旅は終わらない

***まえがき***
こんばんは.水の中に沈んだ心や気持ちの欠片をすくい上げるような,すくい上げることができるような,そんな想いを抱きつつ書いていきます.ちゃんと画像を引用していくのは,実は初めてです.これまで頑なに使ってきませんでしたが,気分転換と言いますか,そんな感じで画像を引用しながら作品を描いていきます.では.


***ほんぶん***
こんな気持ちになったのはなんでだろう?
一体誰のせいだろう?
きっと誰のせいでもないのだろう?

こうなることが決まっていたかのように,
こうなることがわかっていたかのように,
心は静かに沸き立っている.

画像1

出発直前はどうしてこうも静かなのか.凪の暇は一瞬がとても長く感じる.
誰も起こさないように,そっと身支度を.
いきなりいなくなると不安になるだろうから,これまで世話になったお礼と,時々報せを入れると書置きをした.少し滲んだサインを添えてドアの手前で中に向かって小さく手を振る.

『少し 旅に出てくるよ』

ドアを開き,空を見上げる.いつも通り世界には太陽が昇り始めていて,夜を照らす星たちはまだ役割を終えまいと懸命に輝いている.

これからの旅も照らしていてくれるだろうか?

帰りたくなったときは,この空を見上げたらいい.どんな場所にいようとも,この空が故郷と繋がっているのだから.

画像2

人が思い切って一世一代の旅に出ようと,世界は一切何も変わらず秩序を保っている.丘を越え,野を走り,森に入る.

陽は昇り,生命で満ち溢れた世界を歩く.本でしか見たことのない世界.

さえずる鳥の声,囁く木の葉,そのすべてが初めて聴く音だ.

勢いよく流れる水流は,弾いた雫を顔に飛ばし,その新鮮さを清涼さを教えてくれた.思わず手を差し伸べ,水に触れる.これが「冷たさ」か.

出会った鳥たちに手を振り挨拶をする.気持ちが徐々に満たされていく.これが『喜び』か.

なんとも言い表せない気持ちを表現しようと,舞い踊った.その様子が滑稽だったのか,森の生き物たちも混ざってきた.これが「ともだち」っていうんだね.ほんの少しの時間だけでも,共に過ごし,知り合うことでともだちになれるんだ.

ここにいたい気持ちも芽生えたが,旅はまだまだ続く.喜びと悲しみが共に訪ねる.ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり,それぞれのあふれる幸せを願いながら,誰もみな 手をふってはしばし別れる.

画像3

遂に地面が途絶えた.視界の先には一面の蒼色の世界が広がった.

「ここが世界の端っこ?」

そう思わせたけど,どうやらこの水の向こうにも何かがあるらしい.
風を受けて帆を張り,舟を進めていく.

いつも通り世界には太陽が昇っていて,眼下の蒼の世界を優しく照らしている.どこにいても太陽とこの空は変わらない.

道中,カモメに手紙を託した.故郷へ宛てた手紙を持たせて「よろしくね」と手を振る.言葉はわからないけれど,「まかせてよ」って言われた気がした.空が繋がっている限り,いつか帰ることもあるだろう.そんな日を思い描きながら,手紙をしたためた.返事は来ないが,きっと素敵な返事がもらえるだろうと,そっと期待している.

画像5

一面の蒼の世界.誰もいない世界.風と波と雲だけが過ぎ去っていく.風の音が耳を掻き,波の音が記憶を呼び覚まし,雲の形が思い出を呼び起こす.良いこともあれば悪いこともあるのが世の常だ.この水の上の天気のように晴れていたと思えば暗雲が立ち込めていくように,世界はいつも不安定だ.波にのまれ,風に揉まれ,雨に打たれ,苦楽を共にした身体には生傷が絶えない.旅は心身を丈夫にしていく.
そう,何度だって苦しい思いをしても,きっとまた楽しいことがあるだろうと期待する.だから,旅は辞められない.

画像4

いつの間にか眠ってしまっていた.月明りが照らす,光と闇の狭間.波打ち際の音が懐かしい.新しい陸にたどり着いた.
地に足をつける.どこに向かおうか.


いや…………


すこし波打ち際で時を過ごそうか.そういう旅も悪くないだろう.


波は穏やかで,心の闇を洗い落としてくれる.陸から押し寄せる風はどこか新しい香りを醸し出し,これからの旅を期待させてくれている.もう少し待っていてくれ.この一瞬は,何にも縛られずに過ごしたいんだ.

月が沈もうとしている.もうすぐ夜明けなのだろうか.遠くが明るい.

旅を始めてからどれだけの時間が経ったのだろうか……
故郷の幸せを,知り合った友の幸せを祈り,その思い出を振り返りながら,身体からぬくもりが消え,寂しさに心を冷やしながら深い眠りに入っていく...

波の音だけが,唯一のゆりかごだった.

画像6

明け方の太陽は薄っすらと霧がかかっていた.ぼんやりと霞んだ目をこすり,伸びをする.目を凝らすと舟は沖に浮かんでいた.
もう,戻れない.
太陽に背を向け,これから歩む道に影を伸ばしながら,そのまなざしは前を見据え,歩を進めていく.

砂浜に,新たな一歩の足音が響いた.

これから歩み始めるのは新たな旅だ.今,その狼煙をあげたのだ.

この先,いろんな出来事が待ち受けていることだろう.これまで歩んできた道のりは,きっと正しかったのだと祈りを捧げる.これまで出会った友との再会を期待し,いつか出会う新しい友へ気持ちを昂らせ,新たな世界を切り拓いていこう.

旅路の果ては,まだまだ先だ.

画像7

ここから先は

0字

¥ 100

いただいたサポートは活動費(酒代)に充てさせていただきます。いつもありがとうございます。思う存分酔います。