変わりませんが、ひとあし外に出れば光、香り、音、五感で感じる山の色が体を浄化してくれることが、ここでの生活の醍醐味です。

初夏ではありますが、山の中は暑いというよりは爽やかな日々で、朝は10度近くまで下がるので肌寒いくらいです。春が長く感じられ、これもまた喜びです。

良いこともたくさんありますが、苦労話も尽きません。

以前この便りでも書いた、今年度から新しく作り始めた漆の畑では着々と新芽が伸び、最初の草刈りを行いました。まだ5月も初めの頃だったので、さほど草の勢いも強くなく、涼しい気候の中、程よいウォーミングアップのような草刈りとなりました。

今年植えた苗がすくすくと育っています

この畑は本当に環境が良く苗も元気そうで、これから10年という歳月をかけて美しい漆畑に育ってくれるだろう。そう思っていた矢先、最初の困難がやってきました。5月中旬、グループを率いるメンバーから一件のLINEが入り、慌てている様子。残念なお知らせ。どうやら畑のパトロールをしたところ、全株にダニが発生していると…。

この地域では近年ウルシノキにハダニが発生することがあり悩みの種となっています。少し前までは原因不明だった木の病のようなものが、最近になってハダニの仕業であると判明したのだそうです。ハダニは新芽や若い葉っぱに付き、数が増えると葉が枯れてしまう厄介な相手。育ちが悪くなり、小さな苗だと株ごと枯れてしまうことも。枯れなくても生育には少なからず影響が出るし、中央の幹になる部分の新芽がやられると、木が真っすぐに育たず、二股に別れたり曲がりくねったり、漆掻きのしにくい樹形になってしまいます。

連絡をもらった翌日、仕事が終わった夕方に急遽ダニ駆除の薬剤散布をすることになりました。ダニ自体はさほど強いものではなく簡単な薬剤散布で駆除できるので、ひとまず今発生しているものは退治しました。ただ、卵が残っていたり、新たに発生したりする場合もあるので、7月始めくらいまでは油断してはならないのだそうです。2か月ほど、隔週くらいで殺虫作業をするとなるとこれはかなりの負担です。何か良い方法や情報があったら教えていただけると嬉しいです。

やわらかくておいしそうな漆の若葉

一昔前、どこの情報かは定かでないですが「ウルシノキは放っておけば育つから、とにかくいっぱい植えておけば良い」という言葉を聞いたことがありました。漆畑の管理についてまるで知識がなかった自分は、それを鵜呑みにしていたのですが、現状を見ると随分違うようです。植えた後も、きちんと観察をして、何かあった時にはすぐに対応できるよう生産地の方々が気を配っているからこそ立派な漆畑ができ、上質な漆が採れるのだということをつくづく実感しています。

もちろん、ウルシノキが潤沢に育っていて、収穫量にも全く困らない状況であれば、そこまで丁寧に見なくても良いのかもしれません。ですが、現代の漆のあり方を考えた時、減っていく人口の中で、希少性の高い漆の文化を維持していくには、色々な意味でひとつひとつ丁寧に向き合うことが求められているように思います。

まだわからないことだらけですが、生産現場の苦労を知るたび、ひとつひとつ経験を積んでいる今日この頃です。 敬具

宜しければ「工房 山のは」の活動にご支援をお願いいたします。いただいたサポートは、奥久慈漆の植栽、漆畑の管理等の活動に充てさせていただきます。