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保育園に通っていた頃、

住んでた家の近くに駄菓子屋さんがあった。

オカンから10円もらって、駄菓子を1つ買って食べるのが好きだった。

そんな頻繁に10円を貰えたわけではない。

だから貰えた日は、駄菓子屋に行って慎重にお菓子を選ぶ。

いろんなお菓子があったが、

その中でも好きだったのが、

えびせんべい。

大きな袋に10枚くらい入っていて、

10円を支払って、その中の1枚をもらう。


ただ、大好きなえびせんべいだが、

駄菓子屋のおばあちゃんの振る舞いで1つ、

その日の運命が変わってしまう。


駄菓子屋のあばあちゃんは、

メガネをかけていて、

笑顔の素敵な優しいお婆ばあちゃん。

基本的には好きだった。

だが、

1つだけ、

どうしても気になることがあった。

気になることは何かというと、

えびせんを袋から1枚取り出すときに、

指にツバをつけて、

そのツバのついた指でえびせんべいを取り出すのだ。

もちろん、基本的におばあちゃんのことは好きだ。

だけれども、

わざわざツバをつけて、

えびせんべいを取り扱うことだけは頂けない。

おばあちゃんがえびせんべいを取り出す時に、

指にツバをつける瞬間、

私は思わず、

「 あ〜〜〜っ 」

と言ってまう時もあった。

それでも、

お婆ちゃんは、

笑顔で、

ツバのついた指で摘んだえびせんべいを、

幼き少年に渡してくれる。

「 えびせんべい好きだね、またおいで 」。

と、ひとツバとひと言を添えてくれる。


どうしても気になってしまう。

でも、幼き少年は、

おばあちゃんが優しすぎて言えなかった。


ただ時々、

忙しい時なのか、どんな理由なのかは分からないが、

指にツバをつけることなく、

えびせんべいを取り扱う時もあるのだ。

幼い頃、

その法則なんて解明する力もなかった。

ただ、運命に任せて、

勇気を出してえびせんべいを買いに行っていたのを覚えている。


昔の方は、

お札や書類をめくる時など、

重なったものから1枚取り出すシチュエーションになった時、

指先をペロッと舐める人がいる。

働くデイサービスの高齢者で、

たくさんの折り紙を周りの人達に均等に配りたい時など、

指先をペロッと舐める仕草を見かける。

そんな時は必ず思い出す。

あの優しかった、

駄菓子屋のおばあちゃんを。


あの時、

どうしても、

えびせんべいが食べたくて、

おばあちゃんが舐めた部分だけ、

パキッと折って、

残りを食べていた。

失礼なことをしてしまっていてごめんね。

今でもその優しい笑顔を覚えているよ。

その節はありがとう。

おばあちゃん、基本的には好きだよ。


運命の分かれ道

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