雨の奥[六]
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物心ついたときには、父はいつも酔っていた。アルコールの匂いが、すなわち父の匂いだった。
酔っている父はいつも大声で叫び、人の話は聞こうともしなかった。
仕事だと言って、家に帰ってくることも少なかった。
父に褒められた記憶はない。そのかわり、怒られたこともない。
父は自分にしか興味がないのである。
そのことに気が付いたのは中学生になってからだった。
いつも母に迷惑をかけ、娘の私には無関心を貫く。
本当にろくでもない父親だ。
私は父が嫌いだった。
良いことをすると自分のことのように喜び、悪いことをするときちんと叱る。
我が子と全力で向き合い、我が子を全力で愛する。
ドラマで見たようなそんな父親が、欲しかった。
母はなぜこんな人のことを好きになったのだろうと、いつもいつも思っていた。
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<つづく>
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